バーベキュー!
バーベキューはしました(`・ω・´)
合宿3日目。
今日もいい天気だ。
朝起きていくと姉貴が何か書いていた。
何書いてるんだ?
「これか?これは今回の合宿のレポートだ。
一応はげピザに提出せねばならんからな、部長の義務というやつだ」
「合宿ったって特別文芸部らしいことなんてやってないじゃねぇか…」
俺がそう呟くと姉貴はちちちと人差し指を振って
「情報の捏造など幾らでも出来るがあえて真実を書いてやるつもりだ。
幼女の水着姿を見れなかったと知ったはげピザの顔が見物だな」
と言ってくくっと笑った。
「先輩、先輩」
台所からひとみが昨日と同じエプロン姿で出てくる。
「どうした?」
「今日もいい天気ですし、
折角なので庭にあるバーベキューコーナーでみんなでバーベキューをしようかと思うのです」
ひとみはそう言うとアホみたいにでかい冷蔵庫から
恐ろしく高そうな肉を取り出すと左手でブイサインをした。
「ほう、バーベキューか、暫く食べてないな…」
章太郎がひとみの持った肉を見てそう呟く。
アホ、普段そんなに食べる機会ないだろ、バーべキューなんて。
何かイベントが無い限り家は食さないぞ。
「にく!にくかーっ!いいなー!こうもたべたいぞっ!」
「野菜も食べないと大きくなれんぞ、幼女」
姉貴が田辺の頭を撫でながらそう呟く。
「ふぁ…た、たべるもん、こうはすききらいなんてしないぞ!ぴーまんもがまんしてたべる!」
「ではコウちゃんのためにピーマンをどっさり用意しておくのです」
「ああ、それがいいな、良かったな幼女」
とひかりと姉貴が次々に田辺を口撃した。
「う、うわーん!あやまるのだ!だからこうはにくがたべたいのだっ!」
「うふふ、冗談ですよ、コウちゃん」
そう言いながらひとみが田辺の頭を撫でた。
「ふぁ…じょ、じょうだん?」
「はい、ピーマンの中にお肉を詰めて出してあげます、
好き嫌いも克服できて一石二鳥なのです」
ひとみがこれはいいアイディアと言わんばかりに左手の人差し指を上にあげた。
「か、かわってないのだーっ!!」
田辺が涙目になりながら姉貴を見上げた。
禿沢辺りならイチコロで逝ってしまいそうなその顔も姉貴には全く効果が無く
「好き嫌いをしているから貴様は何時までたっても幼女のままなんだ、試しに食べてみろ」
と言い放った。
「だ、だけど…」
「問題ないだろう、見ろ、この肉を、多分…
というかこの先これを逃すと一生食することは出来ない代物だぞ」
姉貴の言葉にちらりと田辺はひとみの持つ肉を見た。
細かく入った霜降り、
買ったらきっとグラムで軽く諭吉が何人か飛んでいくんであろう
その肉を凝視すると田辺の口から涎がだらだらと滴り落ちた。
「う、うん、た、たべてみる…こうはこうかいはしたくないからな…」
と目線を肉から外さないまま田辺はそう呟いた。
「ああ、そうだド変態、泪乃用に安い肉も用意しておけ、贅沢を覚えられては敵わん」
姉貴がちらりと泪乃を見てそう言った。
「わかりました、では近くのスーパーからセール品も取り寄せるのです」
そう言うとひとみは携帯を取り出してどこかに電話する。
「あ、あたしなのです。近くのスーパーから一番安いお肉を買ってきて欲しいのです、
え?何故安い肉を?ふふ、あたしが食べるんじゃないのでご心配には及びませんのです、
飼い犬用です、何でも贅沢させては駄目らしいのです、はい、それではお願いします」
と伝言を恐らくはあの黒いリムジンに
乗っていたであろう使用人に伝えると携帯を切ってポケットに仕舞った。
それから二時間後、パッケージに思いっきり
「タイムセール!!」と書かれた元が200円でタイムセールで
更に値引きされ半額100円な俺たち一般人に最も慣れ親しんでるであろう肉が大量に届いた。
「では少し遅くなりましたが、朝ご飯兼お昼ご飯という事でバーベキューを始めましょうか」
そう言うとひとみは外に出てバーベキューセットの前に立つ。
鮮やかな手並みで火を起こすと網を乗せてその上に肉と野菜を置き始めた。
「こっちのお肉は実は生でも食べられるのです。
あたしはレアはあまり好きじゃないのでお勧めはしませんが」
そう言って肉を引っくり返す。
マジか…生で食える肉ってユッケ以外に実在するのか。
章太郎はひとみの言葉に早速生の肉を一切れ取って咀嚼した。
瞬間、章太郎の顔に衝撃が奔る。
まるで一昔前の料理漫画の王様のように口から光を出しそうな勢いで
「う、美味過ぎる!」とか叫んでる。
そんなにか、そんなになのか?
「これはもう食べ物であって食べ物で無いな、
これを食べ物と呼んでしまっては今まで俺たちが食べてきた物は
生ゴミのような価値しか無くなってしまう」
そう言いながら章太郎は再び生の肉を一切れ掴んだ。
「余り生の肉をおいそれと口へ放るな、章太郎、細菌でも入っていたらどうするつもりだ」
そう言いながら姉貴は安い方の肉を両面良く焼くと皿へと移して泪乃へと渡す。
泪乃は慣れたもので器用に箸で肉を掴むと心底幸せそうな笑顔で肉を頬張った。
「ううー、ぴーまんかー、これがぴーまんなのかー」
田辺はピーマンの肉詰めと睨めっこしながらそうブツブツと
呟きながら口元まで運んでいっては元の位置に戻し、また口元まで運ぶ、を何度も繰り返している。
何度目か口元へ運んだ時、田辺の後ろからひとみが急に両手でパンッ!と手を叩いた。
「ひゃぁっ!?」
吃驚した勢いでそのまま田辺の口の中へと消えていくピーマンの肉詰め。
もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ…
最初は驚いていた田辺だが咀嚼を繰り返すうちにその顔は段々と恍惚な物へと変貌していった。
「う、うまー、ぴーまん!ってかにく!うまーっ!!」
「ふふふ、ですです、コウちゃんは今、大人への階段を一歩昇ったのです」
「うまいなー、こうはぴーまんがこんなうまいものだとはしらなかったぞー!!」
余程気に入ったのか田辺は口の中へと次々にピーマンの肉詰めを放り込む。
俺もそんなに美味いのかと一口食べてみた。
いや…田辺、多分これはピーマンが美味いのでは無く、
明らかに肉の甘味が強すぎてピーマンの味が全く感じないだけだぞ…
しかし、これ、本当に肉なのか?
舌の上で融ける肉はテレビの中の空想の産物だと思っていたがやはり実在したのか…
冠凪家、恐るべし…
合宿4日目、5日目も俺たちは楽しく過ごした。
もうここが自宅でいいんじゃないかと思ってしまえるくらいに
そこは楽園であり、こんな後輩を持てた俺たちは心底そこに感謝するべきだとつくづく思ったね。