文学腐女子「冠凪ひとみ」
幼女出てくるの3話でって言ってたけど
勘違いでした、すいません(´・д・`)
キーンコーンカーンコーン。
放課後を知らせる学校のチャイムなどどこも同じようなもので
うちの高校も例外なく普通のチャイムが鳴り響き生徒たちに
午後の安らぎを伝える福音がごとく鳴り響いた。
だが、今の俺には物凄い不幸な音に聞こえる。
例えるならそうだな、
嘘をつきすぎたと自覚してるやつがこれから閻魔大王に直に会うようなそんな心境だ。
…すまん、わかりにくかった。
とにかく不安だったんだ。
もうじきやってくるであろう、
文芸部随一の大問題児と泪乃との鉢合わせについて本気で頭を悩ませているからな。
ダッダッダッダッダッダ!
部室内からでも聞こえる威勢のいいこの足音。
間違いない、「あいつ」だ。
ダーン!!
勢いよく、部室の扉が開いた。
「やー、遅れましたぁ!せ・ん・ぱ・い!!」
びくっとその声に反応して泪乃は声の主を見る。
声の主も何者?という顔で泪乃を見た。
そして、その黒髪ショートヘアーの美少女
…冠凪ひとみの第一声は次の通りだ。
「も…萌えーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
予想通りの反応だ…
「キャー!何この可愛いの!!先輩のラ・マン!?」
「何故に俺の愛人か…」
人の話を聞かずにひとみは泪乃に頬ずりしている。
「犬のコスなんてマニアックー、
ねね、君、百合はイケる方?BLは?好きな作品のカップリングは?」
「わふっ?」
「わふっ?だって!犬に成りきってるー!!」
そう言うとギューっと泪乃を抱きしめるひとみ。
「はいはい、もういいから」
そう言うと俺は泪乃とひとみをひっぺがした。
「あーん、もう先輩、ひょっとしてや・き・も・ち?」
「んなわけねぇだろ」
いきなりテンションマックスで登場したこいつは冠凪ひとみ。
黒髪で大体肩より少し短い程度に抑えられたショートカットからの第一印象は活発な女生徒。
そしてうちの高校の一年で文系成績がダントツの歴代1位で合格。
その代わり理系は駄目らしい。
そこまではいい。
問題はうちの部に仮入部したときの発言だ。
「あたし、冠凪ひとみです!小説ジャンキーで雑食です!
好きなジャンルはBLが一番、百合が二番、あ、ノーマルももちろんいけますよ!」
とんだ変態が来たもんだ…。
それが俺のひとみと会った時の素直な気持ちだ。
そういうのが読みたいなら18歳以上になってから
秋葉原に好きなだけ行ってくれという俺の再三の忠告をこいつはたった一言。
「絵じゃ萌えないんです、あたし、活字じゃなきゃダメなんです!」と言ってのけた。
その後も延々と俺の説得は続いた、が一向に説得に応じる気配が無い、どころか。
ある日のことだ。
「先輩、そんなにあたしのこと気を使って…ひょっとしてあたしに気があるんですか?」
「はっ?」
予想だにしない回答が返ってきた。
「いや~ん、実はあたしも一目見た時から先輩いいなぁって思ってたんですよ」
「いや、あのな…」
「あ、初めての時はどうしましょう、先輩×あたし?あたし×先輩で行きます?」
「何の話をしているんだお前は!!」
と、その日から何故か毎日毎日俺に懐いてくるようになった。
今、羨ましいとかそういう思いを廻らせた奴、ちょっと変わってみろ、
現実になったらそうとうしんどいぞ。
そりゃ見た目は確かに美少女だが中身は恐ろしいまでに変態だからな。
言っておくが俺は普通だ。
こんな変態と一緒にされては非常に困る。
「先輩先輩」
「何だ」
「あたしの説明、ちょっと酷いです」
「何がだ、ほとんど合ってるだろ」
「あたしは変態じゃないです、超変態です」
「あぁ…そうかぃ…」
もう溜め息しか出なかった。
「あとテンションマックスじゃないですよ、あたしのテンションマックスはこんなものじゃないです」
すりすりと俺の腕ににじり寄ってくるひとみ。
「いつかそれは先輩のベッドの中で…」
「そうか、それは残念だ、一生見ることが出来ないからな」
「がーん」
一々大げさなポーズを取ってよろよろと崩れ落ちるひとみ。
泪乃がてこてことひとみに近づくとぺロリとひとみの頬を一舐めした。
「こらっ、泪乃!」
「わんっ」
「泪乃ちゃんって言うの、君…可愛いねぇ、どれ、あたしにその身を全て預けてみ・な・い?」
そう言ったひとみの脳天をスパーンとスリッパが直撃した。
「やめんか、ド変態」
右手にひとみを叩く専用のスリッパを持ち姉貴が体操服姿で仁王立ちしていた。
「姉貴」
「いった~い、何するんですか、部長~」
「神聖な部室で変態行為を自重しろと何度言ったらわかるんだ」
姉貴は腕を組んでひとみを見下した。
「あぁ…部長…その目、そして何故かの体操服姿…あたしぞくぞくしますぅ」
もう一発、今度は顔面にスリッパが入った。
「あだー!」
「次言ったら殺すぞ、ド変態」
「はぅん」
言葉責めで感じてるのか…真性の病気だな。
「先輩、病気じゃないです、性癖です」
別に真面目に突っ込まなくてもいいだろ、そこは。
「ちなみにSも行けますよ、あたし」
そんなカミングアウトはしなくていい。
