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夏祭り

「つかれたー、何か一年間は遊んだ気がするな」

そう言ってベッドへと倒れこむ。

そのまま疲れた体を癒すように眠りにつこうとすると携帯の着信メールがなった。

ダルい体を起こして右手を携帯に伸ばし、画面を見る。

ひとみからか…あいつには今回ばかりは世話になったな…


タイトル「夏祭りに行きませんか?」


夏祭り…?

ああ、一週間後には祭りがあったっけか。


「先輩、先輩、あたしは今、合宿での余韻に浸って体の火照りを収めるのに大変です、

あっ、ダメです、そんなところに…」


…どうでもいいがこの前半のくだりは要らないだろ、

大金持ちのお嬢様で顔が良くても性格でかなり損してるよな、絶対。


「ところで来週の夏祭りの日、予定ありますか?良かったらみんなで行きませんか?

ではでは親愛なる先輩のひとみより」


俺は携帯を閉じると体を起こして姉貴の部屋のドアをノックする。


「…何だ、バカ」

俺と同じ位疲れたような声が返ってきた。

俺はドア越しから用件だけを伝える。


「ひとみからメール、来週夏祭りにみんなで行かないかって」


暫く沈黙が続いた後に

「…考えておく、寝させてくれ」

とだけ返ってきたので俺も疲れてたしその日は自分の部屋に戻って大人しく寝ることにした。


翌日、泪乃の朝飯を持って姉貴の部屋に行くと姉貴はもう疲れが取れたらしく

「よう、元気ないなバカ」

と言って爽やかな皮肉と共に飛び切りの笑顔をプレゼントしてくれた。


「もう元気になってる姉貴と泪乃が羨ましいよ」

俺はそう言いながら泪乃の前に皿を置くと「待て」の合図をする。

すっかり手馴れたもので泪乃は大人しく「良し」の合図が出るまで待っている。


「ところで…昨日の夜言ってたことだが…」

姉貴がそう言葉を紡いだ。


「おう、夏祭り、行くのか?」

「うむ、久しぶりに浴衣を着て見るのも悪く有るまい、

ド変態と幼女には私から伝えておくからバカは章太郎に連絡をしておけ」

と言った。


姉貴の浴衣、ね。

金髪のくせに妙に浴衣が似合ったりするからこの世は不思議だ。


「了解了解」と俺は頷くと章太郎に連絡して置いた。

泪乃が見つかったらどうするかなんて問題も今や然して

大した問題でも無くて一週間後、夏祭り当日がやってきた。


「おい、姉貴、まだか?」

俺は姉貴のドアの前で腕組みしながらドアに背を当てて言った。


「ちょっと待て…泪乃、ほらこっち向け、よし、いいぞ」

そう言うと姉貴の声が終わりドアが開いた。

俺は突然開いたドアに盛大に背中からズッコけて頭を打った。


「~~~~~~っ!!?」

痛みに顔を顰めながら目を開けると浴衣姿で腕を組む姉貴と

同じく浴衣姿で不思議そうに袖を持って見回す泪乃の姿があった。


…正直、二人とも、凄く可愛かった。

姉貴は金髪のロングを盛っており、丁寧にかんざしまで挿している。

泪乃は犬耳を隠すように二つおだんごを作っていて、

どうも尻尾は浴衣の中に無理やり押し込んでるらしい。


うん、どこからどう見ても普通の人間の女の子だな。


「無闇に吼えるなよ、泪乃」

姉貴の言葉に泪乃は無言でこくこくと頷いた。

良い傾向だ、賢さも順調に伸びてるな。


「さて、では待ち合わせの場所に向かうとするか、

待たせてあのド変態のボディーガードの目の仇にされるのは御免被りたいからな」


姉貴はそう言うと泪乃の手を取ってさっさと家を出た。

ちなみに母さんは父さんと一緒に出かけてて今いない。


だから堂々と泪乃を連れ回せるんだがな。

待ち合わせ場所に着くとそこには章太郎が無愛想な顔で立っていた。


横には山のような綿飴を持った田辺がいる。

「何だ、もう来てたのか、お前ら」

「早く来たお陰で俺の財布は大打撃だ」


章太郎はそう言うと親指で田辺の持つ綿飴の山を指差した。

田辺は悪びれた様子も無く

「わたあめ、うまーっ、あまーっ!」

などと叫びながら今日も上機嫌だ。


「せーんぱい♪」

と、突然後ろからかなりいい衝撃のタックルをかまされて

俺は驚愕と共に後ろを振り返ると浴衣姿で抱きついてきたひとみがいた。

ショートヘアーの髪のてっぺんを小さく纏めており、

普段見るひとみとちょっと違った雰囲気がした。


「どうです?あたしのゆ・か・た!萌えますか?何ならここでどうぞ一発遠慮なくっ!」

…違った気がしただけだった。

今日もこいつの頭の中は変態な事で一杯だった。


