第12話-再会-
「よしっ体の傷もほとんど消えたし、後は記憶だけ、だな」
鈴木先生が言った。
「…あのさ、体の痛みが完全に消えたら、一旦退院したほうがいいんじゃないかと思うんだ」
「いつもの生活をする事で、何か思い出せるかもしれないし」
「なるほど…」
「まぁ、それはもうちょい相談してからの話だけどな」
「ところで、今日来るぞ」
「来るって、誰がですか?」
「水時 走ってやつだよ」
(!…)
「本当ですか!?」
「うん、なんか思い出せるといいな」
(水時が…来る!)
少年は静かにドアを開けた。
「よう」
身長は170センチぐらい、細身だけどがっちりした体つきをしている。
「…君が、水時?」
「あぁ、そうだよ」
水時の鋭い目線と、重なった。
「ゴクッ」
「記憶喪失ってのは、本当の事だったんだな」
「あぁ…」
「水時の事は、みんなから聞いたよ、1500メートル一位」
「市の大会じゃ周りがザコ過ぎるんだ、だからそんなもん何でもない」
(………!)
「…ぼくが『そんなもん』じゃなくするよ」
「お前じゃ無理だ、だいたい短距離だろ、お前」
「『約束』なんだろ?」
水時は黙った。
「ぼくは、もう長距離なんだ、それに」
「覚えてた」
「お前には、絶対勝つんだって…」
「お前は一回、約束の事なんて忘れただろが」
「そう…らしい…でも、この感覚は本物なんだ」
「多分、お前の走りを見たから!」
「だから…」
「ふん」
「まぁ何だろうと、結局は勝てないよ」
そう言い、水時は立ち上がった。
「ランニングの時間なんだ、帰る」
そして、病室を出る所で水時は不敵な笑みを浮かべ言った。
「まぁ、楽しみにしとくよ…」
「あぁ、見とけ」