第40話-クラスメイト-
笑顔の生徒達。
戸惑った様子を隠しきれない信士に薄く笑いかけ、詩織は席に着いた。
来る生徒、来る生徒がそれぞれ信士に笑顔を見せ、席についていく。
なんだか変な感じだったが、不安だらけだった信士にはありがたかった。
「信士…!?」
名前を周りとは違うどこか驚きの混じった声で呼ばれた。
振り返ってみると、そこには、エメラルバッグを肩に下げ、日に焼けた少年が立っていた。
「おう、圭太おはよう」
周りにいた1人が言った。
「信士、生きてた~」
「圭太」と呼ばれた少年はそう言って、抱きついてきた。
「や~、良かった良かった」
信士が困った顔をしていると、1人が控えめに言った。
「こいつ、沖田圭太、野球部なんだ」
「へ、へぇ~」
「ほら、全員席に着け~」
九条先生が教室に入ってきながらそう言う。
と、後ろから一緒に1人の生徒が入ってきた。
「あれ、誰だ?」
どこからともなく声が聞こえる。信士は詩織に呼ばれ、やっと席に着いた。
「隣だったんだ?」
「うん」
「今日はまず、転校生を紹介する」
「高野中から来た、柊 俊哉君だ、じゃあ挨拶頼む」
「は…はじめまして…えっと…前の学校では、…一応……」
「…一応…陸上部でした………」
「おぉっ!陸上部!?」
大きな声と一緒に浩太が入ってきた。
「なに遅れて来てんだ。どうせ、今日から学校なの忘れてたんだろ」
「は、ははは……」
どうやら、図星だったようだ。
「それから、信士にも挨拶してもらうか」
急に指名され信士は焦った。
とりあえず、信士は黒板の前に立ち、
「ぼくは、夏休みより、前のことを覚えていません」
「…………」
「でも…今日、学校に来てみんなが笑顔で迎えてくれたのは嬉しかったです」
「これから、よろしくお願いします」
「………」
「なんか、信士らしくないな」
「堅苦しいよ~」
ハハハハッ
教室は笑いにつつまれた。
「今日、朝会あるから体育館行くぞ」
九条先生に言われ、生徒達は一斉に廊下に出る。
柊と信士もどうすればいいのか分からなかったが、とりあえず教室を出た。
なんとか、列に並び、体育館へ向かう途中、浩太が小声で言った。
「信士、詩織には感謝しとけよ」
「……?」
「記憶喪失って言葉禁句にして、信士が来たときは笑顔で迎えるようにってみんなに呼びかけたの詩織なんだぞ」
あっ……
そうだったんだ。
信士は詩織の方を見た。
「あ、でも言うなよ、オレが怒られるから」
ここなら、やっていける。
信士は浩太の話を聞きながら、そう思った。