第21話-え??-
「それじゃまず、どこ行きましょうか?」
「いや…ぼくは分かんないし、任せるよ」
正直、夕子の異常なテンションにはついていけなかった。
「了解です!なんか気になるのがあったら、何でも言って下さい」
「あっ!!ちょっと待って、1カ所だけ行きたい場所があるんだ」
「なんか、思い出しましたか?」
「いや、全然」
信士が来たかったのは、どんぐり沼だった。
入り口には立ち入り禁止のテープが貼ってあり、さすがに入れなかったが、中は充分見る事が出来た。
(ぼくは、ここで‥‥)
沼には、なかなか急な坂があり、自分はそこを走っていたのだろうという、憶測は立てられた。
「………」
黙って沼を見ている信士の姿を、夕子は見つめていた。
その後、馴染みのスーパーや小学校、地域の広い公園などいろんな所に行ってみたが結局、何も思い出せないままだった。
「最後に中学校にだけ行っていい?」
「別にいいですけど…」
「恥ずかしい話さ、ぼく明日から、部活に行くくせに、道分かんないんだ」
「じゃあ、行きましょう」
「私も部活には、出る気でしたし」
「ありがとう…」
午後2時、7月でこの時間帯はとにかく暑く、動かなくても汗が出てくるほどだった。
グラウンドにはたくさんの中学生で賑わっている。
でも、信士の目に映っていたのは、ひたすらに走る中学生達の姿だけだった。
「なかなか、テキパキしてるでしょ?」
夕子が口を開いた。
「あ、あぁ」
「新しく部長になった、市原 哲先輩の力です」
「へぇ…」
夕子は急に立ち上がり、
「じゃ、私もそろそろ行きますね」
「あ、今日は本当にありがとう…助かったよ」
「いえ~、そういや一つだけ言い忘れてたことがあるんです」
「?」
夕子は急に小声になり、言った。
「実は私達、付き合ってたんです」
「‥は?‥‥」
「そんじゃっさよなら~」
走っていく、夕子。
(え、えぇーーーーーーーっ!!)