第43話-転校生-
「刑事ってことは、永井さんも知ってたの?」
永井さんは一言も父さんのことについて喋っていなかった。
「うん…」
永井さんまで……。
「それより…父さんは今、どこに?」
「分からないの…信士が記憶喪失だって聞いて、少し経ってから急に姿を消して…」
「そうなんだ…」
知らないことを沢山知り、信士にとって疲れる1日だった。
「今日も、やるぞー!」
駅伝本番まで、あと2週間ちょっと。
練習にも、いつも以上に熱がこもっていた。
この日の練習は外周。
いつものように走っていると、
「ん?」
信士は何かに気づいた。
「浩太、あれ」
信士が指を指した方向には、
「柊君…?」
柊は毎日、長距離の練習風景を見続けていた。
柊は自分がいることがバレたことに気づき、逃げ出した。
「信士…追っかけるぞ!」
「えっえぇ!?」
浩太は柊君を追いかけ始めた。
「哲、ごめん。ちょっと、行ってくる」
哲はあっけにとられていたが、とりあえずは頷いてくれている。
「柊君、待って~」
柊を追う、信士と浩太。
しかし、差が縮まる気配はない。
「ちょっ柊君、足速っ」
何者なんだ?
そう思うぐらいに、柊君の体力は底知れず、なかなか差が縮まらない。
と、柊君は行き止まりにさしかかり、やっと追いつくことができた。
「はぁ…はぁ…」
3人とも、息を切らしておりなかなか喋ることができない。
「…柊君…陸上部だったって、長距離だったんだね」
「…なんで…言ってくれなかったんだ…よ?」
息も絶え絶え、2人は柊君に質問をぶつける。
「…僕は…走るのが好きだった……」
「…だから、毎日…毎日…走って頑張ってきたんだよ…」
「でも…誰も認めてくれなかった……前にいた陸上部には…本気でやろうなんて人はひとりもいなかったんだ……」
ぽつぽつと話続ける、柊君。
信士と浩太は黙って、話を聞いている。
「そんなとき、陸上部は急に廃部になった」
「全員、やる気がないから、在ってもしょうがないからって勝手に…」
黙って聞いていた、2人には信じがたい話だった。
「…それで…この学校に?」
「ううん、転校はたまたま…」
「もう一回、ここで走ればいいじゃん!」
浩太が言った。