2.魔物の清掃は残業対象です。
【ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?】
「あーあ、ずいぶん興奮してるな……」
俺は目の前で咆哮する身の丈三メートルはありそうなドラゴンを見上げ、特になんの感慨も抱かずにそう呟いた。いいや、あるとすれば配信者への文句くらいだろうか。
一応、残った魔物の清掃は残業対象ではある。
ただこれは本来、相手にする予定に含まれていなかった魔物だ。そうなると――。
「もしかしたら、残業代でないかもなー……」
もし、そうなったら恨むぞ。
俺は今回の配信者へ、そんな感情を抱きながらデッキブラシを構え直した。
こちらの得物として扱えるのは、エレメントの着脱で水と炎を切り替えられる機材。そして持ち手の部分が金属製になっている、この愛用のデッキブラシだった。
これらで、いかにして手負いとはいえドラゴンを討伐するのか。
方法を考えていると、相手は錯乱したように前足で俺を潰そうとしてきた。
「おっと、あぶな……!」
地響きと共に、土埃が舞い上がる。
魔物の生態については、さほど詳しくはなかった。それでもドラゴンはあまりに有名な魔物なので、新人かつ素人の俺でも耳に入ってきている。彼らは分厚い鱗でその身を守り、灼熱のブレスを相手に吐きつけるという。だったら水を用いるか、と考えたが――。
「んー、蒸発して終わりだろうな」
それに、ドラゴンの口内に水を流し込んで意味があるのか。
だったら炎のエレメントに切り替えるしか、方法は思いつかないけど――。
「あ……そういえば、今回はアレが支給されてたっけ」
思い出すのが遅れてしまった。
というか、これがあればゴレムを破壊することもできたかもしれない。とはいえ、いまはその際に思い出さなかったことを幸運に感じた。
俺は機材の端に付けたポーチから、それを取り出す。
「いやー……初めて見たけど、手榴弾ってこんな感じなのかー」
俺はズシリと重い爆発物に、微かな冷や汗をかきつつ。
これでいかに戦うかを真剣に考えて――。
「……よし、まずはドラゴンの目を潰そう」
あっさりと、そう決断した。
幸いなことにドラゴンは、すでに右目に剣を突き立てられている。俺はそんな相手を見ながら、挑発するように視界に出入りを繰り返した。すると、
【ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】
ドラゴンはこちらの想定通り、左前脚でまた大地を叩く。
俺はその脚を目がけて真っすぐに突き進み、一生懸命に奴さんの身体をよじ登った。そしてデッキブラシの先端をへし折り、炎のエレメントでそこを加熱する。
これなら、きっと――。
「おらああああああああああ!?」
俺はドラゴンの後頭部に上り、左目へとそれを突き立てた。
生々しい感触があったかと思うと、ドラゴンは激痛に耐え兼ねるかのように身体を前後左右に激しく揺さぶる。俺は放り出されないように注意しながら、どうにか着地に成功。
暴れる相手を見て、慎重にその口が開かれるのを待って――。
「今だ!!」
その口内目がけて、全力で手榴弾を投げ込んだ。
小さな爆弾が喉へと侵入したことに気付かぬドラゴンは、そこへ灼熱のブレスを放とうとする。その結果は、まさに火を見るよりも明らかだった。
――ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!
ドラゴンの首が、爆発音と共に吹き飛ぶ。
宙を舞ったそれは俺の足元に落ち、恨めしそうな声を発しながら命を終えた。
「……さて、と。それじゃ、あとは――」
しかし、俺にとってはここからが問題。
このように大きなドラゴン、どうやって後始末をしようか。
そう考えながら、俺はひとまずドラゴンの目に刺さった剣を引き抜いて――。
「ん、なんだ。めっちゃ光る」
ふと、柄に刻まれた紋章のようなものが輝くのに気付く。
しかしながら、俺の興味はすぐに次へ向かうのだった……。
◆
「や、やっべええええええええええええええええええ!!」
――そんな『清掃業務』を見守る人物が、一人いた。
配信者らしく、その戦いを撮影していた彼は興奮したように感嘆の声を上げる。そして、自身のカメラに残った映像データを何度も見返しながら、また全身を震わせるのだ。
「すげぇよ、この人!!」
その青年は、嬉々としてダンジョンを後戻りする。
そして自らの住まいへと到着し、
「早く、動画をアップしないと……!」
一郎対ドラゴンの模様を勝手に、動画サイトへとアップロードしたのだった。
そうはならんやろ(戦い方
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