可愛らしい人
リハビリなので、いろいろ甘いですがご容赦ください
「メアリー嬢、俺に君をこれから守り続ける名誉をくれないだろうか」
「ライアン様、…私でいいのでしょうか」
「君がいいんだよ、メアリー」
ライアンと呼ばれた男性は目の前に立つ華奢で小さい女性を両手で包み込むように抱きしめた。メアリーと呼ばれた彼女もその細い腕をライアンの背中に回す。メアリーのブロンドの長い髪が風に吹かれて優雅に靡いた。
抱き合う2人から少しだけ離れた木陰には一人の女性が座っていた。学食で買ったサンドウィッチを片手に頬張っている黒髪の美女だ。
彼女と彼らは声が聞こえる近さにいるのだが、植木があるためか、彼らが2人の世界に入っているためか、ライアンとメアリーには彼女の姿は見えていないようだ。
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」
「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染みさ」
盗み聞きをするつもりはなかったが、自分の名前が出たため彼女はサンドウィッチではなく2人に意識を向けた。植木の隙間から抱き合ったまま話を続ける2人の姿が見える。
ライアンが言っているのはこの場を取り繕うための方便ではなく事実だった。ライアンとエレナは正式な婚約者ではなかった。家が隣同士の幼馴染み。
ライアンは公爵家の次男で、エレナは侯爵家の長女だった。家の格が合っていて、両親も仲が良く、2人も幼い頃から仲良くしていた。ただそれだけの仲だった。けれど、数年前からパートナーの同伴が必要なパーティーには2人で参加するようになっていた。
ライアンとエレナはともに17歳であり、婚約者がいて当たり前の年齢だ。だからこそ、自他共に婚約者だと認識しているようなものだった。
「それにあいつはひとりで生きていけるから」
「自立している女性なのですね」
「そういえば聞こえはいいけどね。女なのに剣も使えるし、守る必要がないっていうか」
「そういえば、剣術の授業を唯一女性で受けているのでしたね」
「ああ、本当に可愛げがないんだよな」
エレナはライアンのことを恋愛的に見たことはなかった。けれど、幼馴染みとして、婚約者として今後支えていかなければならないのだろうなとは思っていた。
「そんな風に思う必要なんてなかったわけか」
思わず出た独り言は小さくて、ライアン達の耳には入らなかったようだ。
「とにかく、エレナはただの幼馴染みなんだ。俺はメアリーみたいに守ってあげたいと思える女性が好きなんだよ」
「ライアン様」
「メアリー」
2人は見つめ合い距離を縮める。
人のキスシーンを見る趣味はないので、エレナは2人から視線を逸らした。
◇◇◇
大きな木に背中を預け、エレナは考える。確かに自分はひとりでも生きていけるな、と。エレナの生家であるヴァレット侯爵家は他国との貿易にも力を入れており、比較的裕福だ。優秀な兄がおり、兄妹仲はよい。
父親と母親とも仲が良く、2人とも考え方は新しいため、「必ず結婚をし、子孫を残さなければいけない」という昔ながらの考えに固執してはいない。エレナが行き遅れたとしても、家族が支えてくれるはずだという安心感があった。
エレナの学園での成績は常に上位で、運動神経もいい方だ。兄と同じように剣術を習っており、剣術の腕もエレナにはあった。身長も女性にしては高く、毎日剣術の訓練をしているため、身体が引き締まっている。女性らしさや可愛げという言葉とは無縁だろうことは自覚があった。
数年後にはライアンと結婚するのだろうなと思っていたため、エレナにはライアン以外の男性とのつながりはない。そもそも婚約をしていたわけでもないので、婚約破棄をすることもない分、根付いたライアンのパートナーのイメージを払拭する機会もないだろう。そのため、今後、婚約の申し込みを受けることが難しいことは容易に想像できる。
ならば、自分で新しいパートナーを探すしかないのだが、それも億劫だった。エレナは恋愛ごとが正直よくわからない。結婚をするよりも、家族の世話になりながら、高位の貴族の家で家庭教師の職に就き、生計を立てるのが現実的だなと思う。しかも護衛もできるため、なかなか需要があるのではないだろうか。
そうと決まれば今まで以上に学園の授業を集中して聞く必要があった。次の授業までまだ時間はあるが、できれば予習をしてから授業に臨みたい。
