第1話:転生したらストレスがスキルだった件
俺の名前は佐藤健太、32歳、独身。職業はしがない会社員。毎日上司の無茶振り、家族からの「いつ結婚するの?」攻撃、友人のマウント合戦に耐えながら、ストレスを溜め込む日々を送っていた。そんなある日、コンビニで買ったエナジードリンクを飲みながら帰宅中、ふと意識が途切れた。
次に目を開けたとき、俺は見知らぬ森の中にいた。
「は? ここどこ? テレポートでもした?」
周囲は鬱蒼とした木々に囲まれ、遠くで鳥のさえずりが聞こえる。スマホを取り出そうとしたけど、ポケットには何もない。スーツ姿のまま、なぜか剣と小さな革袋を持っている。
「まさか…これ、転生ってやつ?」
その瞬間、頭の中に妙にテンションの高い声が響いた。
『ピロリン! 佐藤健太様、異世界転生おめでとうございます! あなたは「ストレスシステム」を搭載した特別な存在として、この世界に召喚されました!』
「はぁ? ストレスシステム? 何それ、詐欺?」
『詐欺ではございません! この世界では、ストレスがあなたの力となります! 詳細はステータス画面でご確認ください! ピロリン!』
声がやたらと元気でイラっとするが、言われた通り「ステータス」と呟いてみる。すると、目の前に半透明のウィンドウが浮かんだ。
ステータス
名前:佐藤健太
年齢:32歳(見た目は20歳くらいに若返り!)
職業:ストレスウォリアー
スキル:ストレスバースト(Lv.1)
特殊能力:ストレスゲージ(溜まったストレスを技に変換可能)
ストレスポイント:50/100(会社での残業、家族の圧、マウント友人のおかげで既に半分!)
備考:ストレス発散技を駆使して、この世界を生き抜け!
「ストレスウォリアーって何だよ…! しかもストレスポイントって、俺の人生の不満が数値化されてんのか!」
文句を言いつつ、ステータスを見ると確かに「ストレスバースト」という技があるらしい。説明によると、ストレスゲージが溜まると、溜まったストレスを爆発させて攻撃や防御に使えるらしい。
「つまり、俺がイライラすればするほど強くなるってこと? 最高じゃん!」
前世ではストレスを抱え込むだけだったが、この世界ではそれが武器になるなんて、ちょっとワクワクしてきた。
試しに近くの木に向かって「ストレスバースト!」と叫んでみる。
すると、両手からド派手な赤いオーラが噴き出し、木に直撃。ゴキッと音を立てて木が真っ二つに折れた。
「うおっ、すげえ! これが俺のストレスパワーか!」
テンションが上がったのも束の間、遠くから「ガオオオ!」という咆哮が聞こえてきた。森の奥から、でっかい狼みたいな魔物が突進してくる。牙を剥き、目がギラギラしてる。
「マジかよ! いきなりボス戦!?」
慌ててステータスを確認すると、ストレスポイントが55/100に増えてる。どうやら「魔物に襲われるストレス」でポイントが溜まったらしい。
「よし、ならこれでいくぜ! ストレスバースト!!」
再び赤いオーラが炸裂し、狼に直撃。バゴン! と爆音が響き、狼は吹っ飛んで気絶した。
「ははっ、楽勝! ストレス最強!」
勝利のポーズを決めかけた瞬間、背後から「ヒャッハー!」という野蛮な声。振り返ると、ボロボロの革鎧を着た男たちが5人、ニヤニヤしながら近づいてきた。
「おい、新顔! その技、なかなかやるじゃねえか。そいつは俺たちの獲物だったんだ。ちょっと痛い目にあってもらうぜ!」
どうやら盗賊らしい。武器を手に、じりじりと距離を詰めてくる。
「待て待て、俺、転生したばっかで何も知らないんだって!」
「知らねえよ! さっきの技の秘密、吐きやがれ!」
ステータスを見ると、ストレスポイントが70/100まで急上昇。
「くそっ、なんで初日からこんな目に…! でも、これが俺の力だろ!」
俺は深呼吸し、溜まったストレスを一気に解放するイメージを頭に描いた。
「ストレスバースト・フルチャージ!!」
すると、全身から今まで以上の赤いオーラが爆発。地面が揺れ、盗賊たちが吹き飛ばされた。
「な、なんだこの力は!?」
「逃げろー!」
盗賊たちは散り散りに逃げていった。
「ふぅ…ストレス発散、気持ちいいな!」
戦闘が終わると、ストレスポイントは30/100まで下がっていた。どうやら技を使うとストレスが消費されるらしい。
「なるほど、ストレスを溜めて発散する。これが俺の戦い方か。」
そのとき、森の奥から拍手が聞こえてきた。振り返ると、金髪の少女が木の陰から現れた。エルフっぽい耳と、キラキラしたローブが特徴的だ。
「すごい! あんな技、初めて見たよ! ねえ、君、名前は?」
「佐藤健太。…お前は?」
「私はリリア、冒険者ギルドの斥候! 君、絶対強いよ! ギルドに来ない? 話したいことが山ほどあるの!」
リリアのテンションに圧倒されつつ、俺は考える。この世界、ストレスが力になるなら、俺のこれまでの人生は無駄じゃなかったってことだ。
「よし、行くか。ストレス発散の旅、始めるぞ!」
こうして、俺の異世界生活が始まった。仕事のストレス、家族のストレス、人間関係のストレス――全部この世界でぶっ放してやる!
次は何が待ってるんだ? まあ、ストレスならいくらでも溜められるさ!
(続く)