海を満喫
そういや今年海行ってない…(´・д・`)
そしてプライベートビーチだ。
しかしこんだけ広い海が貸切ってのは凄いな?
今正に夏休みに入って2日目、
どこの海も黒山の人だかりであろうことを想像すると
俺はそっとこのプライベートビーチを
提供してくれたひとみに感謝をしつつ適当な所に腰を下ろした。
田辺と泪乃は海を見て猛烈に興奮してるのか一目散に海の中へと飛び込んでいく。
「幼女、泪乃、ちゃんと準備運動をしろ」
姉貴も注意はしているがどことなく楽しそうだ。
ひとみはてきぱきとどこから用意したのかパラソルを立てると俺と章太郎に
「日差しが強いですからどうぞ」
と勧めて来た。
「あー、ひとみは泳がないのか?」
「あたしは肌が弱いのです、だからサンオイルを塗らないとダメなのです」
そう言ってひとみは俺に瓶を渡す。
「…何だ?」
「何って、決まってるじゃないですか、塗ってください、先輩」
そのひとみの言葉にむんずっという音と共にひとみの肩を掴んだのは姉貴だ。
「まぁ、まてド変態、そんなバカにサンオイルなど
塗らせては下手をすれば妊娠してしまう、ここは私が塗ってやろう」
心なしか笑顔が怖いぞ、姉貴。
「えー、でもあたしは先輩に塗ってもらいたいのです」
「うぐっ、だ、だがな…」
「それとも何ですか?
あたしが先輩にオイル塗ってもらうと部長に何か不都合なことでもあるのですか?」
にひひと目を細めながらひとみが囁いた。
「バ…バカな、何故ド変態にバカがオイルを塗ることで私に不都合が出る?」
「なら、あたしの願望の邪魔はしないで欲しいのです、
この夏は一度きりなのです、
あたしは先輩と青春を過ごすためなら部長を敵に回すことも辞さない所存なのです」
ひとみはサンオイルを持った手の人差し指だけを上にあげるとそう言った。
しかし口で姉貴と対等に勝負するとは
…伊達に文系トップなだけはあるな。
「…ちっ、仕方あるまい、だが変態行為は許さんぞ」
「分かっているのです、あたしは確かに超変態ですが
流石に親しい人たちの目の前で野外プレイはしないのです」
そう言うと満面の笑みで俺の方に振り向き、じゃあお願いしますとサンオイルを渡してきた。
「まぁ、オイル塗るくらいいいけど…変な声は出すなよ?」
「分かっているのです、先輩に塗ってもらうためです、涙を呑んでここは自重するのです」
俺はそのひとみの台詞を聞くとサンオイルを受け取る。
ひとみは砂浜にうつ伏せに寝そべると「どうぞ」と言った。
「役得だな、翔太」
ちっとも羨ましく無さそうに章太郎が呟く。
「何なら変わってやろうか?」
「遠慮しておく、冠凪に恨まれたくないしな」
章太郎の言葉に俺は肩を竦めるとサンオイルのキャップを外して手のひらにオイルを取り出す。
ぺちょっとひとみの背中にオイルをつけた。
「ちべたっ」ひとみが思わず声をあげた。
「我慢しろ」俺は丹念にひとみの背中にオイルを塗っていく。
「はぁ…今あたしは正に幸せというものを実感しているのです」
「それは何よりだな」
俺は特に感情を持たせず言うとオイルを今度は足の方に延ばした。
「わふっ?」
不思議そう顔で泪乃が俺とひとみをしゃがみこんで覗き込んだ。
「何だ、泪乃、お前も塗っておくか?」
「わんっ」
泪乃が嬉しそうに吼えた。
「じゃあ、これ終わったら塗ってやるからそこで伏せてろ」
「わふっ」
俺がそう言うと泪乃はひとみの横にうつ伏せに伏せる。
「ふふふ、先輩と泪乃ちゃんに囲まれて、ここはエデンです」
ひとみは上機嫌にそう言った。
ひとみにオイルを塗り終えると次に泪乃にオイルを塗っていく。
泪乃は若干擽ったそうに「きゃふっ」と吼えてじゃれるようにあお向けに反転した。
「こら、泪乃、あまり動くな」
そう言って俺は泪乃をうつ伏せにしなおす。
「くぅ~ん」
泪乃は尻尾を振りながら目の前の砂を掘って遊び始めた。
俺は2人(1人と1匹?)にサンオイルを塗り終わると
ひとみが用意したビーチチェアーに寝そべってぼーっと海を眺めていた。