「早くどっか行かないかな」
「その願い、叶えてあげましょうか?」
急に声が聞こえた。2人の世界に没頭しているライアン達には聞こえなかったようだ。
エレナは辺りを見回し、最後に上を見上げた。背もたれにしていた木の上に人がいるのが見える。目が会うとリスの様な俊敏な動きで降りてきた。
笑みを浮かべてこちらを見るその青年にエレナは見覚えがあった。数秒じっと見つめ、隣のクラスの人であることを思い出す。
「思い出してくれました?」
「ええ、シモン様、ですよね?」
その言葉にシモンは嬉しそうに笑みを浮かべて頷いた。シモンはエレナの隣のクラスの生徒でだ。高身長に、端正な顔立ち。周りの女子生徒が黄色い声をあげていたことを思い出す。そういえば、剣術の授業でも一緒になっている。剣術の授業は2クラス合同で行われているため、そのときに顔を合わせたことがあるはずだ。ガタイがいいわけではないが、俊敏な動きに高い技術力を持ち合わせているシモンは剣術の授業の成績は常にトップだった。
「どかしてあげましょうか、あれ」
そう言って指を向けたのはライアン達のいる方角だった。
「いや…、お願いできるならしたいですけど…」
「お任せあれ」
満面の笑みでそう言うとシモンは再びリスの様に木に登った。枝の先まで行くと、2メートル近くある植木を飛び越えてライアン達の前に着地する。
「わっ!」
「きゃ!」
突然のシモンの登場に2人から声が上がった。
「お、お前、なんだよ!」
「木の上で寝ていたら君たちの声が聞こえましてね。すこーし盛り上がり過ぎな気がしたものですから、顔を出させていただきました」
「は?」
「ここは学園ですからね、いろんな人の目がいろんなところにあることを自覚された方がいいのではないでしょうか」
「…」
「ラ、ライアン様、もう、行きましょう」
「ああ、そうだな」
ライアンとメアリーは腕を組みながらシモンから離れていった。2人の背が見えなくなってからシモンがエレナのところに駆け寄る。
「これでよろしいですか?」
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして」
そう笑うシモンを見て、エレナの脳内には大型犬のイメージが浮かび上がり、思わず笑いそうになった。
「エレナ嬢?」
「いえ、なんでもありません。シモン様、正直動けなくて困っていたので、助かりました」
頭を下げるエレナにシモンは小さく首を振る。
「僕がしたかっただけですから。でも、お役に立てたなら高い場所からジャンプした甲斐がありました」
どこか和ませるような口調のシモンにエレナは小さく口角を上げる。
「それでは、私は教室に戻ります」
「エレナ嬢」
「なんでしょうか?」
「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」
その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。
「……いいえ」
当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。
「よければ僕と一緒に行きませんか?」
「……え?」
突然の言葉に一瞬理解が追いつかなかった。困惑しているエレナにシモンは補足するように言葉を足した。
「実は、僕も参加することになっているんですが、パートナーが見つからなくて。毎回妹にパートナーをお願いするのも格好がつかないのでもしエレナ嬢が嫌でなければ一緒に参加しませんか?」
シモンは頬を掻きながら苦笑を浮かべる。その表情でさえも整っている彼にどうしてパートナーがいないのか不思議だった。けれど渡りに船とはこのこと。
「私でよければぜひ一緒に行ってください」
「ありがとうございます!」
シモンは端正な顔に嬉しそうに笑みを浮かべる。絵本から出てきた王子様の様なその顔にエレナは一瞬息を飲んだ。
「それでは授業に遅れる前に教室に戻りましょうか」
「そうですね」
「隣のクラスですし、一緒に戻りませんか?」
「ええ、もちろんです」
エレナの同意に再び嬉しそうにシモンは笑う。王子様の様な見た目と人懐っこい笑みのギャップに女子生徒達は黄色い声を上げるのかもしれないなとエレナは思った。
◇◇◇
