第11話-ふたつの道-
「じゃあ、話してもらっていい?」
「野球の時の僕について」
「あぁ、いいよ」
「じゃあ、私達はそろそろ帰るね」
「うん、ありがとう」
「さて、じゃあ話すぞ」
「お前は、ピッチャーなんだ」
「へぇピッチャーを?」
「うちのチームは、結構名門な感じなんだ、そん中でもお前が次期エースってこと」
「で、オレがその女房役だったんだ」
「いきなり、次期エースって言われてもね…」
「お前は、本当に凄かったんだ」
洋介が急に真面目な顔をして言った。
「この前の地区大会の決勝戦、お前は五回にピンチの場面で登板したんだ」
「点差は1点、ツーアウト満塁のピンチでバッターは四番」
「お前とオレはその場面で出たんだ」
「…結果は?」
洋介が間を開けてきた。
「覚えてないのか?」
じっと、こっちを見つめて聞いてくる。
「…うん」
「そうか…」
洋介は顔に出やすいタイプらしく、残念だったのがよく分かった。
「勝ったよ」
「お前はあの場面で、四番を三振にとってみせたんだ」
「そう…なのか…」
思い出せない。
大切な思い出のはずなのに、野球に関してのことは何も分からなかった。
やっぱり、水時っていうのはよほど凄い存在だったんだ―
「悪い、何にも思い出せないや」
「そうか…」
洋介は悲しいとか、そうゆうんじゃなく、『悔しい』というような顔をしていた。
「…なぁ、もう一度グラウンドに戻ってきてくれよ」
「お前がいなきゃ、無理なんだよ…」
「……」
その日の夜
(僕は、何を望むんだろう?)
そのまま、野球をしていれば、それなりにいい成績を残せるんだろう。
でも、それじゃあ水時には勝てない。
僕が進むべき道は、一つだ。
答えは出ないまま、眠りについた。