正直な所、あまり泳ぎは得意ではないんだ。
海の中では田辺と泪乃がきゃっきゃうふふ言いながら水をかけ合っている。
「るいのー!くらうのだーっ!!」
と言って少量の水をこれまた小さな手で掬い上げて田辺が泪乃にかける。
泪乃はちょっぴり腹にかかった海水を少しだけ舐めると
凄くしょっぱそうな顔して後ろを振り向いて思いっきり尻尾を海面に叩きつける。
その衝撃で大量の海水が田辺の頭からどっぷりとかかった。
勢い余ってそのまま転倒する田辺。
「し、しっぽをつかうなんてひきょーだぞっ!るいのっ!しっぽはきんしなのだ!」
「わふっ!」
田辺の言葉を恐らくは理解した上で再び思いっきり尻尾を海面に叩きつける泪乃。
「うあーーーーー!しょっぱーい!!おもいっきりのんだのだー!!」
田辺がぺっぺっと海水を口から出しながら叫ぶ。
「も、もういいのだ!こうはひとりでおよぐのだ!」
すっかりご機嫌斜めになった田辺はそう言うと
その小さな体に似合わない卓越した泳ぎですいすい沖へと向かっていった。
「ほう、幼女のやつ、言うだけはあるじゃないか」
俺の隣で姉貴がおでこに手を当てながらそう呟いた。
確かに、小学校の頃スイミングスクール一位とかいうのは嘘ではないらしく、
凄まじいスピードのクロールで沖へと遠ざかっていく。
「おい幼女!あんまり遠くまで行くなよ!」
姉貴がどこからか取り出したメガホンで沖に向かって叫んだ。
田辺は手だけでそれに応えて折り返して浜辺の方に泳いでくる。
泪乃はそれを見てまぁ、俗に言う犬掻きで田辺の後を追っていた。
しかし泳ぎまで犬だな、泪乃。
しかも恐ろしく速い。
「わふっわふっ!」
海面からちょこんと顔だけを出して脅威的なスピードで田辺を追う。
口はあんぐりと開いていてまるで今から貴方を噛みますよーと言わんばかりだ。
田辺もそれに気付いたらしく半分泣きべそを掻きながら
懸命にクロールで泪乃の猛攻から逃げてくる。
捕まると思われたその瞬間、田辺は泳ぎをクロールから潜水に変えた。
考えたな、田辺。確かに犬掻きの泪乃では潜水の田辺は噛めない。
だけど、それ何時まで息が続くかの問題だと思うぞ。
と、思ったら田辺は小さな体に似合わない肺活量でそのまま浜辺へと上がってきた。
「ぷあーっ、はぁはぁ…る、るいのからにげるのもひとくろうなのだ…」
泪乃はまだきょろきょろと田辺の姿を探してる。
「お疲れ、田辺、スポーツドリンク飲むか?」
「あ、のむのだー」
そう言うと田辺は500mlペットボトルを両手で
受け取ると実に美味しそうにそれを喉を鳴らして飲んだ。
「どれ、私も一泳ぎしてくるか…バカも行くか?」
姉貴が準備運動しながらそう言った。
「いや、俺はいいよ」
俺がそう断ると姉貴は厭らしい笑みを浮かべて
「そうか、バカは浮けないんだったな、いや済まないな、その事をすっかり忘れていた」
と言った。
ったく人を小ばかにするのは超一流だな、姉貴。
「なんなら教えてやろうか?」
「はっ?」
俺が姉貴の言葉に素っ頓狂な言葉を上げると姉貴は
「いや、高校生にもなって泳げないなど恥以外の何者でもあるまい、
そしてそれはそんな弟を持つ私もだ、ここでこの場所に来たのも一つのキッカケだろう、
泳げるようになるまで私がバカに物を教えるのも手という事だ」
「いや、別に俺、恥ずかしくねえから…」
「黙れ、さっさと来い、バカ」
姉貴は問答無用に俺の右手を掴むとずんずんと海へと近づいていく。
ちらりとさり気無く章太郎に助けを求めたが章太郎は
両手で合掌の形を取っていて取り留めて俺を助ける気など
更々無いらしく俺は観念して姉貴のペースに合わせて海の中へと入っていった。
「いいか、バカ、基本人間は浮くように作られているのだぞ」
「んなこと言ったって浮かないものは浮かないんだよ…」
姉貴の講釈に頭を掻いて言い訳をする。
「大体、浮こうと言う気持ちが足りないんじゃないのか?」
そこで精神論かよっ!
