表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/15

禿沢来襲、合宿終了

そして6日目、生憎この日は天気に恵まれず、外は大雨、

天気予報じゃ夜中には晴れるらしいから各自リビングでまったりと寛いでいた。


昼飯のひとみ特製チャーハンをみんなで食ってると突然、

サイレンのような音が別荘中を鳴り響いた。


『対人物センサーに反応、繰り返します、対人物センサーに反応』


無機質なテープレコーダーのようなアナウンスの声が別荘中に駆け巡る。


「センサーに反応…?」

「誰かが家の敷地内に入り込んだようなのです」


ひとみがそう言いながら指をパチンと鳴らす。

するとどこに隠れていたのか黒服の大男たちがぞろぞろと四方八方から現れた。


「な…なんだぁ!?」

「家のセキュリティーに無断で侵入するとはいい度胸なのです、狙いは泪乃ちゃんですかね?」

「ふむ、泪乃を狙ってやってくるような輩が存在するとはとても思えないが、

もし本当にそうだとすれば放置も出来まい」


あの、姉貴?

貴方はこの黒服の大男たちを見て微塵も動揺しないのですか?


「ド変態がブルジョワなのはもう周知の事実だ、

これくらいの事はやるだろうことは予測できる」


ああ、そうですか、やはり順応力が高いよ、姉貴は。


「では、この大雨に紛れてやってきたコソ泥さんを確保しにいくのです」


ひとみはそう言うと別荘の玄関を盛大に開ける。

俺と章太郎はお互いを見てやれやれ、と言った感じで両手を上に上げた。

仕方ないだろう?

何時だって女子の方が男子よりも強い世の中なのさ。


「るいのがねらわれてるのかー…?」

田辺は震えながら俺の裾を掴む。

「いや、まだそうと決まった訳じゃないから、怖いならここで待ってるか?」

俺が田辺の頭を撫でながらそう言うと

「ふぁ…い、いくのだ、こうだってるいののひとりやふたり、まもってみせるのだ!」

と歯をガチガチと震わせながらそう言った。


別荘を出て、10分ほど歩くと林が見えてきた。

ひとみは携帯を取り出すと何かを確認して、

「この辺りのはずです、相当の使い手じゃない限り、

我が家の防犯システムによって駆逐されているはずなのです」

と言って恐らくは携帯に映し出されているであろうそのポイントに向かって歩き出した。


「おい、いたぞ」

章太郎の声に全員が集まる。

その人物は黒焦げになってうつ伏せに倒れていて、

生憎性別以外に特徴なのは禿げた頭とちょっと太めな体つき…

ん?この風貌…どこかで…?


姉貴が無言でその男を仰向けに引っくり返す。


「…!」


全員の空気が止まった。

目をぐるぐると回転させてまるで漫画のように気絶しているその男の正体は…禿沢だった。


「どうしてこの男がここにいるのです?」

心底嫌そうな顔で思わずげっと唸るひとみ。


「執着心だけはこの世のどいつよりも強い男だからな、

恐らくは幼女の匂いでも嗅いで追跡してきたんじゃないのか?」


「そんな犬じゃあるまいし…」


「例え話だ、本気にするな、しかしこいつが犬だったなら絶対に拾わんだろうな」


その姉貴の言葉に全員が一斉に頷いた。

とりあえずこの大雨の中放置する訳にもいかないので

(姉貴とひとみは本当に放置しそうな勢いだったが)別荘の方に運ぶことになった。


白いタンカが黒服の大男たちによって運ばれてきて気絶した禿沢を乗せ、別荘へと連れて行く。


「なんか拍子抜けしたな、折角この大雨の中

はるばるやって来たというのに、オチがあのはげピザでは笑いにもならん」


「全くなのです、どうせなら泪乃ちゃんを狙ったアメリカの

裏組織とか旧ソ連のカーゲーペーとか期待していたのに…」


お前らは本当に禿沢が嫌いなんだな、まぁ、俺も好きではないが。

別荘に戻って3時間ほどすると禿沢の意識がようやく戻り、

ひとみを見るや否や恐ろしい勢いでべらべらと文句を言い出した。


「さ、先ほどの爆発はなんだ!?冠凪ひとみ!貴様の仕業か!?