満天の星が輝く。それと同じくらい輝くシャンデリアの下、エレナはいろんな視線を向けられていた。白いタキシードを着こなす端正な顔立ちのシモンの腕に自分の腕を絡め、主催に挨拶をするための列に並ぶ。
「なんであの二人が一緒にいるの?」
「エレナ様は幼馴染みの婚約者がいたはずよね」
「そういえばライアン様は男爵家の令嬢と一緒におりましたわ」
「どうしてシモン様なの?」
女性で剣術を習っているエレナは貴族の令嬢から怪訝な目で見られることが多かった。そしてそんなエレナが女生徒から人気のシモンと腕を組んで夜会に参加しているのだ。周りが騒然とするのも無理がないのかもしれない。
「あの、シモン様」
「どうしました?」
「その…すみません」
主催への挨拶を済ませ、軽く軽食を2人で取りながらエレナは小さく頭を下げた。そんなエレナにシモンは首を傾げる。
「何の謝罪ですか?」
「私なんかがパートナーで」
学校から家に帰るとライアンから一通の手紙が届いていた。
『今後、いろいろな行事にパートナーとして参加することはない。婚約をしていたわけではないから連絡も不要だと思うが念のため伝えておく』
要約すればそんな内容だった。女性ながらに剣術を習っている男勝りな自分とパートナーだと思われることがいやだったとも書いてあった。なるほど、男性はライアンが昼間一緒にいたような可愛らしくて守ってあげたくなるような女性が好きなのだろう。だからそんな理想とはほど遠い自分と一緒にいるとシモンまで笑われてしまうのではないかと思ったのだ。
「エレナ嬢…僕とダンスを踊っていただけますか?」
「え?…はい」
突然の申し出にエレナは驚きながらも頷いた。そんなエレナを見て、シモンは嬉しそうな笑みを浮かべる。そっと腕を取ると、ダンスができるスペースにエスコートした。
ちょうどよく音楽が流れる。夜会にはいつもライアンと参加していたから、彼以外でこんなに男性と密着するのはほとんど初めてだった。
「エレナ嬢」
「はい」
「僕は君のパートナーとしてここに来られて嬉しいです。だから、謝らないでください」
シモンの腕がエレナの腰に回る。シモンのリードは的確で、踊りやすい。ライアンはダンスがそこまでうまくなかったからか、久しぶりにダンスが楽しいと感じた。
密着しているからこそダンス中は小さい声でも会話ができる。周りを気にしているエレナのためにダンスに誘ったのだとわかるから優しい人なのだなとエレナは思った。
「ありがとうございます」
きっとシモンなら誘ったら喜んでパートナーになってくれる人は多いはずだ。幼馴染みしかパートナー候補がいない自分とは違って。
それでもライアンに捨てられるように手を離されて困っている自分を見過ごせなかったのだろう。そんな優しいシモンにこれ以上謝罪を重ねるのは違う気がした。だから謝罪ではなく、感謝を伝える。
くるりと身体が回転する。そして引き寄せられた。恋人同士のような距離に思わず顔が赤くなる。
「ダ、ダンスお上手ですね」
「ありがとうございます。エレナ嬢もお上手です。こんなに楽しく踊ったのは初めてです」
「私も同じこと思っていました」
「それは光栄です」
音が鳴り止んだ。シモンはエレナの右手に軽くキスを送る。周りから一瞬、感嘆の声が上がった。
◇◇◇
「ちょっとお話よろしいでしょうか?」
放課後、授業を終え、家に帰ろうとしていたエレナを引き留めたのは可愛らしい女性だった。
「なんでしょうか?」
「お話がありますの。少し来ていただいてもよろしくて?」
きっと腕力も体力もエレナの方があるのだと思う。けれど有無を言わせない圧がそこにはあった。
「…はい」
頷く以外の選択がないそれに、エレナはしぶしぶ頷いた。そうして連れてこられたのは校舎裏。そこには呼び出した彼女の他に、3人の女生徒がいた。小さくて可愛らしい彼女たちにエレナは囲まれる。
「あの…えっと…」
「すこしだけ、聞きたいことがありまして」
「聞きたいこと?」
「ええ。シモンとはどのような関係?」
敬称を付けず彼の名を出したのは、侯爵家の令嬢だった。確か名前は、アイリーだったか。
「えっと…」
「どういうご関係?」
どうしてこんなに小さくて可愛らしいのに、こんな風に圧が出せるのだろうか。この圧がうまく出せたら剣術にもっと活かせるのにな、とエレナは場違いなことを思った。
「特に関係とかないですよ。昨日少し話をしてお互いパートナーがいないので一緒に夜会に行っただけです」
