第10話-変わらないもの-
「走と信士はね、約束したの」
「陸上でライバルとしてまた会おうって」
「でも、信士は野球に夢中になりすぎちゃってて…」
「約束がどうでもよくなってしまっていたってこと?」
「…でも、中総体が終わってすぐ、長距離になるって言ったってことは約束を叶えようと思ったってことでしょ?」
「なるほど……じゃあ水時はそれ程凄い走りをしてたってことだね」
ここでも詩織は黙って頷いた。
「私も、見た瞬間びっくりした、小学校の時から速い方ではあったけど、」
「あんなに速いのは…」
「良かったよ」
「えっ?」
「退院したときにやることが決まって」
「やることって、1500を走るってこと?」
「違うよ、水時に勝つってこと」
「なっ!?」
詩織も浩太も信士の衝撃的な言葉に、声が出なかった。
「そんなの、無理だよ…」
詩織がうつむいて言った。
「信士は走の走りを覚えてないから、そんな事言えるんだよ…」
「関係ない!」
「過去の僕だって、その水時の走りを見たって『勝つ』って本気で思ったんだ」
「だから、僕はその気持ちを貫く!」
「ただ、それだけなんだよ」
(!‥‥‥)
「…退院したら、地獄だよ」
「分かってるよ」
(…まったく)
「やっぱ、信士は信士のままだな」
浩太が笑いながら言う。
「オレも長距離だから、一緒に頑張ろうぜ」
「うん」
と、その時だった。
「信士!!」
体の大きな、少し大人びた青年と呼べるような男が入ってきた。
「オレだ、郷田洋介だよ!」
「…やっぱ、覚えてないのか?」
「うん、悪いけど…」
「そっか…オレはお前のキャッチャーをしてたんだ」
(…キャッチャー?)
「ってことは、君が野球のチームメイト?」
「あぁ、早く記憶取り戻してまた、一緒に野球しようぜ」