↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

ワナビアンナイト:ワナビがバズってナニしたか?

作者: 黒船雷光
掲載日:2026/09/16

 俺はワナビだ。


 ネットで調べると以下の文が出てくる。

(ワナビ(Wannabe)は、英語の 「want to be」(〜になりたい) を縮めた俗語・スラングに由来する言葉です。)


 もう一度言おう、俺はワナビだ。


 小説家になりたい。

 漫画家にもなりたい。

 ゲームクリエイターも捨てがたい。

 できれば映画監督なんかもやってみたい。


 ……つまり、夢は多い。


 そして、何もしていない。

「いつか、本気を出せば……」それが俺の座右の銘だった。


 現在二十八歳。

 ニートで自宅警備員で……つまり、無職。


 実家暮らし。

 お袋はオレの就職をあきらめた。親父は今は何も言わない。


 部屋には買っただけで一度も読んでいない創作論の本が十三冊。


 未開封の液タブが一台。


 インストールしただけで起動していない小説執筆ソフトが二本。


 そして、去年の正月に書いた「今年こそ創作する!」と書かれたA4の紙が机の前に貼ってある。


 今年も九月になった。


 俺は今日も布団の上でスマホをいじっていた。


 何か面白いものがないか探している。ショート動画、Xにアダルトチャットと海外の無修正動画サイトを周回する。


 ……創作のためだ。

 そう、もちろん創作のためなのだ。


 決して暇だからではない。……はっ?!日付変わってるし。

 いやいや、決して暇ではない。


 深夜、暗闇に浮かぶスマホの明るい画面。

 クソ、ソシャゲの「ハーレムメイドバスターズ」100連回して天井すり抜けたよクソが!


 そんな俺に、突然――天啓が降りた。


「……宇宙人が、町内会費を払ってる」


 自分でも意味が分からなかった。


 だが、続けて浮かんだ。


「しかも、地球侵略のために来た宇宙人なのに……町内会長が怖すぎて逆らえない」


 さらに浮かぶ。


「町内会の回覧板を回さないと、町内全員から苦情が来る」


「ゴミ出しの日を間違えると、宇宙船ごとゴミ捨て場に捨てられるが、資源ごみは月末ですと回収不可の剥がれづらいシールを貼られて難を逃れる」


「最終的に宇宙人が『地球侵略より町内会のほうが怖い』って泣く」


 俺は飛び起きた。

「……天才じゃね?」


 久しぶりに、脳が震えた。

 鼻から脳が漏れた。いや違う、これは鼻水だ……。


 これだ。


 とりあえず、これを書けばいい。


 今まで俺が書かなかったのは、才能がなかったからじゃない。


【本当に書くべきネタに出会っていなかっただけだ】


 俺は三時間で短編を書いた。


 推敲?


 しない。


 誤字?


 知らん。


 タイトルは、


『宇宙人、町内会に入る』


 勢いだけで投稿した。


「まあ……こんなの、分かる奴には分かるだけだろう」


 そして、寝た。


 ◇


 翌朝。


 スマホが震えていた。


 最初は目覚ましだと思った。


 だが、違った。


 通知だった。


 一件。


 三件。


 十件。


 百件。


「……?」


 さらに震える。


 止まらない。


 画面を開く。


 コメント。


 シェア。


 いいね。


 引用。


 通知。


 通知。


 通知。


 通知。


「え?」


 俺は画面を見つめた。


 昨日投稿した短編が、拡散されていた。


 しかも、とんでもない勢いで。


『朝から腹筋死んだ』


『なんだこれwww』


『宇宙人が町内会長に土下座するところで無理だった』


『意味不明なのに妙にリアル』


『今年一番笑った』


『これ書いた人、天才だろ』


 最後のコメントで、俺の手が止まった。


「……天才」


 胸が熱くなった。


 そうだ。


 やっぱり。


 俺は天才だった。


 今まで世間が俺を評価しなかっただけだ。


 才能はあった。


 ずっとあった。


 俺自身が、それを持て余していただけなんだ。


 フォロワーが増えている。


 昨日まで二十七人だったのが、


 百。


 千。


 一万。


「……一万?」


 俺は笑った。


 笑いながら、震える手で画面を更新した。


 さらに増えている。


「はは……」


 スマホが震える。


 震える。


 震える。


 充電器につなぐ。


 通知が来る。


 また来る。


 俺は布団の上で笑い続けた。


「俺……作家になれるじゃん」


 母親が昼食を呼びに来た。


「ご飯よ」


「今忙しい!」


「珍しいわね」


「俺、今バズってるから!」


 母親は何も言わず、ドアを閉めた。


 俺はまた画面を見た。


 コメントが流れていく。


 知らない人が俺を褒めている。


 知らない人が俺の作品について語っている。


 俺の作った世界を、俺の知らない誰かが楽しんでいる。


 こんなことがあるのか。


 俺は笑った。

 ……泣きそうになった。


「……俺、やればできるじゃん」


 その夜。


 俺は眠らなかった。


 ずっと通知を眺めていた。


 何度も何度も更新した。


「〇〇〇出版の■■です。ぜひ短編集への掲載許可を……」

「▲▲▲社の◎◎です。コミック化とシリーズ化の企画を……」


 ……というDMが飛んでくることを期待した。


「せっかくなんで、美人編集者付けてもらって……むふふ」

「ヒットしたらお袋連れて世界中を取材旅行かな……」

「ファンの推しになって、コスプレイヤーにモテて……」


 何も起きていない現状でも、その先に期待させるバズリだった。


 そして、夜が明けた。


 ◇


 昼。


 俺は目を覚ました。

 スマホを手に取る。

 通知は――三件だった。


「……あれ?」


 昨日の勢いが嘘のようだった。


 検索する。

 話題になった投稿は、もう流れている。


 新しい話題。

 新しい炎上。

 新しいニュース。


 誰も俺のことなんて覚えていない。

 昨日あれほどあったコメントも、タイムラインの遥か下に沈んでいる。


 フォロワーは少し増えていた。


 それだけだった。


「……」


 俺は画面を閉じた。

 部屋が静かだった。


 昨日は世界中が自分を見て、賞賛していたような気がした。

 でも、それは一晩だけだった。


 俺は布団から起き上がった。


 机を見る。

 液タブがある。

 買っただけの創作論がある。


 俺はしばらく、それらを眺めた。


「……まあ」


 そしてスマホを開いた。

「一発当てたんだから、もう『ワナビ』じゃないよな」


 昨日の短編を読み返す。

 宇宙人が町内会長に怒鳴られている。

 自分で書いたのに、少し笑った。


「……俺、やっぱり天才だな」


 そう呟いて、また布団に戻った。


 スマホの画面には、

『宇宙人、町内会に入る』

 というタイトルが表示されていた。


 その下には、

 昨日より一つ増えた「いいね」

 があった。


 俺はそれを確認すると、満足してスマホを伏せた。


 そして……


 今日も何もしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。