「パートナーがいないって、……シモンがそう言ったの?」
「そうですけど…」
頷いたエレナの目の前でアイリーの顔色が曇っていく。
鈍いエレナでもわかった。きっとアイリーはシモンのことが好きで、パートナーとして夜会に出るはずだった、もしくは出たいと思っていたのだなと。
「アイリー様」
「大丈夫ですか?」
取り巻きの少女達がアイリーを心配そうに見る。自分が彼女をいじめているかのようで居心地が悪かった。
「あの…えっと…」
何を言えばいいのかわからなかったが、何かを言わなければいけないと思った。口を開こうとするエレナをアイリーは睨むように見る。
「どうして!よりにもよってあなたなの!」
それは決して大きな声ではなかった。けれど響くような声だった。
「…」
昨日たまたま出会ったから、それが事実だ。けれどそれを言っても彼女は満足しないだろう。
彼女が納得する理由をエレナは持ち合わせていなかった。だから何を言えばいいのかわからなかった。
「婚約者を男爵家の令嬢に取られたくせに」
「そうよ。可愛げがないから男を取られるのよ」
「男性に混じって剣術の授業を受けるなんて、おかしいわ!男性に取り入っているのよ」
剣術を学ぶのがエレナは好きだった。ひらひらな服を着て、可愛く着飾ることよりも、強くなろうとすることのほうが好きだ。
両手にマメを作りながらも周りから変な目で見られても、ほとんど婚約者として接してきた幼馴染みにも可愛げがないと言われても、それでも辞めたくないと思うほどには好きだった。
「…男性に取り入っている、ですか」
骨格や体力が違う男性と同じメニューをこなすにはどれほどの努力が必要かわからないくせに。そう思ったが何も言えなかった。きっと貴族の令嬢としては、彼女たちの方が正しいのだろうなと思うからだ。だから甘んじて受けようと思った。
「な、なによ!」
「…いいえ、そういうつもりはないのですが、そう見えるのですね」
「ええ。婚約者を取られて新しい男性を探しているように見えるわ」
「…」
「あなたの事情に、シモンを巻き込まないでいただける?」
アイリーが再び睨むようにエレナに視線を向けた。
昨日、シモンがパートナーとして一緒に夜会に出てくれて助かった。けれど目の前の彼女のように、エレナは彼でなくてはならないわけではない。
「わかりま」
「ちょっと待ってもらえませんか?」
だからもう関わらないことを約束しようと頷こうとした。そんなエレナの言葉を遮るように声が聞こえる。声がする方を見るとそこには少しだけ怒ったような表情をしたシモンの姿があった。
「シモン…様」
先ほどまでとは違って『様』を付けてアイリーは彼の名を呼んだ。そんな彼女をどこか睨むようにシモンは見る。それはエレナが見たことない表情だった。
「これはどういうことですか?」
「…」
「君の好意は迷惑だと前に伝えてあるはずです」
あまりにもはっきり言う彼に、エレナの方が動揺してしまう。
「あ、あの…」
「エレナ嬢、巻き込んでしまって申し訳ありません」
アイリーに向けた表情とは180度違う柔らかな表情でエレナを見る。
「い、いえ」
「わ、わたくしはあなたのことが…!」
「僕のことが好きだからって、僕の好きな人に迷惑をかけていい理由にはならない」
「…」
聞きなじみのない言葉が耳に入った気がした。思わずシモンに視線を向ける。そんなエレナにシモンは微笑むように笑みを浮かべた。その笑みに少しだけ鼓動が早くなる。
「な、なんで!よりによってなんでその女なのよ!!」
どこかヒステリーを起こしたような金切り声でアイリーが叫ぶ。
「私は、ずっと、小さい頃からずっとシモン様のことが好きだったわ。私のことが好きではないのはわかっていた。でも相手がいない内は…私にも可能性があるのではないかって、その期待を捨てきれなかった」
「…」
「でも初めてあなたから声をかけたのがその女だった。…もっと可愛らしい令嬢を選ぶのなら私だって諦め切れたわ。けれど、どうして可愛げのかけらもないそんな女なのよ!!」
彼女が言うことももっともだとエレナは思った。彼のことが大好きな彼女からしたら刺繍をやる手で剣を握る女に取られるなんて許せないだろう。
「剣が使えれば、身体を鍛えていれば、何を言っても傷つかないとでも思っているのか?」
1トーン低い声。怒っているのが容易にわかるその声にアイリーは一歩後ろに下がった。
