捨て犬拾いました
ギャグとか学園に挑戦してみたかったんです、出来心なんです、ごめんなさいww
日本には梅雨というものがあるのをご存知だろうか?
そう、ジメジメして一日中雨が降り続く、あの嫌な季節である。
風流だね、なんてことを言う奴もいるが
俺に言わせて見ればこんなもの洗濯物や弁当に
カビが生えるだけで実益なんて0に等しい。
そんな、6月のある日のことだった。
「おい、バカ、遅れるぞ」
第一声から俺をバカ呼ばわりしたのは
俺の義姉、再婚した義母の連れ子で金髪に赤い瞳という
どこからどう見ても日本人には見えない…当たり前だ、イタリア人だからな、
ただ産まれも育ちも日本だからイタリア語は喋れない。
まぁ、その似非イタリア人のロング金髪で容姿端麗成績優秀スポーツ万能な俺の姉貴。
滝内シモーナ。一見完璧に見えるが性格が最悪なのが玉に傷…というか致命的だ。
やたらとルックスと頭はいい癖にそれをどうにも俺を虐めるためだけに
使おうとしかしない。で、姉貴が呼んだ俺の名前は滝内翔太。
正真正銘の日本人だ。
ちなみに顔は並だ…と思う。
本当のお袋は俺が2歳の時に病気で死んだ、らしい。
何せ2歳の時のことだから覚えちゃいないがね。
で、今の母親と親父が再婚したのが4歳の時。
その時から姉貴とは一緒に住んでいる、わけだ。
ちなみに姉貴と言っているが誕生日は1ヶ月違うだけ。
たかが1ヶ月の違いで姉貴は自らの存在を敬えと毎日の様にこっぴどく俺に聞かせ続けた。
「さっきから何をブツブツ言っている、聞こえなかったのか、バカ」
「聞こえてるよ」
やれやれ、今日も姉上様がご立腹だ。
仕方ないから俺は肩に下げてたバッグを上げなおし、
傘をしっかりと持って姉貴の方へとついていった。
「大体、バカがこんな雨真っ盛りな時に
寝坊などするから悪いんだ、反省してるのか、バカ」
「わかってるよ、反省してるって」
そう、俺は今日寝坊した。
それで何時もとは違うルートを通って学校へと向かっている。
姉貴が最近発見したとかいうショートカットのコースだ。
「急げ」
姉貴の声に俺は溜め息まじりに姉貴の後を追う。
何の因果でたかだか1ヶ月の差でこうも格付けが決まってしまうのか。
人生とは世知辛いね。いや、マジで。
そこから500mほど歩いたところだろうか。
姉貴がふと立ち止まった。
「どうしたんだよ?」
「おぃ、痛い人間がいるぞ」
「はぁ?」
姉貴が傘を持つ手を差し替え指をさす。
そこには布着れを纏ったやたら綺麗な女の子が座っていた。
「おいバカ、ちょっと話しかけてみろよ」
「…嫌だよ、これ以上変なのに関わりたくない」
「私の命令が聞けないのか?早くしろ、バカ」
姉貴がどげしという盛大な効果音付きで俺の背中を蹴って押した。
俺はもつれながら女の子に近づく。
こんなところでコスプレだろうか…?
猫耳…じゃないな、犬耳だ。
茶色い癖っ毛に犬耳をつけて長い髪は乱雑にしてたのだろうか、
あちこちが痛んでるのかぴょんぴょんと寝癖のようなカール状の癖が飛び出していた。
更に良く見ると尻から尻尾のアクセサリーまで付けていて
オマケに服はボロッちい布切れ一枚だ。
しかも傘もささずに雨の中、ただじっと座っている。
俺は少しばかり溜め息をつくと意を決して女の子に話しかけた。
…仕方ないだろ?姉貴の命令だからな。
「なぁ、あんた、何やってんの?」
女の子は俺を上目遣いで見上げた。
尻尾のアクセサリーがパタパタと振られた。
最近のコスプレグッズは芸が細かいな…。
「わん!」と勢い良く女の子が吼えた。
「………」
俺は小さく首を横に振る。
駄目だ、完全に痛い子だ。
俺は姉貴の方に振り返るとその場を後にしようとした。
「なんだ、もう降参か」
「いや、絶対普通じゃないぞ、あいつ…」
「犬のコスプレをしてるときは犬語しか
話さないポリシーなのだろう、中々見上げた根性じゃないか」
「そういう根性は、別の分野で発揮してもらいたいね」
「そうか、それじゃあ翔太はあの見るからに痛い子を見捨てて行くのだな」
「そりゃ赤の他人だし、あの子も何か目的があってやってるのかも知れないしな」
そう言うと姉貴はワザとらしくニヤついて、
「そうか、あの格好だ、この後あの痛い子は群がる男どもに
手酷いボロ雑巾のように陵辱されて泣いて懇願しても助けてもらえず、
一生、お前のことを恨んで生きていくのだろう」
何てこと言いやがる、この女は。
じゃあ何か、俺がここでこの痛いコスプレ少女と
何らかのフラグを立てないと駄目ということか?