「おーう、腐ったミカンども!」

…気のせいか遠くから聞き覚えのある声がするな。

「幻聴だな」「幻聴です」

姉貴とひとみが同時に呟いた。

横目でちらりと見ると紛れもなく、禿沢であり…

って何だ、あいつ…幼い女の子の手を引いてこっちへやってくるぞ。


「おい、姉貴…禿沢、誰か連れて来てるぞ、小さな女の子だ」

「なんですって!?」

俺の声に反応したのは姉貴じゃなくてひとみだった。

睨む様に禿沢の声の方を見るとマジマジと禿沢と仲良く手を繋いでいる女の子を見る。


「あ…有り得ない…あの宇宙の屑があんな

可愛い女の子とあんな楽しそうに…手を、繋いで…?」


ひとみは余りのショックによろよろとその場に倒れそうになる。


「いよう、腐ったミカンども、今日も元気か、グハハハハ!!」

禿沢が陽気にそう言うと姉貴は心底嫌そうな顔で禿沢を見て

「何時から犯罪者になった、はげピザ」

と吐き捨てた。


「犯罪者?何を言ってる、滝沢シモーナ」

「黙れ、ロリコン誘拐魔、今すぐ警察に自首してこい、人類の敵」

姉貴が女の子を指差しながらそう言うと女の子はクスクスと笑みを零して

「まぁ、貴方たちが主人が顧問をしている部活の生徒さん?」

と言った。


はっ…?

そら、みみだよな?

今なんつった。

主人…?


姉貴もひとみも章太郎もUMAや宇宙人でも見たかのような顔をして女の子を見ている。

田辺と泪乃はマイペースに二人で遊んでいた。


「おう、紹介してやる、光栄に思え腐ったミカンども、俺様のワイフ…だっ!?」


禿沢の全ての言葉が終わる前にひとみの全力の右正拳が禿沢の鳩尾に炸裂した。



「こ、こ、こ、こんな幼い子を拉致してっ!この宇宙の汚点!今すぐ死ねっ!屑!!」


叫びながら女の子を自分の方へと引き寄せるひとみ。

「大丈夫でしたか?もう怖くないですよ、

お姉ちゃんたちがお家までつれて帰ってあげますからねー」

そう言って女の子に聞かせるものの女の子はきょとんとした顔で

「あの…本当なんですよ?私は彼の妻です、一応今年で25になるんですよ」


そう言って女の子は微笑んだ。

俺たちに二重三重の衝撃が与えられる。

ひとみなど余りのショックに口を半開きにしてパクパクと金魚のように何か呟いている。

…しかし、25?

どう見ても8~9歳にしか見えないぞ…?

田辺と同類のような人種がこの世に二人もいたとは…

しかもよりによってあの禿沢の妻と来たもんだ。

禿沢は鳩尾を押さえながら


「げほっ、き、貴様、ちょっと金を持ってるからといい気になるなよ、

こいつは正真正銘、俺様のワイフだ!」


「…何がどうすればこんな非日常的でどこかで魔王が

復活してこの世を地獄に陥れる方がまだ現実的なことが起こりえるんですか…っ!?

………はっ、さては覚せい剤を使用しましたねっ!!?」


「するかボケェ!!」


禿沢とひとみが激しく言い争いをしている中、

章太郎が自称・禿沢の妻の幼女マーク2の目の前に座り込むと

「本当に黒沢の奥さんなんですか?」

と聞いた。


当然の疑問だ。

禿沢には悪いがちっとも夫婦に見えん。

親子にも見えん。

似てないからな。

どっからどう見ても祭りの最中に連れ去ってきた犯罪者とその被害者だ。


「本当です、ほら」

と幼女は左手を前に出す、

とその薬指には確かにエンゲージリングが光っていて

章太郎は突きつけられた事実に思わず息を呑んだ。


「25と言うのも本当か?」

姉貴は腕組みをしたまま禿沢の奥さんに言った。

「はい、正確には今年で26になります」

そう言って禿沢の奥さんは、はにかむ。

精神年齢はちゃんと大人だな、そこら辺は田辺と違う点だ。

しかし、26…ねぇ、130ちょっとしかない身長に幼い顔に幼い声、

成る程、禿沢が田辺に固執する訳が分かった気がする。


「…まったくワイフと夏祭りに来たら

貴様らの面が見えたからワザワザ挨拶してやったものを…何だ、この仕打ちは…」


ブツブツと文句言う禿沢をスルーしてひとみは禿沢の奥さんの方に振り向いて


「こ、こいつのどこを気に入って結婚なんて無茶なことを…弱みでも握られましたかっ!?」

「はぁ…正直に言うと性格…でしょうか…」


この奥さん人見る目ねぇ…!!


「わ、悪いことは言わないのです、今すぐ離婚しましょう、

そうしましょう、何なら家に来てもいいのです」とひとみは早口に捲くし立てた。

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