左遷先のお仕事
「君も運がないねぇ。こんなところに飛ばされるなんて」
そう言われてむすっとする。
分かり切ったことを一々言ってこなけりゃいいのに。
「まぁ、既に聞いていると思うけど。君の仕事はここに座ってこいつの邪魔をするだけ」
簡素な椅子。
子供だってもっと良いものを欲しがるに違いない。
座り心地は……案の定、最悪だ。
「で、ここからが重要だ。こいつはもう何百年と同じことを繰り返している。だけど、未だに諦めないんだよ」
事前にもらった資料を見る。
なるほど。
こいつが救おうとしているのは奴隷なのか。
「ロマンチックだよねぇ。王子なのに奴隷の女の子を救おうとするなんて」
確かにロマンチックだ。
資料によればこの王子は『本来であれば』彼女を救えず終わる。
そして、その事から誰であっても笑える世界を作るために奴隷のない世界を作ることを決意して、偉大な王となり実際にその夢を『叶えた』のだ。
あくまで本来であればだが――。
「だけど、困るんだよね。こいつが実際にこの娘を救っちゃうと歴史が大幅に変わっちゃうんだよ」
そう。
その通り。
この王子が奴隷を救ってしまえば、彼はそれで満足してしまい偉大な王となることはない。
当然ながら本来作られるはずだった奴隷のない世界も生まれない。
「だから、君の役目はこいつがこの娘を救えないよう見守り続けること。要するにこいつの心が折れるまで見守っているだけだよ。で、万が一にも救えそうなことがあったら君はそれを止める。簡単だろう?」
簡単だけど簡単じゃない。
そもそもただの人間が何でこんな時へ干渉出来る魔法を使えているのやら――。
「愛の力って奴だよ。困ったことにね」
世界の理を崩せるような魔法の管理が杜撰だったことの回答をその一言ですまさないでほしい。
そう言いたいのを察したのか先輩はニヤリと笑って。
「それじゃ、失礼するよ。じゃーねー」
どっかへ行ってしまった。
さて。
こうして私は独り座り込んで延々と眺め続ける羽目になる。
奇跡が起こらない限り決して報われない王子の一人芝居を。
「なんで諦めないんだよ」
そう呟いてしまう。
こんな状況になったらもう諦めて受け入れた方がよっぽど楽なのに。
イライラしながら王子の無駄な努力を見つめ続ける。
「私だって受け入れてんだからさ。現状を」
上位存在の言葉なんて聞こえるはずも届くはずもない。
それなのに私は言葉を続けてしまう。
「神様だって助けられないことはあるんだよ。だからもう、受け入れなよ。本当に」
私の声を知る由もなく、王子は必死に奴隷の少女を救おうとし、また失敗する。
その度に時間を巻き戻して何度も何度も救おうとし、また失敗する。
「本当、最悪だ」
聞いていた通りだ。
助けられる力があるのに何も出来ないし、しちゃいけない。
赦されるのは諦めるのを待つばかり。
数ある神様の仕事の中でこの仕事は本当に最悪だ。
「早く異動したい」
ぽつり呟く声は部屋の中で空しく響くばかりだった。




