序章:レオノティスの引っ越し
九歳になったレオノティスはエルフの里を出ることにした。
閉鎖的な里に嫌気がさしたとか里のエルフに迫害されたとかではない。ただ、レオノティスは植物を操る木属性の魔法をあまり上手く使いこなせなかった。そして火属性の魔法がとても得意だった。エルフの里というのは大抵、世界樹と呼ばれる樹木を守るように機能している。つまり火属性が得意なレオノティスにとってエルフの里はあまり居心地が良くなかった。ただそれだけである。レオノティスは九歳にしてはかなり聡かった。「魂の記憶残滓」と呼ばれている自分の物ではない記憶の欠片を夢でよく見る方の子供だったせいかもしれない。
「お父さんお母さん、わたし外の町で暮らそうと思います。一人暮らし用に家を探しに行きたいです」
誕生日を祝う準備をしてくれていた両親が固まった。
「エルフとしての成人はまだずっと先ですけど、家事も一人で出来ますし」
「愛娘の巣立ちが早すぎる……!自立心は凄いと思うけど!レオちゃんに一人暮らしはまだ流石に早いと思うよ!父さん寂しくて泣いちゃう!」
レオノティスの父は目元を手で覆っている。本当に泣いているかもしれない。あらあらと母が困ったような顔をした。
「レオちゃんはお母さんたちと暮らすの嫌?」
ふるふると首を振る。
「じゃあ皆で引っ越しちゃいましょうか」
「世界樹の傍に居なくてもいいの?」
母はレオノティスの頭を撫でながらいいのよと微笑んだ。レオノティスとおそろいの美しい緑の髪をした彼女はしれっとこう言った。
「うちの村にあるのは本物の世界樹じゃないから別に構わないわよ」
なんとレオノティスが世界樹だと思っていた樹木は世界樹ではなかったらしい。あとエルフの里でもなく普通に村らしい。じゃあ外で「よくここまで来たな人間、エルフの里に何の用だ」って言っているのは一体何?
「それっぽい観光地の村で物価も高かったし引っ越すのに良い機会ね」
「ここって観光地だったの!?」
こんな森の奥の世界樹(偽物)以外何もない場所が!?
「エルフの里っぽい場所を見つけやすくすることで本当の世界樹は守られているのよ。そういう村で暮らすエルフには家賃補助や助成金が出るのだけれど純粋に最近近隣の物価が高いから家計としてはトントンなのよねぇ」
あらあら、うふふといつも言っているレオノティスの母はのほほんとした雰囲気を纏っているが中身はかなり強かなのである。
「今の話は外では話してはダメよ?本物の世界樹を守るためにもね」
「うん!分かった!」
レオノティスは絶対に話さないことを決めた。絵本で読んだエルフとはこうあるべきだと思った姿を崩さないために。
ただ、残念ながらレオノティスは良くも悪くもエルフっぽくはなれなかったのである。そんな未来を今はまだ誰も知る由はない。
そんなこんなでレオノティスとその両親は数日後に外の村へ引っ越したのであった。誕生日のプレゼントは新しく住む一軒家の権利をくれることになった。レオノティスは両親の愛情が重くてちょっと引いた。