冗談じゃない、そう言おうとした時だ。
「いやいや、私はお前を責めたりしないぞ、
何せ赤の他人だ、”血が繋がってない”んだからな」
………くそっ、そこを強調してくるか。
「…わかったよ、どうすればいいんだ?」
俺が諦めたかのようにそう呟くと姉貴は満足気な笑みを浮かべて
「そうだな、とりあえず部室にでも保護しておくか、
放課後に警察に届ければ問題なかろう」と言った。
部室にねぇ…
「姉貴、章太郎と田辺は風邪で今休みだからいいが、大問題児が一人いるぞ」
「ふむ…あの変態か、まぁ何とかなるだろう」
そう言うと姉貴は女の子に手を出した。
女の子は首を傾げて不思議そうに姉貴の手を見る。
「何だ、犬のくせにお手も出来んのか」
「…まず突っ込む所が違うだろ」
「冗談だ」
姉貴はくくっと笑いを浮かべると
「ほら、来い、お前の名前は何だ?」
と聞きながら無理やり女の子の手を引っ張ると強引に立たせた。
「…くぅ~ん」
「あくまで犬語を話すか、中々強情だな」
「はっはっ…わんっ!」
女の子はそう吼えるとダッシュで俺に抱きついてきた。
「うぉっ!?」
思わず俺は女の子に押し倒されるように転倒してしまう。
俺に覆いかぶさるように女の子は俺の腹の上に乗っかると
尻尾のアクセサリーをブンブンと振りながら舌を出す。
おい…まさか………
「やめろ!こらっ!!」
俺は必死に女の子の顔を引き剥がす。
「お前は変態に好かれる特殊能力でも保有しているのか?」
姉貴が溜め息まじりにそう呟いた。
知るか、そんなもん。
俺はなんとか女の子を払いのけるとその場を立ち上がる。
「俺は先行くぞ、姉貴が責任持って部室に連れて行けよ!」
そう言い残して俺はその場から逃げ出した。
マトモな神経で付き合っていられるか。
昼休み
姉貴は結局教室に来ていない。
普段、授業自体はまともに出ているから何か問題でも起きたのだろうか?
流石に心配になってきた。
うーん、一応部室覗いてみるか。
ちなみに俺たちは文芸部に所属している。
姉貴は部長だ。
文芸部は三階の渡り廊下を歩いて一階の部室棟の
一番奥という非常に面倒くさいというか嫌がらせとしか思えない場所にある。
そもそもこの高校の校舎は作りが複雑すぎる。
俺は歩いて部室棟まで行くと部室の扉を軽くノックした。
「誰だ?」
姉貴の声が聞こえてきた。
やっぱりここにいたか。
「俺だ」
手短に用件だけ言う。
口で争っても勝てないからな。
「他に誰もいないな?」
「ああ」
「よし、入れ」
ガチャっとドアを開けると何故か体操着の姿の姉貴と姉貴の制服を着た例の女の子がいた。
「わん!」
女の子の髪は綺麗に整えられていて長かった髪の毛はツイストに纏められていた。
「吼えるなっ!」
女の子が吼えたと同時に姉貴の叱咤が飛んだ。
女の子はきゅ~んと言って丸くなって寝転んだ。
「…もう飼いならしたのか、名前は聞き出せたか?」
「いや…少々面倒なことになった」
「?」
不思議そうな顔をする俺に姉貴が神妙な面持ちで言う。
「いいか、驚愕するなよ?」
そう言うと姉貴は一気に女の子のスカートをずり下げる。
「ばっ…何してんだ!?」
「よく見ろ、バカ」
「あん…?」
恐る恐る目を開けて目に飛び込んできたのは女の子のお尻
…そして、そこに直接生えてるらしき尻尾…
「ほー、今のコスプレグッズは直接肌につけるのか」
「それなら良かったんだがな…」
そう言って姉貴は尻尾をおもむろに掴んで引っ張る。
「きゃんっ!?」
尻尾と同時に女の子のお尻も持ち上がった。
…?
どういうことだ…?
「生えてるんだよ、尻尾が、ちなみに犬耳も本物だった」
「なんだそりゃ!?どんな生物だよっ!!」
「うむ、思わぬところで未知の生命体と遭遇してしまったわけだ」
クエスチョンマークがびっしりな俺に向かって姉貴が言う。
「ライトノベルなどで良くあるだろう?
