第26話-福崎夕子-
早朝から息を切らして走る少年がいる。
「ハァ…ハァ…」
永井さんの話を聞いた後、信士は今までの自分は甘かったと後悔した。
やっぱり、泳いでるだけじゃ足りない。
部活で走れないなら、自分で走るんだ。
「バシャッ、バシャッ」
この3000メートル泳ぐという練習も、こなせるようになってきた。
絶対にやってやる。
信士の思いが強くなったのは明らかだった。
「先輩、あの…デート行きませんか?」
部活の帰り、夕子に言われた。
信士は結局、詩織から話を聞けなかったことを思い出し、断ろうと思った。が、
(!)
「ダメ…ですか?」
夕子の目に少し涙が溜まっているのが見えた。
「……いいよ」
「…やったぁ!」
喜ぶ夕子の姿を見る度に、また分からなくなる。
早く、真相を聞かないと―。
デートは近くのゲームセンターからだった。
「ゲーセンってだめなんじゃなかったっけ?」
「そんな、堅いこと言わないで、ほら♪」
ゲームセンターでは、太鼓の達人とかクレーンゲームを何回もした。
「そろそろ、帰る?疲れたしさ」
「先輩、最後にプリクラ取りましょうよ」
プリクラ…
夕子とのことが形として残ってしまう物だ。
………どうする?
やっぱり、
「帰ろう」
ぼくは、夕子とのことを残したくないんだ………。
夕子はやっぱり、寂しそうにしているのが、振り向かなくても分かった。
少しだけ気まずい帰り道。
しかし、もっと気まずい人物に出くわしてしまった。
「あ…!」
詩織だ。
詩織は精一杯に気づかないふりをしているが、分かっているのは、明らかだった。
「ねぇ」
と、急に詩織が口を開いた。
「やっぱりさ、はっきりさせたら?夕子ちゃん」