そして大団円
携帯電話を取り出して章太郎へと電話する。
プルルルル…プルルルル…
呼び出し音がやたらと長く感じた。
まだか、早く出ろよ。
『もしもし?』
「章太郎か!?」
『なんだ、翔太…何のようだ?』
「緊急事態だ!泪乃がいなくなった!」
『なんだと…?どういうことだ?』
「説明してる時間がねぇ!
俺と姉貴は商店街方面を探すから章太郎もひとみと田辺に連絡とって探すのを手伝ってくれ」
『わかった、今泪乃の来ている服装はわかるか?』
「家にいた時点での服装なら緑の帽子にいつもの制服だ!」
『よし、何かわかったら連絡する』
「頼む!」
そう言って携帯をしまい、商店街の方へと向かった。
俺は手を引いている姉貴の方をちらりと見る。
そうとう動揺している。
俯きながら「私と母の会話を聞いていたんだ、だから…」とうわ言のように呟いている。
俺は足を止めると姉貴の方に振り向き、肩を揺さぶった。
「しっかりしろ!らしくねぇぞ!!」
「………翔太」
姉貴は今にも泣きそうな顔をしていた。
「自分に問題があったんなら会ってから謝ればいい!とにかく、今は泪乃を探すのが先決だ!!」
「………あぁ」
姉貴は黙って頷くと俺と一緒に商店街へと向かう。
と、携帯が鳴った。
ひとみからのメールだ。
=タイトル・無題=
=本文。
事情は聞きました。
あたしは学校の方を探します。
町内の方にも動かせる全人材を割きます。
絶対に泪乃ちゃんを見つけましょう。
=
ひとみからのまともなメールなんて初めてじゃなかろうか。
何にせよ、一人でも探すのは多いほうがありがたい。
また、携帯が鳴る。
今度は電話、田辺だ。
「もしもし」
『せんぱいっ!るいのいなくなったってほんとかっ!?』
「本当だ、悪いが田辺も探すのを手伝ってくれ」
『わかった、こうもさがす!
こうはまだるいのにおてさせてないからな、かってにいなくなられてはこまるのだ!!』
「頼む」
簡潔に述べると俺は携帯を切った。
それから商店街をくまなく見て回る。
路地裏から道に置いてあるダンボールの中身まで見て回った。
2時間くらい経っただろうか。
雨が降り始めた。
随分と強い雨と風。
そういや通り雨に注意とか天気予報でやってたな。
姉貴もずぶ濡れになりながら傘もささずに懸命に探している。
三度、携帯が鳴る。
ナンバーディスプレイには章太郎の文字。
「なんだ?」
『一度、部室に集まれ、泪乃の行きそうな場所を検討しよう』
「わかった」
そう言うと携帯をしまい、姉貴を呼ぶ。
「姉貴、一度部室に行くぞ!泪乃の行きそうな場所を検討する!!」
「しかし…いや、わかった」
姉貴はまだ探したりないと、言った顔をしたが頭が良くて判断力もあるのが救いだ。
事情を飲み込んだように頷くと俺たちは部室へと向かう。
部室には既に他の3人が集まっていた。
「先輩!校内にはいませんでしたっ!」
「うらやまのほうにもいなかったのだ」
「2丁目、3丁目の方も回ってみたが手がかり無しだ」
「…そう、か」
「そんな顔するな、姉貴、絶対見つけてみせるさ」
「う、む」
「で、翔太、泪乃の行きそうな場所に心当たりとか無いか?」
章太郎が聞く。俺は頭をぼりぼりと掻いて、無い脳みそから情報を搾り出そうとする。
「泪乃の行きそうな場所と言ってもな…
ここか姉貴の部屋以外はほとんど出入りしてなかったからな…ひとみの別荘なんて遠すぎるし…」
そういや、初めて泪乃と会ったのもこんな雨が降ってたっけな…。
そうだ、確か朝に俺が寝坊したからショートカットしようと言って
いつもと違う道を通って学校に向かっていたら姉貴が泪乃を発見したんだ。
………
「そういや…あそこにはまだ行ってないな…」
「あそこ…?」
「初めて、泪乃と会った場所だ」
「行ってみましょう!先輩!!」
「ああ、他に手がかりが無い以上1%でもある確率にかけるべきだな」
「るいのがいるところがわかったのかー?」
「まだ確定じゃないけどな…これで居なかったら、流石に厳しくなるな」
「兎に角、行きましょう!!」
そう言うと俺たちは全員で強い雨の中、初めて泪乃と会った、あの場所へと向かう。
深い緑色の帽子を被り、制服姿で地べたに座り込んでいる女の子がそこにいた。
「「「「「泪乃!!」」」」」
「っ!」
泪乃は俺たちの叫びに気付くと、泣きそうな顔をしてこちらを見る。
そして顔を逸らして塞ぎ込んだ。
「泪乃」
「………」
俺の声に泪乃は反応しない。
構わずに俺は言葉を続けた。
「母さんとの会話…聞いていたんだな?」
びくっと泪乃の肩が震える。
「大丈夫だ、泪乃を保健所になんか連れて行かない、
安楽死なんてさせない俺たちはお前の飼い主だ、
俺たちはお前のことが好きだ、だから安心して戻って来い」
「………」
ふるふると小さく泪乃が首を横に振る。
「泪乃、戻って来い」
「るいのー、こうにおてするまでいなくなったらだめなのだっ!」
「泪乃ちゃん、戻ってきてください」
三人が口々と泪乃に向かって言葉を放つ。
ふわりと姉貴が泪乃を抱きしめた。
「すまなかったな、泪乃、私が母をなんとしても説得するからだから戻ってきてくれ…
もうお前は私たちの家族なんだ、犬とか人間とか外見とかそんなの関係ない。
