4.タクトの戦い、そして。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
咆哮し、タクトはバット片手にスカルデイモンに殴りかかる。
渾身の力で振り下ろされたそれは、確実に白骨を砕くかのように思われた。だが相手も、並大抵の魔物ではない。捉えたかと思われた寸前、魔物は後方に飛び退って回避した。
互いに間合いを図っているようで、そこからは少しだけ膠着。
だがしかし、次の動きは想定よりも早い。
【ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】
スカルデイモンが悍ましい声を上げ、鋭い爪を振り上げた。
そして、信じられない速度でタクトを捉え――。
「……おっと!」
でも現実は、その予測すら上回った。
タクトは一瞬だけ身を屈めると、向かって左へと軽々と跳躍する。スカルデイモンの高速の一撃は大地を叩き、爪は硬い岩盤を抉った。
この一連の動きを見ただけで、ハッキリと分かる。
おそらく、タクトの身体能力は一般人のそれを遥かに凌駕している、と。
『さっすがタクト!!』
『あの程度の動きで驚いたら駄目だよ、ゲストさん』
『ファン歴七年の俺は知ってたぞ! タクトこそ最強!!』
コメント欄には、そんな言葉が躍っていた。
誰もが興奮の坩堝の中にあって、完全に彼の戦いに魅了されている。かくいう俺も、撮影しながらタクトのカリスマ性に魅入られかけていた。
こうやっていると、実感させられる。
平々凡々を求める俺と、タクトは対極に位置する存在だ。
「すげぇ……!」
――圧倒的なスター性。
例えるなら、世界中で活躍をするスポーツ選手のような。
誰もが憧れを抱いて、誰もがその為人を好む。タクトとは、そんな人物なのだ。
『やれ、そこだタクト!!』
『隙ができた!!』
『いっけえええええええええええええええええええええええええ!!』
そして、いっそうコメント欄が沸く瞬間。
スカルデイモンは体勢を崩し、頭蓋骨が無防備になった。
「いくぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
その隙を見逃すようでは、ダンジョン配信者は務まらないのだろう。
タクトは体勢を整えると一気に跳躍し、力の限り――。
【アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】
バットをスカルデイモンの頭部へ、叩きつける!
その一瞬、けたたましい悲鳴を上げて――。
「やった……!」
スカルデイモンは、バラバラに瓦解した。
最早ピクリとも動かずに、そこにあるのはただの白い骨だけ。
「ふーっ……!!」
それで、戦いは終わったのだろう。
タクトは大きく息をついて額の汗を拭うと、こちらに向かって踵を返し――。
「……っ!? まだだ、タクト!?」
「え……?」
完全に、誰もが油断していた。
誰もが、想定もしていなかった。
スカルデイモンは、その骨は、ゆらりと宙を舞ってまた一つの形を成す。
そして、気を抜ききった彼の背後から――。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
俺は、とっさに駆ける。
そしてデッキブラシを構え、タクトの前へと躍り出た。
【ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】
――強烈な、一撃。
新品の木製デッキブラシは、いとも容易くへし折れた。
いいや、それだけで済んで良かったのかもしれない。俺とタクトは後方へと吹き飛ばされ、壁へと叩きつけられた。
その最中に、タクトはどうやら俺の身を庇ってくれたらしい。
「……タクト!?」
「ご、ごめん。……足、やっちゃったみたいです」
衝撃により、彼の右脛から先はひしゃげていた。
あまりの痛みに苦悶の表情を浮かべる彼に、俺は――。
「どうすれば、いい……!?」
冷や汗を流しながら、必死に策を探す。
だが、唯一の武器とも呼べるデッキブラシはご臨終。
タクトの使っていたバットも、どこかへ飛ばされてしまった。
だったら、最後に残されたのは――。
「……これに、賭けるしか?」
俺はちょうど足元に転がった『剣』に、手をかけた。
その、瞬間だ。
「え……?」
思わぬ光景が、目の前に飛び込んできたのは。
最後まで歯茎を見せたら駄目!!
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