「あ、それより泪乃ちゃん、新入部員ですか?」
「え?あ、あぁ、まぁ…そんなところ、かな」
俺が言葉を濁すと姉貴が一言。
「うちの部のペットだ」と問答無用に切り捨てた。
「ペット?」
「こいつは人間じゃない、話すと長くなるがな」
と、今朝から今までの経緯を事細かにひとみに話す姉貴。
「ほぇ~…そんな摩訶不思議な生物がいるんですねぇ、どれどれ」
そう言ってひとみはピコピコ立っている泪乃の耳を触る。
「あぁ…凄い…感じちゃう」
「一々、変態チックな台詞を入れるな、ド変態」
「尻尾も本物なんですか?」
「ああ、尻と同化してやがるんだ」
そこでひとみは驚愕の表情で俺の方を見た。
「先輩!泪乃ちゃんのお尻を見たんですか!?生で!!?」
「あ、あぁ…」
思い出してちょっと赤面する俺。
「泪乃ちゃんばっかりずるい!あたしのお尻も…」
スパコーン!本日三発目のスリッパがひとみの脳天に入る。
流石にハイペースだな、今日は。
「でも夜とかはどうするんですか?夜中に脱走するかもですよ?」
頭を両手で押さえながらひとみが姉貴に聞いた。
「ふむ…そうだな、夜は校舎内は鍵がかかるから逆に安全だと思うのだが」
姉貴が腕を組んでそう言うとひとみは全力で首を横に振って
「いやいや、警備員のおじさんとかに見つかったらヤバイですって!襲われちゃいますよ!!」
と言った。
いや、警備員の仕事はその行為をする奴を捕まえることだろ…
「ふむ、確かに、夜中に一人でむさ苦しい親父が
こんな可憐な雌犬を見たら突然欲情するかもしれん…」
お前ら、一度警備員に謝れ、全力で。
「あたしなら確実に襲います」
お前の意見は聞いてない。
はいはーいとひとみが手を上げる。
「どうでしょう?夜はあたしの家で預かるっていうのは!?」
「今さっき確実に襲うと言った口から出た言葉か、それは?」
「あ、やだなー、実際には襲いませんって…多分」
多分って何だ、多分って。
「姉貴、やっぱ夜はうちに連れてった方が安全じゃないか?」
「ふむ…」
そう言うと姉貴は顎に手をあてて考え込んだ。
「そう…だな、父は寛容だから問題ないかもしれんが母がな…」
姉貴の言葉に生粋のイタリア人主婦であるうちの母親の姿が瞼に浮かんだ。
「いや、でも別に友人を家に泊めるとか言えば…」
「母が恐ろしい程にリアリストなのは知っているだろう?」
「…そりゃ嫌ってほどに」
「泪乃の正体を知ってみろ、何をするかわからんぞ。
良くてテレビ局に売り込み、悪くてNASAに頼んで生きたまま解剖だ」
また生きたまま解剖されるのかよ………
「それが未知の生命体の運命というものだ」
そこまで言った姉貴が。
「…何だ、黙って私の部屋に上げとけばいいんじゃないか」と、掌にぽんっと手を乗せて言った。
「勝手に入られたらアウトじゃないですか~?」
「私の母はそんな姑息なことはしない」
同感だ。
母さんは俺や姉貴の部屋に入る時間帯を事細かく決めてる上に
入るときには必ずノックを3回した上で返事が返ってこない限り絶対に侵入しない。
大和撫子もびっくりするほどだ。
ちなみに日本語もかなり変だ。
どう変かって言うと必ずどんな言葉でも敬語を使う。
しかもかなり間違って。
例にとって言えばトイレを上げよう。
普通はおトイレ、とかお手洗いとかになるところを、
「お厠」というもはや新しい単語として認められるんじゃないかという言葉にする。
日本に来たときに参考にした辞書が相当古かったらしいのが原因だと言っている。
姉貴はそんな母さんを見て「ああいう日本語は間違っている」と
言って必死に純文学からラノベ・エッセイからどうでもいい雑学本にいたるまで
ありとあらゆる書物を読み漁った。
結果が今のイタリア人文芸部部長という位置づけだ。
多分、純日本人の俺より日本語に詳しいぞ、姉貴。
「バカが物を知らなさ過ぎるだけだ」
姉貴はこほん、と咳払いを一つ。
「とにかく、夜は家で預かるとしよう、泪乃を連れて行動するときは慎重に行動しろよ」
そう言うと俺たちは泪乃をちらりと見た。
泪乃は俺たちの話が長いのに飽きてきたのか大きく欠伸をしている。
そしておもむろに手で顔を擦り始めた。
「あ、顔洗った、明日雨ですかね」
「それは猫だろう…」
「とりあえず今日のところは解散するぞ、
ド変態もバカもくれぐれも他言はするな、顧問の黒沢にもまだ内緒にしておけ」
「副部長とコウちゃんはどうするんですか?」
「あの二人には会った時に随時説明していく」
「田辺はともかく、章太郎は厄介だな…」
「うむ、この部の唯一の常識人だからな」
おい、俺の存在忘れてないか?
「バカは煮ても焼いてもバカだろう、
それに比べて章太郎のやつはまだ一般常識を持ってるからな」
俺も常識くらい持ってるぞ。
「本当に常識を持ってる奴は変態には好かれん」
「そ~そ~、あたし、副部長苦手なんですよ~、先輩、安心しましたぁ?」
するかっ!逆に腹立たしいわい。
そんな感じで泪乃は昼は部室、夜は姉貴の部屋で過ごすことが決定した。
休み時間ごとに必ず誰かが見に来ること、
他の生徒や先生に決して悟られないようにすることなどを姉貴は
細かく指示すると今日はめでたく解散の運びとなった。