第37話-ランナーズハイ-
1人目…2人目……
前にいる選手を次々に抜かしていく。
いける!!
「ハァ…ハァ…」
前から二番目を走っていた浩太に並び、ついに、抜かした。
浩太は驚いたような、悔しいようなそんな顔をしている。
そして、水時を射程距離に捉えた。
信士はさらにスピードを上げた。
水時に並び、『抜かした!』
そう思った瞬間、
水時はスピードをグンと上げた。
信士も必死について行こうとする。
ラスト100メートルにさしかかったところで、
「あばよ…」
水時は勝ち誇ったように言い、本気のラストスパートをかけた。
くぅッ!
信士はついていこうとしたが、後50メートルぐらいのところで力つき、水時の背中が離れていくのを感じた…。
信士はゴールと共に倒れ、なかなか立ち上がれなくなった。
結果は2位。
普通に考えれば、優秀な成績だが、信士にとっては、水時に勝てなかったという悔しさだけが残った。
「そんな、浮かない顔すんなよ」
呼吸が落ち着いてきた頃に東條君と同着で3位だった浩太が言う。
「十分、すげーんだからよ」
「うん…」
「伊達君」
合宿の終わり、沢村先生に呼び止められた。
「は、はい」
「君だったね、初日水時を担いできてくれたのは、ありがとう」
「い、いえ」
東條君からは聞いていたが、確かに凄い人っていうオーラはでていた。
「君は、最後の一周どんな状態だったか自分で分かるかい」
「えっと…確か、急に体が軽くなって……」
そうだ、今まで苦しかったのに急に体が楽になった。なんでだろう?
(自分では、気づいてないのか…)
「ランナーズハイ……」
沢村先生は信士には聞こえないぐらいのこえで小さく呟いた。
「君のお父さんの名前はなんていうんだ?」
お父さん…?
退院したときから、家にはお父さんはいなかった。
母さんには、そのことを今まで聞かないまま過ごしていた。
「…分からないです」
「そうか…」
「鷹谷中、集合!!」
哲の声が聞こえた。
「すいません、失礼します」
信士は走っていった。
…似ている。
伊達という名字から気になっていたが、やはり間違いない。
「あいつ」の息子だ。
沢村は振り返り、北星中の生徒を集め、ミーティングを始めた。