第1章-1話
レオノティスは九歳になったばかりのエルフである。異常事態への対処はあまり得意でない。
「ね、ねぇ起きてよ」
だから家の傍に両親が置いてくれたベンチで日向ぼっこをして居たところに突如現れて「おねえちゃんあったかい!」と言いながら膝枕で丸くなって寝てしまった猫耳の付いた幼女をどうすればいいか分からずただおろおろとしていた。ポンッと軽い音がして幼女が真っ白いぽわぽわしたただの子猫になって膝の上で完全に寝てしまった時どうすればいいかなんてレオノティスは知らないのだ。
「えっと、人間の匂いがついた子猫を親猫が育児放棄する場合もあるから安易に触るなって本には書いてあった……エルフもかな?そもそも猫扱いでいいのかな?この子獣人、だよね初めて見たけど」
エルフの里改め住んでいた村には当然ながらエルフしか住んでいなかったし村に来る人達の中に獣人がいるという事もなかった。年に1~2組来るかなー?程度の頻度であったし。レオノティスはとりあえず触らないことにした。この子が育児放棄された場合の責任を取れないなと思ったので。
する事が無いレオノティスはぼーっと空を眺める。本でも持ってくればよかった。教会の鐘が遠くから響いてくること2回。今度はベンチ横のレオノチスを眺めることにした。レオノティスの名前の由来の花だ。燃え盛る炎のような鮮やかなオレンジ色の瞳がレオノチスと似ているからと両親は言っていた。愛が重い両親に表現が美化されている気がする。
さらに教会の鐘が1回響いてきて暫くした後、慌てた様子の獣人が走ってくるのを見つけた。
「起きて、お迎えが来たんじゃない?」
そう膝上の子猫に語りかける。眠そうにしながらもようやく起きたらしい。膝の上で伸びをした子猫は再びポンッと軽い音と共に膝上で幼女へと変身した。なんで膝の上でとレオノティスはちょっと困惑した。
「やっぱりおねえちゃんあったかいね!」
肩口に頭をぐりぐりと擦り付けられる。もしかしてマーキングされている?と思った瞬間膝の上の幼女が消えた。
「大変すみませんでした!」
走ってきていた獣人の方だ。幼女を抱え上げたらしい。
「あ、おかあさん!」
「ラン!何やってんの!」
幼女が怒られている。お母さん見つかってよかったねと思いながら立ち上がる。4時間弱同じ姿勢で座っていたので伸びをする。
「本当に、すみませんでしたこの子が。いつもは家で大人しくしているんですけど今日は帰ったら居なくなっていて……本当に見つかって良かった。保護してくれていたんですよね、お礼は後日持ってきますので」
「いえ、特に何もしてないです。お気遣いなく」
本当に座っていただけで何もしていない。お礼を貰うようなことは何もしていない、うん。
「レオちゃん、日向ぼっこ始めて4時間過ぎたけどそろそろご飯食べましょう~……あら?」
お客さん?と母が首を傾げる。獣人の母親が青ざめる。
「……もしかしてこの子、4時間程膝の上に居ました?」
頷く。獣人の母親は眩暈がしたのかふらついた。あらあらと母が支える。
「何てお詫びすればいいのか……」
「あらまぁ、よく分からないけれど何かのご縁ですしお昼食べていってくださいな」
母はのほほんと支えたままだった女性を家の中に自然と連れて行った。確かにお腹すいたな。お昼ご飯何かな。うきうきとしながら家の中へ戻ることにした。
「ランね、ランって名前なの!」
「わたしはレオノティス」
席に座ると自己紹介されたので目の高さを合わせながら話す。何だか嬉しそうだ。
「えっと、近所にお住まいですか?」
「通りを2つ程挟んでいて、もう少し森側じゃない方に住んでます」
うちは一番端も端。森が近くてそこそこの大きさの庭が付いている家だ。
「本当に無事で良かった……もうすぐ下の子が産まれるので周囲がバタバタしていてこの子なりに何か思う所があったのかもしれませんね」
身重の体で走ってきたのか。獣人の身体能力は高いと聞くけど、安静にするのが一番のはずだ。ランはちゃんと愛されているんだろうな。
気づけば隣の椅子に陣取っていたランにご飯を食べさせながら自身の口にも運ぶ。今日のお昼ご飯もおいしい。
「もし良ければお昼だけでもランちゃんを預かりましょうか?引っ越してきたばかりでうちのレオちゃんにまだ友達がいないので初めてのお友達になっていただけると嬉しいのですが」
「ランね、レオちゃんと一緒に居たい!」
スリスリと頭を押し付けられる。これはやっぱりマーキングされているんだろうか。頭を撫で返してあげる。ふわふわの白い髪が気持ち良い。
まさか毎日通ってくるようになるとはこの時少しも思ってもいなかった。




