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終末世界の管理業務。人材より人命が足りていません――欠勤事由:死亡のため  作者: ぶらっくそーど


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11/51

抽出業務は命懸け。なお、危険手当の申請書は148ページです⑤


 15時00分。ラグナの抽出(ドレイン)


 抽出(ドレイン)室に入ったラグナは、椅子に座ることを拒否した。



「じっとしてるのイヤ!」


「イヤでも座ってください」


「やだー!」



 床が揺れた。


 壁に掛けた計器がひとつ落ちた。



「ラグナ、座らないと抽出(ドレイン)できないんです」


「走りたい!」



 手順書を思い出す。ラグナの抽出(ドレイン)方式は「運動によるエネルギー放出」だ。走らせてエネルギーを発散させ、その放出エネルギーを装置で回収する。椅子に座らせる方式ではない。


 つまり、さっきまでの静かな抽出(ドレイン)とはまったく別の作業になる。



「……分かりました。走ってください」


「やったー!」



 ラグナが笑顔で跳ねた。


 天井の照明がひとつ割れた。



 抽出(ドレイン)室の隣には、変位個体(ディスプレイスド)用の運動スペースがある。全長200メートルの直線通路で、壁も床も強化素材で覆われている。「強化」とは言うものの、ラグナの事故記録を見る限り、年に二回は改修工事が入っているらしい。



 ラグナが通路に飛び出し、走り始めた。


 速い。人間の子供の速度ではない。全力疾走するラグナの足元で、床が一歩ごとにひび割れ、壁が振動し、天井から粉塵が舞う。



 抽出(ドレイン)装置の回収モードを起動する。ラグナが放出する破壊エネルギーを、通路の壁面に埋め込まれたセンサーが拾い上げ、数値が跳ね上がっていく。



 3%……10%……18%……25%……。



 速い。ノクスやセラの倍以上のペースで数値が上がる。エネルギー量が桁違いだ。



「つかさー! 見てー! 速いでしょー!」



 ラグナが走りながら叫んだ。壁がさらに振動する。



「速いです! すごいです! だから壁を蹴らないで!」



 30%……35%……。



 警告音。振動値が許容範囲を超えている。しかし、ラグナの抽出(ドレイン)は規定量に達するまで止められない。途中で止めると、溜まったエネルギーが行き場を失い、本人ごと爆発する可能性がある――と手順書に書いてあった。手順が書いていない手順書のくせに、こういう致命的な情報だけはちゃんと載っている。



 40%……50%……。



「あはは! 楽しー!」



 笑った。笑うと振動が増す。通路の照明がまた一つ割れた。


 60%……70%……。


 もう少し。あと少し。


 80%……90%……。



「よし! 100%! ラグナ、ストップ!」


「えー、もっと走りたい!」


「100%いったので終わりです! 止まって!」



 ラグナは名残惜しそうに減速し、通路の端で止まった。


 止まった勢いで、壁に衝突した。壁に人型の凹みができた。



「ごめーん」


 通路を見渡す。照明は三分の一が破損。床のひび割れ多数。壁面に人型の凹み一箇所。


 修繕依頼の起票、今日だけで何件目だ。


 しかし抽出(ドレイン)量は100%。五人中で最も効率がいい。走らせるだけで規定量を超える。


 問題は、走らせるたびに施設が壊れることだ。



「つかさ! 明日も走っていい!?」


「……いいですよ」



 修繕費と世界の存続を天秤にかければ、答えは決まっている。


 壊れた照明の数を数えながら、俺はそう答えた。



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