表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界の管理業務。人材より人命が足りていません――欠勤事由:死亡のため  作者: ぶらっくそーど


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/45

日常業務とは、生き延びることである④


 夜。自室。


 就寝前の時間。いつもなら端末でニュース(といっても、ネビュラスの社内報しかないが)を読んで寝るだけだ。しかし今夜は、水曜の臨界点クリティカル・ポイントのことが頭から離れない。



 端末で過去の臨界点クリティカル・ポイント記録を検索する。



 直近の臨界点クリティカル・ポイント:半年前。第三地下区画(セクター)。暴走した変位個体(ディスプレイスド)は、分類名【月の呪術師】。管理者(マネージャー)は鎮圧に成功したが、全治三ヶ月の重傷。現在も療養中。



 その前:八ヶ月前。第十一地下区画(セクター)。暴走した変位個体(ディスプレイスド)は、分類名【灰色の預言者】。管理者(マネージャー)は鎮圧に失敗。第三段階に移行し、区画ごと凍結処理。管理者(マネージャー)は――。



 記録が黒く塗り潰されていた。閲覧制限。



 さらにその前:一年二ヶ月前。第四地下区画(セクター)。暴走した変位個体(ディスプレイスド)は、分類名不明。管理者(マネージャー)は佐久間――。



 佐久間。



 あの社内通達の、佐久間職員。第四区画の管理者(マネージャー)。欠勤事由:死亡。



 記録によれば、この臨界点クリティカル・ポイントの際に佐久間さんは重傷を負い、その後、第七区画に異動になっている。第七区画で再び管理業務に就き、そして――死亡。



 二つの区画を渡り歩いて、最後に死んだ。


 俺の前任者は、一度生き延びた人だった。一度生き延びて、それでも死んだ。


 端末を閉じた。



 天井を見上げる。コンクリートの天井。蛍光灯の光。地下117階。


 この仕事を選んだのは、他に選択肢がなかったからだ。



 50億年後の地球に、ネビュラス以外の雇用主は存在しない。食うためには働くしかなく、働くとはすなわち、ここで命を懸けることだ。



 しかし――それでも、と思う。


 ノクスのチョコを食べる顔。セラの無邪気な笑顔。メルトのノートの丁寧な字。ラグナの全力疾走。カイムの不思議な微笑み。



 彼女たちは、怪物だ。人知を超えた力を持ち、一歩誤れば俺を殺す存在だ。


 でも、同時に、この地下で一緒に暮らしている隣人でもある。



 チョコがあれば機嫌が直る魔王。笑うと空間が裂ける勇者。声の代わりにノートで話す魔女。走ると建物が壊れる獣。明日のことを今日教えてくれる魔法少女。



 管理者(マネージャー)マニュアルの表紙には、こう書いてあった。



「第七地下区画(セクター)管理者(マネージャー)マニュアル ――変位個体(ディスプレイスド)との共生のために――」



 共生。


 表紙にはその言葉があったのに、中身は83年間、書かれなかった。共生の方法は、誰にも言語化できなかったのかもしれない。マニュアルにはできないものなのかもしれない。



 なら、自分で書くしかない。



 端末を開き、新しいファイルを作成した。



 ファイル名:「第七地下区画(セクター)管理者(マネージャー)マニュアル(灰嶋版)」



 第一項:死なないこと。

 第二項:チョコを切らさないこと。

 第三項:彼女たちの話を聞くこと。



 前任者のメモと半分同じだが、三つ目だけは自分の言葉だ。


 保存して、端末を閉じた。


 明後日、水曜日。臨界点クリティカル・ポイントが来る。


 来たら、どうする。


 答えはまだない。でも、逃げる場所もない。


 ここで生きて、ここで働いて、ここで彼女たちの面倒を見る。それが俺の仕事だ。


 世界で一番割に合わない仕事だが――世界に他の仕事がない以上、これが俺の全部だ。


 目を閉じる。


 明日の準備を、明日の俺がやるだろう。


 来月のチョコの在庫は、来月の俺が考えるだろう。


 ――ノクスの思考法に毒されている気がするが、今夜はもう寝る。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