私も翔太も血は繋がってないが家族だ、それと一緒だ。お前も家族だ。だから…」
姉貴の言葉が最後まで紡がれる前に泪乃の腕が姉貴の腰へと回った。
「くぅ~ん…ひぅ」
泪乃はもう雨が伝っているのか涙が伝っているのかわからないくしゃくしゃの顔で泣き出した。
「帰ろう…私たちの家へ」
「………わんっ」
俺と姉貴は章太郎たちと別れ、泪乃を連れて家へと帰った。
ドアを開けると母さんが待っていた。
「母様…」
「…お風邪をお引きになられますよ、お風呂に入ってらしてください…その子も一緒に」
「…はい」
姉貴と泪乃が風呂に入ってる間に俺はバスタオルで頭を乱暴に拭くと洗濯籠へと放り込む。
「母さん」
「…わかっております、子供子供と思っておりましたのに、
いつの間にか貴方様方も大人になっておられたのですね」
「じゃあ…?」
「お父様とも話し合いました、結論から申し上げますと
あの子の正式な飼い主が見つかるまでの間なら我が家に置いても良い、ということですわ」
「本当…ですか?母様…」
丁度風呂から上がって泪乃と一緒にリビングへと入ってきた姉貴が言った。
「はい、先ほどお父様に連絡したら翔太様と全く同じことを
言われてそれはもう大変怒られてしまいわたくし、ちょっぴり落ち込んでおります」
そう言うと母さんは泪乃の手を握る。
「どんな生物であれ、生き物は生き物ですものね…
まぁ、次の飼い主が見つかるまでの間ですし我が家は本来ペット様は禁止なのですが、
あなた様は見た目は人間ですし、問題ないとの判断です」
「やったな、姉貴」
「ああ、ああ、そうだな」
それから俺たちは姉貴の部屋へと行き、泪乃にビーフジャーキーを上げた。
「おい、バカ、雨が上がったぞ」
「へぇ、やっぱり一時的な通り雨だったか」
「ちょっとベランダに出ないか?」
「…まぁ、いいけど?」
俺と姉貴はベランダに出る。
「その…今日は色々と済まなかったな、取り乱したところを見られるとは全く一生の不覚だ」
「別にいいよ、人間なんだ、時には取り乱したりもするさ」
そう言うと俺は姉貴を見て笑った。心なしか姉貴の顔が赤い。
「い、いい夜空だな」
「ああ」
「………翔太」
「何だ?」
「ちょっとだけ目を瞑ってくれないか?」
「何で?」
「いいから、早く瞑れ」
「わかったよ」
俺は意味もわからず目を瞑る。
不意に俺の唇にやわらかい物が触れた。
突然の事に思わず目を開ける。
2、3秒たっただろうか。姉貴の唇がそっと俺の唇から離れた。
「…途中で目を開けるな、バカ」
「いや…だって…何で…?」
姉貴はそっぽを向くと
「今日のお詫びと、礼だ、他の方法が思いつかなかったからな」
「………」
俺は自分の唇に指を当てる。
まだ、少し感触が残ってた。
「か、勘違いするな、これはただの礼だからな」
その姉貴の言葉に俺は思わず吹き出すと。
「わかってるよ」と言った。
「わんっ!」突然、俺と姉貴の間に泪乃が割り込んでくる。
そして、泪乃は笑いながら姉貴の唇を奪った。
「ん、ん~~~~~っ!!?」
姉貴は吃驚したように泪乃を突き飛ばし、驚愕した表情で泪乃を見る。
「な、何をする!?」
俺は笑いながら、
「今の姉貴の台詞、聞いてたんだろ、そして覚えたんだ、キスはお礼の印だって」
「ち、違うぞ、泪乃、これは普通は好きな異性同士がするものであって今回は特別なんだ、
だから、むやみやたらにするな…んっ~~~!!?」
姉貴の言葉の途中でまた泪乃が姉貴にキスをする。
尻尾を嬉しそうにぶんぶんと振りながら。
「あ~~~~っ!!」
ベランダの下の方から声がした。
「ぶ、部長と泪乃ちゃんがキスしてるっ!!部長にも実はそっちの気が!!?」
「おー、すごいのだ、こうははじめてきすというものをみたぞっ!!」
「…何やってんだ、お前ら?」
三人だった。
恐らくはその後どうなったのか心配になって来てくれたんだろうが、タイミングが悪かったな。
姉貴は真っ赤になりながら弁解してる。
「じゃあ、期限付きとは言え、泪乃を置いてもいいということか」
「期限なんてねぇよ」
「え?だって飼い主が見つかるまでじゃないんですか?」
「飼い主ならもう決まってる、だろ?泪乃」
俺がそう言って泪乃の頭に手を置くと泪乃は心底嬉しそうに
「わぉーーーーーんっ!!」と高らかに吼えた。
泪乃の遠吠えは満天の星空に吸い込まれるかのようにどこまでもこだましていった。
ホントは少しずつ小出しにする予定が、
いっぺんに出しちゃいましたー/(^o^)\
そんなわけで「飼い主募集します!」お送りしました。
最初書いたときはもっと短くて7話くらい?で夏休み編がすっぱり無くて
さすがに短すぎるかなと思いながら1ヶ月くらい放置していたのですが
先月くらいにちょっとずつ夏祭り編を書き足して行って
今月頭に完成したのがこの作品ですね。
公開するかどうかはホントに躊躇いました、自分、こういうジャンルを書くのは凄い苦手なので^^;
よければ感想お待ちしてますm(_ _)m
では、また次回作があれば、その時にお会いしましょう。
ペルソナは凄く難産中です。。。
あれはリアルタイムで書いてるので…^^;