第30話-才能(センス)
知らなかった。
浩太が野球をしてたなんて。
「オレとお前は違うチームだったけどな」
「知らなかった…」
「でな、オレが肩壊して野球できなくなった時、お前が約束してくれたんだ」
「『オレがお前の分まで野球をやる』ってな」
それって…
ぼくが約束を破ったのに、黙ってたってこと?
「浩太…ごめん……」
「何言ってんだ、水時との事聞いちゃあ文句なんか言えねぇよ」
「それに…」
「今日のお前の走り見て、本気なんだって分かったから」
「嬉しかった」
「…頑張ろうぜ!!」
「……うん」
…本物だ。
伊達はまさに、本物だった。
退院の日、鈴木先生の言っていたことを九条は思い出す。
………………………………………………………………「伊達君のことなんですが、…凄いです」
「凄いって、何がですか?」
「退院するまで、本当ならありえない早さなんです」
「え……?」
「こうゆうのって、やはり、才能なんだと思います」
あの時といい、今日の走りもだ。
夏休みの初日じゃ、ついていくのもやっとだったのに、
夏休みの間だけで、浩太についていくほどになった。
…ありえない。
こんな短期間で。
確かに努力もあるだろう。
でも、それだけじゃない。
あいつには、並外れた才能があるんだ。
もしかしたら、
伊達が走り続けることができれば、
勝てるかもしれない。
最強と言われる、努力の天才、水時 走に―。
九条は信士を真剣に育てたいと思った。
「全員揃ったか!?今日から2泊3日で合宿だ」
「この合宿が今後、大事になるから気を引き締めろ」
「以上!バスに乗り、出発」
久しぶりに水時に会う、どれだけ近づけたんだろう?
いや、
この合宿で水時に近づく、この3日間で何かをつかむんだ。
信士は気を引き締め、バスに乗り込んだ。