第20話-夏の訪れ-
「ガラッ」
カーテンを開けると、眩しい光が一斉に入ってきた。
「はぁ~ああ」
大きなあくびをした後、昨日の事を思い出した。
あの時、どう持って投げるのかも分からなかったのに、確かにあの球だった。
あの一瞬だけの感覚。
記憶は戻ってないのに体が勝手に動いた、不思議な事だけど、鈴木先生に話したら多分また、入院させられる。
…黙っておこう。
学校は今日まであるって詩織が言ってたっけ。
まっ、とりあえずランニングにでも行こう。
(ってそういや道分かんないや)
とりあえず信士は、走りながら近場の道を見てみることにした。
いろんなことが見えてくる。
ん?
あれは、確か鷹谷中の制服。
あっちは気づいたらしく、こっちに走ってきた。
「先輩!退院出来たんですか!?」
茶髪で背の小さい少女。
「…ごめん、悪いんだけどさ、記憶が無いんだ」
「あっ…そうでした…」
「すいません、先生からは聞いてたんですけど、先輩見たら飛んじゃって…」
少女は俯いた。
と、すぐに上を向き、
「私、福崎夕子って言うんです」
「一応、陸上部でハードルをしてるんですよ」
(陸上部…!)
それでも、信士はそんなことよりも何故、夕子がこんな所を歩いているのかが気になった。
確か、家を出たのが10時頃、有り得ない時間だったからだ。
「それよりも、なんでこんな時間に…」
聞こうとしたとき、
「先輩は、なんでこんな所歩いてたんですか?」
質問を急に返された。
「えっ…あぁ、道を何とか覚えようと思って」
「それなら!」
「それなら、私が道案内します!」
夕子は信士の手を引っ張り、歩き出した。
「ちょ、学校は!?」
「そんなの、いいですから!!」
結局、夕子にこの町の道案内をされる事になった。