第17話-投げる-
「はぁ…はぁ…」
「なんで、洋介が…?」
「僕が呼んだんだ」
鈴木先生が言った。
「伊達君、退院の前にキチンとはっきりさせておくのが大事なんじゃないかな」
「…」
「…洋介、ぼくはやっぱり‥‥」
「信士」
洋介は真面目な顔をしている。
「俺は、お前に才能があるから、と言った」
「今でもそれは、変わらない」
「だから、それは…」
「でも、違った」
「俺はただ、ずっと信士の球を受け続けていたかっただけなんだ」
「‥‥‥」
そして、洋介はグローブを信士に差し出し、言った。
「少しでいい、投げてくれないか?」
信士は戸惑った。
「投げろよ」
浩太が笑顔で言った。
「そいつが受けたいって言ってんだから、投げてやりゃあいいじゃん」
「…分かった、投げるよ」
「ありがとう…」
-近くの公園-
これが野球ボールか、きれいな球型で硬く当たったら痛そうだった。
シュッ
「バシッ」
洋介のミットがいい音を出した。
体の痛みは、もう無い。
投げ方は覚えてなかったが、ボールを思いっきり投げる。
「そろそろ、座るぞ」
信士は頷いた。
「バシッ」「バシッ」
一球一球を洋介は大事に取ってくれているのが分かった。
何球投げた頃だろうか、洋介が突然言った。
「信士、ブレイクボール投げてくれ…」
(ブレイクボール…?)
「ドクン」
心臓が脈打った。
ドクッ
ドクッ、ドクッ、ドクッ
信士は大きく振りかぶり、洋介のミットに思いっきり投げ込んだ。