擬人化された猫とか、あれの犬ヴァージョンだな、これは」
「はぁ?現実にそんなものいるわけ…」
姉貴はペシペシと女の子の茶色い頭を叩く。
「いるんだ、ここに、現実に」
「わふっ」
「…頭痛くなってきた」
「くぅ~ん…?」
女の子が愛玩犬のような眼差しでこっちを見てくる。
「今朝話していた警察は駄目だな」
「何でだよ?」
「こんな不思議生命体を世間に公表してみろ、
良くて動物園で一生見世物、悪くて生きたまま解剖だ」
姉貴に言われて檻の中でくんくん鳴いてるところと
泣き叫びながら解剖されてるところが素で想像できた。
…まぁ、正直あまり良い気持ちはしないな。
「…じゃあ、どうすんだよ?」
「ここで飼うしかあるまい」
「はぁ?ここって部室でか!?」
心底驚いてる俺を無視して姉貴は話を進める。
「そうだな、まず名前が必要だな」
「無視かよっ!?」
「おい、バカ、しっくりくる名前をつけてやれ」
「そして無茶振りかよっ!?」
「何だ、ペットの名前の一つも考えられんのか、文芸部員の名前が泣くぞ」
姉貴は仰々しく両手をやれやれと言った感じに上げると
「まぁ、バカには少々荷が重かったか、すまないな、
お前の頭の中身が非常にお粗末なのを思慮に入れるのを忘れていた、
いや、お前は悪くない。むしろこんな単純な問題も出来ないお前を指名した私が悪いんだ」
こいつ…一発殴ってやろうか。
というか名前くらい考えられるぞ、バカにすんなよ。
「名前だろ?いいよ、考えてやるよ」
俺は弾みでそう言うと姉貴がそこでほくそ笑んだ。
しまった…計算づくか、この女。
「よし、この犬の名前を決める大任を任せるぞ」
「…わかったよ」
俺は溜め息をつくと椅子に座りじっと女の子を見る。
ふむ…どう見ても女の子だ。
流石にポチやコロなんて名前をつけたら俺が姉貴にぶっ殺されてしまうだろう。
………………
「おい、バカ、まだ決まらんのか」
「五月蝿い、今考え中だ」
姉貴は部長机に肘をつきながらジト目でこちらを見ている。
「うん、そうだな、泪乃ってのはどうだ、泪と雨をかけてみたんだが…」
「何故雨だ?」
「そりゃ雨の日に拾ったからだ」
「…単細胞」
ぼそっと酷いことを言ったぞ、今。
「まぁ、いい、それにしよう、いいか、今からお前の名前は泪乃だ、いいな?」
女の子は不思議そうに首を傾げる。
「泪乃」
「くぅ~ん?」
「泪乃」
「はっはっ」
「泪乃」
「わんっ!」
3回目で女の子は自分の名前が泪乃である、と認識したようだ。
…意外にも頭は悪くないみたいだな。
「しかし、勝手に部室でこんな不可思議な動物を飼っていいのか?」
「部長の私が認めたんだから問題あるまい」
あるだろ、普通に、山ほど。
「顧問など居て居ないに等しいし、幸い部員は5名の少数だ。
外部に誰も漏らさなければ誰にもばれん」
「…姉貴のその性格は今に始まったことじゃないから、まぁ、いいけど」
「じゃあ、そういうことで午後の面倒は頼んだぞ」
そう言うと金髪を翻して姉貴は部室を出て行こうとする。
「おいおい!どういうことだ!?」
俺は慌てて姉貴を呼び止めた。
「午前中私がずっと面倒見ててやったんだぞ、
午後はお前が面倒を見ろ、万が一脱走でもされたら厄介なことこの上ないからな」
「いや、姉貴が面倒見ろよ…」
「お前は貴重な単位の取得をバカ犬もどきのために捨てろと言うのか?
何という酷い弟だ、お前の言うとおり部室に連れてきてやって
しかも今の今まで面倒見てやっていたのは誰だというんだ?」
部室に連れて来るって案を出したのはお前だろうが…
「知らんな、何時までも昔のことを穿り返していると直ぐに老化が訪れるぞ」
今さっき、午前中の面倒は誰が見たとかぬかしてなかったか?
「だから知らん、いいから午後はお前が面倒を見ろ、それじゃあな」
そう言うと姉貴は無駄に長い金髪をたなびかせバタンと扉を閉めて出て行った。
取り残されたのは俺と泪乃の二人…いや一人と一匹だ…
「はぁ~…参ったね、こりゃ」
俺はパイプ椅子に座り直すと泪乃を見てそう愚痴を零した。
泪乃はと言えばよく日が当たる場所に移動して
日向ぼっこをしているのか体を丸めて寝ている。
第一の難関は「あいつ」との遭遇だよな…どう考えても………
俺はポットからお茶を注ぐと一口飲んで
屈託の無い笑顔を浮かべる黒髪の見た目は美少女、を思い出した。
「俺の周りに普通の美人は現れないものなのかね…」
一人ごちて見たが俺の周囲の取り巻く環境が急に変わるなんてあるはずもなく。
問題の放課後は直ぐ側まで足跡を響かせながらやってきた。
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