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終末世界の管理業務。人材より人命が足りていません――欠勤事由:死亡のため  作者: ぶらっくそーど


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9/33

抽出業務は命懸け。なお、危険手当の申請書は148ページです③


 11時00分。二人目。セラ。


 セラは抽出(ドレイン)室に入ってくるなり、にこにこと笑った。



「つかさ、おはよ! 今日も抽出(ドレイン)?」


「今日も抽出(ドレイン)です」


「がんばろー!」


 元気だ。元気すぎる。その元気が物理的な災害に直結することを除けば、好感が持てる性格である。


「じゃあ椅子に座ってもらえますか」


「うん!」



 セラが椅子に座る。


 座った瞬間、椅子の肘掛けにひびが入った。



「あ、ごめん」


「……大丈夫です。ひびだけなら」



 装置を起動する。セラの場合、感情の波が空間に干渉するため、抽出(ドレイン)中はできるだけ平穏な精神状態を維持してもらう必要がある。



 手順書の事故記録にはこうあった。



『セラの抽出(ドレイン)において最も危険なのは、「楽しい」「嬉しい」という正の感情である。管理者(マネージャー)との会話が盛り上がった場合、空間歪曲率が急上昇する傾向がある。推奨対応:つまらない話をする』



 つまらない話。



「あの、セラさん」


「セラでいいよ!」


「セラ。抽出(ドレイン)中は、あんまり楽しくならないでほしいんですけど」


「え? なんで?」


「楽しくなると空間が歪むので」


「そっかー。じゃあ、つまらない話して!」


「……つまらない話」


「うん!」



 急につまらない話を振られても困る。



「えーと……配給ポイントの計算方法の話とか」


「つまんない! いいね!」


「いいの?」


「つまんない話してって言ったから、つまんなくていいの!」



 それは正しいのだが、「つまんない」と元気に肯定されると話す気力が失せる。



管理者(マネージャー)の月額ポイントは基本給が800ポイントで、そこから居住区の使用料が200ポイント引かれて――」


「うんうん」


「食料配給の基本パックが150ポイント、光熱費が――」


「つかさってさ」


「はい」


「この仕事、好き?」



 唐突な質問だった。


 抽出(ドレイン)装置の数値を見る。安定している。セラの表情は笑顔だが、先ほどより穏やかだ。空間の歪みも感知されていない。



「好きか嫌いかで言えば、まだ判断するには早いです。三日目なので」


「三日目かー。前のひとは、一週間で『辞めたい』って言ってたよ」


「……辞められたんですか?」


「ううん。辞められなかった」



 セラの声が少し静かになった。



「あのひと、優しかったよ。メルトのノートもちゃんと補充してたし、ラグナと一緒に走ってくれたし。カイムの冗談にも付き合ってた」


「いい人だったんですね」


「うん。でも、いなくなっちゃった」



 空気が重くなった。抽出(ドレイン)装置の数値がわずかに揺らぐ。感情の波が出始めている。



「セラ」


「……ごめん。大丈夫」



 深呼吸。数値が戻る。



「あたしね、つかさにはいなくなってほしくないなって思う。まだ三日目だけど」



 その言葉に、なんと返せばいいのか分からなかった。「いなくなりません」と言い切れるほど、この職場は安全ではない。「頑張ります」と言うのも違う。頑張ってどうにかなる危険度ではない。



「……チョコの在庫管理だけは、ちゃんとやります」



 我ながら情けない返事だった。しかしセラは、ぱっと笑った。



「あはは! なにそれ!」


 笑った瞬間、椅子の背もたれが割れた。

 抽出(ドレイン)装置の警報が鳴る。空間歪曲率、許容値を超過。



「セラ、落ち着いて」


「あ、ごめんごめん!」



 深呼吸。二回。三回。数値が下がる。背もたれは直らない。

 抽出(ドレイン)完了。装置を停止させ、データを保存する。



「おつかれさま、つかさ!」


「おつかれさまです」



 セラが部屋を出ていく。出ていく際に、ドアの枠を軽く叩いた。枠にひびが入った。


 修繕費の請求書、今月だけで何枚になるだろう。



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