2.怪しい勧誘。
※明日、ちょっと飲み用事あるので、明日の昼12時と明後日の昼12時に予約投稿しておきます。
「はぁ……配信者、なんですか」
「そうなんですよ! えっと、タクトって名前でやってて結構有名でして!」
「へー」
――変な勧誘に引っ掛かりました。
俺が率直に抱いた第一印象は、それである。
あからさまにチャラい風体の青年が、やけに丁寧な口調で自分の生業について説明をしている。そして一緒にそれをやらないか、というのは詐欺か何かの勧誘としか思えなかった。
いや、勧誘ではあるのだろうけど。
「あ、もしかして配信者詳しくない感じです?」
「そうですね。自分、割と世間に疎いので」
高卒の御年十九歳に、世間の何が分かるのか。
俺は内心で自分にツッコミを入れながら、タクトと名乗った彼に生返事を繰り返していた。とはいえ配信者というのに近しい場所にいながら、知らないのは自分が悪いとも思う。しかし根本として、そのような波瀾万丈を絵に描いたような職種に興味がないのだ。
「だったら、そうだなー……あ! ボクのアーカイブを見てもらえば――」
「…………ん、どうしたんですか?」
そうしていると、タクトは自身のスマホを取り出してから硬直する。
自分の配信の様子を見せよう、というなら理解できた。しかし彼はその画面を見て、どこか焦ったような表情を浮かべる。
冷や汗をかくような、恥ずかしいものでもあったのだろうか。
俺が首を傾げ、不思議そうにしていると――。
「た、たとえば、こんな感じです!」
「これは……女の子?」
彼が見せてきたのは、一人の女の子がスライムと戦う姿。
一生懸命に棒切れを振っているが、なかなかに苦戦している様子だった。しかしアイドル的な容姿をしているからか、コメント欄は妙な盛り上がりを見せている。
いや、なんかこれ違くないか……?
「……と、とにかく! ボクは貴方と一緒に配信したいんです!」
俺がどこか、冷めた視線を向けていたのに気付いたのか。
タクトは大慌てで話題の軌道修正を図った。
「貴方の動画を拝見しまして、素晴らしい方だな……と!!」
「あー……そういうことね」
そして、彼のその言葉を聞いてようやく納得。
俺は自分が盗撮され、ネットでバズっていたことを思い出した。アレのなにが凄いのか、そこもイマイチ分からないのだが。とりあえず、タクトは俺といわゆるパーティーを組みたい、ということらしい。
しかし何度でも言うが、俺は平々凡々、平穏無事がモットーで……。
「すみません。俺はそういうのは――」
「ちなみに、一回当たりのギャラは……ごにょごにょ……」
「……は?」
などと考え、断ろうとしたら。
タクトが俺の耳元で、信じられない金額を囁いてきやがった。
身体を張る仕事とはいえ、さすがに桁が一つ多い。しかも、それだけあれば停職期間中の収入にも困ることはない。むしろ、普通に働くより断然稼ぎが良い。
俺はしばし、信念と現実の狭間で揺らいでから……。
「い、一回だけ……なら」
「よっしゃ!」
初対面の相手からの、怪しい勧誘に乗ったのだった。
◆
「ボクの配信は、絶対にノンスタントなんです」
「ノンスタント……?」
そんなわけで、翌日。
指定の場所で合流した際に、タクトはそんなことを言っていた。
「えっと、いわゆる『ヤラセ』なし、ってことですね」
「ヤラセなんて、あるんだ」
「ありますよ、そりゃ。映像の加工なんて、当たり前の時代ですし」
「なるほどなー……」
たしかに、楽かつ安全に稼ぐなら当然か。
俺はそれに納得しながら、ふとこんな疑問を抱いた。
「ん、だったらタクトはどうして?」
なぜ、彼はノンスタントに拘るのか。
そのことを素直にぶつけると、
「え、だって――」
タクトは至極当然のように笑って、こう答えるのだった。
「嘘ついてるみたいで嫌じゃないですか、リスナーに!」――と。
そこには、それこそ嘘偽りはなかった。
彼は本気で配信業に向き合い、自分なりの答えを見つけている。
その姿に、俺は――。
「あー……」
自分と似ていながら、真逆の存在だと感じたのだった。
嘘や裏切りを嫌いながら、平穏無事を祈る俺。
そして、同じものを嫌いながら刺激を求めるタクト。
「……なるほど、な」
俺はそのことを把握し、頷いた。
そして荷解きをしてデッキブラシともう一つ、一本の剣を手にする。それは先日のドラゴンとの一件で、偶然に拾ったものだった。
本来なら持ち主を探すべきだが、今回は少しだけ拝借しようと思う。
「それじゃ、行きますよ!」
タクトは頭にカメラを着用し、そう宣言した。
こうして、俺の初配信は始まる……。
みんなも諸々の勧誘には疑ってかかろうね。
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