日本の土地に地雷を埋めるんじゃない!!

どれだけ常識知らずなのだ、これだから貴様ら腐ったミカンどもは…」


「おい、はげピザ」

「何だ、滝内シモーナ!?

言っておくが貴様も同罪だぞ!これは立派な傷害罪だからな、覚悟しておけ!」

「黙れ、素直に私の問いに答えろ、貴様、何故ここにいる?」


姉貴の言葉にうっと言って禿沢は黙ってしまった。



「………」



後ろめたそうな顔で俯く禿沢。


「答えろ、はげピザ」

「…光ちゃんの家に連絡を取ったら合宿だと言われたんだ、

どういうことだ、これは!俺は聞いていないぞ、合宿の話など!」


あ、開き直った。

そして逆ギレというやつだ。


「合宿という単語だけでこの位置まで特定出来たのか?」

「ふっ…俺の情報網を甘く見るなよ、滝沢シモーナ。

俺の脳内には光ちゃんセンサーというものが付いていて、

何時、どんな時でもどの場所に光ちゃんが居るか

分かるようになっているんだ、参ったか、ぶわっはっはっは!!」


うわぁ…こいつ何言ってんの、マジで言ってんのか、それ。

真性のストーカーじゃねぇか。


「どうやらシモーナの言ってた嗅覚が本当に存在するらしいな、黒沢には」


章太郎がどうでも良さそうな顔をしてポツリと呟いた。

ああ、何か禿沢の本名、久々に聞いたな。


「ところでこのむやみに広い家は誰の所有物だ?

まさか空き家を無断で使っている訳ではあるまいな」


禿沢はそう言うと姉貴を睨んだ。

「失敬だな、貴様は、この別荘の所有主なら貴様の目の前にいるド変態だ」


「………なっ!?」

禿沢は姉貴の言葉に驚愕の表情を浮かべてひとみと姉貴を交互に見る。

口はパクパクと何を言ってるいるのかわからないような声にならない声を上げている。


「ま…まさか、今年入ったどこぞの良家のお嬢様って…」

「それはきっとというか、多分、恐らく、間違いなく、100%あたしのことなのです」

ひとみの言葉に禿沢は顔面が蒼白になる。


まぁ、それはそうだろうな。

あれだけやり合ってきた相手が実は自分とは住む世界の違う

超お嬢様と分かれば誰でも多分こんな反応になるぞ。


ひとみの家を敵に回したら恐らくは禿沢の命は無いだろうな、

残念だったな、禿沢、だが骨は拾わんぞ。


「か…冠凪…様…?」

「何ですか、イキナリ遜って…器が知れますよ、宇宙の屑」


ひとみは物凄い冷たい目で禿沢を睨む。

蛇に睨まれた蛙のように禿沢は硬直して直立不動の体制に

なっているのはきっと影にちらちらと見え隠れする黒服大男の存在に気付いたからに違いない。


「は、はい…俺…いや、わたくし、宇宙の屑でございます、

ははは…だから、あの、申し訳ないんですが…

この合宿…わたくしも置かせていただけませんかねぇ?」


「だが断るのです」


光の速さで即答するひとみに対して土下座で答える禿沢。


おー、嫌だね、俺は大人になってもああいう大人にだけはなりたくないな。


「奇遇だな、翔太、俺もそう思ったところだ」

話が分かるな、章太郎。


「まーまー、いいじゃないか、かんなぎひとみ、

どうせあといちにちくらいなんだから、とめてやっても」


田辺が純真無垢と言うか何も考えてないというか

小学生の女の子そのままな笑顔を向けてひとみにそう言うとひとみは

「コウちゃんがそう言うなら…」

と何やらブツブツと文句を言いながら禿沢の参加に渋々承諾した。


夜、盛大に降っていた大雨は嘘のように晴れ渡り、

気持ちの良いくらいの星空が空を瞬いている。


「合宿最後の夜、そして今は夏、といえば花火なのです!」


ぐっと拳を胸の前で握り締め力説するひとみ。


「まぁ、意見は悪くないが、そんな急に振られても用意がないぞ?」

「あたしの方で用意はしてあるのです」


流石としか言いようがなくなってきたな、どんだけこの合宿楽しみにしてたんだ、こいつは…?