そんな彼女から隠すようにシモンはエレナの前に立つ。背の高い彼に隠されてエレナから彼女たちの姿は見えなくなった。
「僕の好きな人を『そんな女』呼ばわりするのは止めてくれないか」
「…」
「女性の身体で剣を持つことがどれだけ大変なのか、君は知らないだろう?彼女がどれほど努力をしているか知らないだろう?」
「け、剣を持てればよかったの?でも私は、彼女が剣を持っている間に刺繍を覚えたわ。貴族のマナーも淑女としての振る舞いも」
「それを彼女ができないとでも?彼女の成績はいつもトップクラスだ」
「…」
「人一倍努力している彼女を愛おしいと思って何がおかしい」
「で、でも…」
「それに刺繍ができなくても、淑女としての振るまいができなくても、彼女を見ていれば彼女がどれだけ努力をしているのかなんてすぐにわかる。そんな彼女が好きなんだ」
「…」
「何を言われても僕は君を好きになれないし、僕が好きなのはエレナ嬢だ」
まっすぐなその言葉にアイリーは唇を噛みしめて涙を堪えた。
「見る目がないのね」
それだけ言い残し、彼女はこの場を去った。他の令嬢達も彼女に着いていく。この場に残されたのはシモンとエレナの2人だった。
シモンはエレナの方を振り返る。
「エレナ嬢、僕の問題に、巻き込んで申し訳ありません」
「シモン様のせいではありませんわ。でも…よろしかったのですか?」
「…どういう意味でしょうか?」
「あんな風に接してしまっては女生徒からのひんしゅくを買ってしまいますわ」
「あなた以外にどう思われても僕は構いません」
どこか苦笑いを浮かべながらシモンはそう断言した。
「……あの、どうしてそんな風に、その、私のことを、…思ってくれているのでしょうか?昨日以外であまりお話をしたことはありませんでしたよね?」
「あなたは覚えていないかもしれませんが、3年前に剣術の授業で一度手合わせをしたことがあるんです。そのとき僕は負けました。高身長で筋肉もつきやすい体質だった僕はそんなに練習しなくてもある程度は剣を扱えていました。だから練習を怠っていた。そして、あなたは女性だ。だからたやすく勝てるのだと思っていました。けれど、結果は完敗でした」
「…」
「あなたの身体の軽さを生かしたスピードと技術に翻弄された。あの域に達するには相当の努力が必要だったことは容易に想像がついた。純粋にすごいと思いました」
剣術の授業ではよく模擬戦を行う。今ではそんなことはないが以前は女性だからと舐めてかかる人が多く、油断につけ込み模擬戦に勝利することが多かった。彼はその中の一人だったのだろう。
「あれほどの技術を身につけるには相当努力をしたんだろうなと容易に想像できました。そんな風に努力ができるあなたのことをもっと知りたいと思った」
「…」
「人に興味を持つのは初めてでした。けれど、あなたの隣にはいつも彼がいた」
たしかちょうど3年前くらいからライアンとパートナーとして夜会に出る機会が増えていたことを思い出す。
「だから諦めていました。けれど昨日、あなたたちが正式な婚約者ではないと知りました。それがどんなにうれしかったか。…だから、僕は頑張りたいと思ったんです」
「…」
「あなたが好きだから」
こんな風に気持ちを伝えられたのははじめてだった。どうしたらいいのかわからずエレナは黙ってしまう。
「すみません、困らせるつもりはなかったんです」
「い、いえ…困っては、その…ないです」
「そうなんですか?」
「はい。ただ、…どうしたらいいのか、わからないだけで…」
「そうですよね」
「…でも、その、気持ちは嬉しく思います」
「え?」
「今は、まだシモン様と同じ気持ちではありません、ただ、その、…シモン様のことをもっと知っていけたらいいなと思っております」
エレナの言葉にシモンはほころぶような笑みを浮かべた。
「今はそれで充分です」
そう言ってエレナの手を取る。膝をつき、その手の甲にキスを送った。
「あなたは本当に可愛らしいですね」
「私が、可愛いなんて…」
否定するエレナにシモンは全力で首を横に振る。
「僕にとってはエレナ嬢が世界で一番可愛いのです」
その言葉にエレナの頬が赤くなる。そんな彼女を見て、シモンは幸せそうに笑った。
なんか最近微妙なことで終わる話が多いような笑
新しい話も書きたいし、続きも書きたい。
でもなかなか進まない。
けど、久しぶりに書けて楽しかったです!!!
読んでいただいてありがとうございました。




