表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界の管理業務。人材より人命が足りていません――欠勤事由:死亡のため  作者: ぶらっくそーど


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/41

日常業務とは、生き延びることである②


 朝の巡回。


 ノクスの部屋。ドアをノックする。返事がない。いつものことだ。



「ノクス、生存確認です」


「……いきてる」



 布団の中から声がした。確認完了。


 次。セラの部屋。ドアをノックする前に、中から声が聞こえた。



「つかさ! おはよう!」



 ドアが開き、銀髪の少女が顔を出す。朝から笑顔。朝から空間が微妙に歪んでいる。



「おはようございます。体調は?」


「元気!」


「空間の制御は?」


「えーと……七割くらい?」



 七割。残りの三割が空間裂傷になる可能性。



「八割を目指しましょう」


「がんばるー!」



 次。メルトの部屋。ドアの下からノートが出てきた。



『おはようございます。異常なし。ノートの残り、二冊です。』



「補充の申請は出しました。三営業日以内に届くはずです」



 ノートが引っ込み、新しいページが出てきた。



『はずです、ではなく、届きますか?』



「届かなかったら、俺が買いに行きます」



 どこに買いに行くのだという話だが、これは口約束の問題ではなく、メルトの安心の問題だ。ノートがなくなれば、彼女はすべての伝達手段を失う。声が凍る彼女にとって、ノートは声そのものだ。



 ノートが引っ込み、また出てきた。



『ありがとう。』



 一言だけ。しかし、昨日までの丁寧語が消えていた。少しだけ距離が縮まった気がする。



 次。ラグナの部屋。ドアに近づいた時点で、振動が感じられた。



 ドアを開ける。



 ラグナがベッドの上で跳ねていた。跳ねるたびにベッドの脚が床にめり込んでいる。



「おはよう! つかさ!」


「おはよう、ラグナ。ベッドの上で跳ねないでください」


「なんでー?」


「ベッドの脚が床にめり込んでます」


「えっ」



 ラグナが下を見た。ベッドが3センチほど沈んでいる。



「……ごめん」


「大丈夫です。修繕依頼出しておきます」



 今週四件目の修繕依頼だ。


 最後。カイムの部屋。ノックする。



「はーい」



 穏やかな声。ドアが開く。



「おはよう、司くん。生存確認でしょ?」


「はい」


「生きてるよ」


「確認しました」


「あとね」



 カイムが少し声を落とした。



「水曜日、近いよ」



 分かっている。あと二日だ。



「誰が暴走するのか、教えてもらえませんか」


「うーん。わたしにも、はっきりとは見えてないんだよね。でも……」



 カイムは目を細めた。



「深いところから、何か来る感じがする」



 深いところ。



 この区画のさらに下――【深層(アビス)】。封印級の変位個体(ディスプレイスド)が眠るとされる、最深部。



深層(アビス)から?」


「うん。でも、それがこの区画に影響するかどうかは分からない。ただ、何かが動いてるのは確かだよ」



 カイムは微笑んだ。穏やかな顔だが、目の奥に、いつもと違うものが揺れていた。



「司くん、怖い?」


「怖いです」と答えた。ノクスに訊かれた時と同じ答えだ。正直に言う以外に、選択肢がない。


「そっか。怖くていいと思うよ。怖くない人は、先に死ぬから」



 予言ではなく、経験則のような口調だった。



 カイムは何人の管理者(マネージャー)を見送ってきたのだろう。何人が、「怖くない」と言って、先に逝ったのだろう。



「気をつけてね、司くん」



 ドアが閉まった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