「うむ、では中庭に出ようか、幼女、火の取り扱いには気をつけろよ」

「おー!はなびだーっ!こうははなびがすきだぞー!!」

「そうかそうか、光ちゃんは花火が大好きなのか」


ニヤニヤとニヤつきながら禿沢がさり気無く田辺に近づく。

両脇から黒服ガードマンにガッシリ抱えられて

「な、何をするかっ!貴様ら!!」

とか言いながら足をジタバタとさせ、田辺から遠ざけられて行く禿沢。


「さぁ、宇宙の屑も去ったことだし、始めるのです」

満面の笑みでひとみがそう言った。両手に抱えきれない程の花火を持って。

あぁ、大半の男なら瞬殺できそうな笑顔だな。

あくまで内面を知らなければ、の話だが。


「半分持つよ」

俺はそう言うとひとみから花火を半分受け取った。

「あぁ…先輩、これってもしかして…愛、ですか?」

「ちげぇ」

「う、そんなきっぱりくっきり断言しなくても」


そう言いつつもひとみはどこか嬉しそうだ。

しっかしこんな量の花火、一晩で消化できるのかね?


俺たちは中庭に出ると手持ち式の花火からとりあえず始めることにした。


「おひょー!にほんどうじなのだー!!」


田辺がキャッキャ言いながら丸い円筒型の花火を片手に

一本ずつ持つと同時にひとみに点火してもらい大はしゃぎで前に両手を突き出す。


「こら、幼女、花火は一本ずつやれ!

貴様のようなお子様が二本同時にするなど危なすぎて見てるこっちがハラハラする!!」

「まぁ、いいじゃないかシモーナ、冠凪の言うとおり今日で合宿も最後だ、

楽しくないよりは楽しい方がいい、見ろ、あれを」


章太郎が指差す方を見ると、死んだ魚のような目で

体育座りをして一人ポツンと線香花火をしている禿沢の姿があった。


「………あれが敗者の姿だ」

流石に同情したかのように章太郎が呟く。

「成る程、だが奴に同情の価値はド変態のプライベートビーチに

落ちている砂粒一欠けらの価値も無いな、何せはげピザだからな」


相変わらずとことん嫌われているな、禿沢。

まぁ、俺はその寂しい夏の思い出にちょっとは同情してやるくらいの器量はあるぞ。

あくまでちょっとだけどな。


「はげさわー、たのしんでるかー!くらいぞー、なははははははーー」

禿沢の沈んだ気持ちなどどこ吹く風なのか、

田辺はクルクルと回転しながら花火を振り回しながら禿沢に声をかけた。

「た、楽しんでいるとも!光ちゃんこそ楽しんでいるかい?」


田辺に声をかけられたのが余程嬉しかったのか禿沢はちょっと涙ぐみながらそう答えた、

瞬間に禿沢の持っていた線香花火がぽとりと落ちる。


「…あ」


それを見てまたブルーな気持ちが蘇ったのか背景を真っ暗に染め上げて何やら

「俺様の夏は終わった…あぁ、あの青春の日々に帰りたい…」などと呟いている。


こんな奴にも有ったんだな、青春の日々。


「では、みなさん、プライベートビーチの方を見てください!」


そうひとみが両手に口を当てて叫ぶと俺たちは一斉にプライベートビーチの方向を見る。

すると数秒後にヒュルルルルル…という音と共に火の尾が

空高く舞い上がりそれは綺麗な丸い向日葵の様な巨大な花火が

ドーーーーーーンッ!!

と上がった。


「おおーーーー」

俺は素直に感動した。


田辺は花火の巨大な音に耳を塞ぎながらも

「すげーっ、きれーだ!きれーー!!」

と興奮を隠せない様子だし、章太郎も満足そうにそれを見上げている。

どことなく姉貴も満更では無さそうにその花火を見終えると

「よし、片付けるか」

と言って俺たちは後片付けを始めた。


あっという間の密度の非常に濃い一週間は幕を閉じて、

俺たちは次の日にひとみの家の自動車に揺られて自宅へと辿り着いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