「幼少から何度かプールに行った事はあるが貴様が浮いてるところは
おろか水に顔をつけてる所も見たことがないぞ、思い込んでいるだけではないのか?
自分は泳げない、と」
姉貴の言う事に俺は自分の小さかった時の事を思い出す。
そういや姉貴と初めて行ったプールで飛び込み台に無理やり立たされて
思いっきり突き飛ばされて溺れてからプールには行っても水には入ってないな…
というか俺の泳げない原因は姉貴じゃないのか?
「あぁ…そんなこともあったな、だがそれは言い訳にすぎん、
つまりは今も水に顔すらつけられないのはバカの甘ったれた根性が為しているんだ」
そう言いながら姉貴は海面を指差す。
「今から私が水の中で右手でぐーかちょきかぱーを出す、
バカは目を瞑らずに水に入りそれが何だったのかを当てろ」
「はぁ…」
俺は経験上、こうなった姉貴は止められないことを知っている。
そして逆らったらどうなるかも、だ。
生返事を出してとりあえず水に慣れるために少量の海水を掬って顔にぴちゃぴちゃと当ててみた。
あれ…意外に行けるかもしれないぞ…思ってたよりも恐怖を感じない。
こりゃ姉貴の言う事も本当に一理あるのかもな。
「行くぞ」そう言うと姉貴は勢い良く海へと潜った。
俺は意を決して潜る。
潜ったはいいが目が開けられない。
水の中に潜っただけでも奇跡に近いのにやっぱりこれから
更に目を開けるのは無理かと思ったその時、俺の額に衝撃が奔った。
何事かと思わず目を開けてしまう俺。
そこには海中に漂った姉貴が二本指を突き出して俺の額に当てた姿があった。
俺が目を開けたことを確認すると姉貴は満足そうな笑みを浮かべて海面へと上昇する。
それを見て俺も海上に顔を出した。
「ぶはぁ!」
「どうだ、バカ、見えたか?」
両手で膝に手をついている俺に姉貴が聞いてきた。
「見えたよ、ちょきだろ?ったく人のデコ小突きやがって…」
「バカが目を瞑っているから協力してやったんだ、
それよりもどうだ?自分で思ってたよりもずっと恐怖など無かっただろう」
「確かに…な」
俺の答えを聞くと姉貴は心底嬉しそうな微笑みを浮かべて俺の手を取った。
うわっ、こうして見ると凄い美人のイタリア人だな。
「そうだろう、やはり私の考えは間違っていなかったわけだ。
古来よりバカにつける薬は無いとかバカは死ななきゃ治らんとか言うが私はそうは思わん、
それは教え方が悪いのだ、教え方一つでバカはキチンと前進する」
姉貴は一人うんうんと頷くと
「まぁ、いきなり泳げと言うのは無理があるからな、
今日は水の中で目を開けられただけで十分だ」
と言って俺の手をそのまま引いて海から上がった。
俺たちは夏の海を一通り満喫するとひとみの別荘へと戻った。
疲れていたので夕食もそこそこに全員就寝を取る。