第27話-記憶と気持ち-
「やっぱりさ、はっきりさせたら?夕子ちゃん」
はっきりさせる…?
ぼくは、夕子の方を見た。
「…私が先輩の彼女だったっていうのは嘘なんです……」
嘘、だった……。
そのまま夕子は泣き崩れ、
「ごめんなさい……」
涙を流しながら、謝ってきた。
「なんで、嘘なんかついたの?」
詩織が言った。
「私は先輩が、好きで好きで仕方なかった」
「だからって…」
「でも、今日よく分かったんです」
「記憶はごまかせても、気持ちまではごまかせないってこと」
夕子は俯いたまま、静かに喋っている。
「今日、先輩がいっしょにプリクラを撮ってくれなかったのはそうゆうことですよね?」
「……うん」
「先輩、あの日私があんな時間に歩いてたのは、先輩が入院してたからなんです」
「もともと、学校が嫌いだった私に学校に行く意味を持たせてくれたのは、先輩だったから…」
そんなことが……
「今日、先輩と一度でもデートに行けたこと一生忘れません」
「本当にありがとうございました……」
夕日が3人の影を強く映していた。
詩織と歩く帰り道。
「………」
黙っているぼくに詩織は、
「もしかして、残念だった?彼女、失って」
「…違うよ」
「ただ、やっぱりぼくは記憶喪失なんだって、また思い知らされた…」
詩織は信士が言っていることに、何も答えてあげられなかった。
「ありがとう…」
「え?」
「今日、夕子に代わりに言ってくれて」
「じゃなかったら、あのままぐだぐだ付き合ってたかもしれない」
「…うん、そうだね」
2人にやっと、笑顔が戻った。
「ところでさ、ぼくって本当に彼女いなかったんだよね?」
「さぁ~~~~どーだったかなぁ?」
「なんだよ、それ!」
照りつける太陽は夕方でも暑く、夏本番が近づいてきたのを感じた。