第34話-水時の敗北-
「ハァ、ハァ…」
体が重い。
足が思うように進んでくれない。
一年の秋、駅伝6走を任された水時は2位でたすきを受け取った。
県大会に行けるのは3校だけ。
…苦しい。
後ろから他の選手が迫ってくる。
「ハァ…ハァ…」
ダメだ。
そう思った瞬間から、
隣を後ろの選手が通り過ぎていった―。
泣きながら悔しがる先輩達。
「すいません…すいません…」………………………………………………………………
バッ!!
水時は布団から飛び起きた。
(夢、か……)
周りを見渡し、やっと状況を理解した。
昨日の事を思い出してみる。
確か頭を打って…
そこからの記憶がない。
「あっ!水時先輩!!」
北星中1年のひとりが気づき、沢村先生を呼んできた。
「大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
「…それよりも、オレは昨日どうやって?」
「伊達信士とかゆう鷹谷中のやつが担いで来てくれた」
(信士が…?)
ドドドドッ!!
凄い足音とともに、昨日の足を滑らせたやつが駆け込んできた。
「先輩、本当にすいませんでした」
土下座して謝っている。
「…顔上げろ」
「分かったから、伊達呼んできてくれ」
「は、はい!」
「それから、先生オレは今日から練習には普通に参加します」
「…お前はやるなと言ってもやるからな」
「無理はするな」
そう言い、沢村先生は部屋から出て行った。
そして、入れ替わりに信士が入ってきた。
礼を言おうと思ったとき、信士は思いもよらない一言を発した。
「…昨日、東條君から話は全部聞いた……」
「………」
「ごめん…でも…」
「初の敗北だったんだ」
「でも、敗北のおかげで今のオレがいる」
人に話したのは、初めてだった。
「今回の駅伝はその時の先輩の為にも絶対に優勝する」
「…駅伝か」
「じゃあ、ぼく達もでる!」
「お前らが出ようと関係ないけどな」
「まぁ、昨日の礼は言っておくよ」
「いいよ…なんか気持ち悪いし……」
雨は完全に止んで、日が部屋の中に入ってきていた。