1.仕事にも慣れてきた。
「小野町くん、キミもそろそろ仕事には慣れたかい?」
「あぁ、所長。そうですね、以前よりはスムーズになりました」
「それは良かったよ。この仕事は単純作業だからね、辞める若い子が多いんだ」
「そうなんですか? 俺には、そんな苦じゃないですけど」
ある日のこと。
出勤すると満面の笑みを浮かべた所長に呼び止められ、そんな世間話を交わした。入社から数ヶ月が経過し、作業も割とスムーズに行えるようになってきている。ただ所長の言葉にある通り、この仕事は極めて単純作業の繰り返しだった。
刺激を求める傾向にある若者には、おそろしく不向きな職場だろう。
だけど、平穏無事を志す俺にとっては天職だった。
「そうかい、そうかい。だったら、少し難しい場所をお願いしようかな?」
「ん、難しい場所ですか?」
「そうだね。もちろん、キミの腕を見込んでだよ」
そう考えていると、所長は一つの資料を手渡してくる。
そこは、どうやら今まで行っていたダンジョンよりも高難易度な場所らしい。おおよそワンオペには向かない場所だが、しかし今回に限っては問題ないとのこと。
所長がそう判断するのだから、きっとそうなのだろう。
俺はそう思って、二つ返事で頷くのだった。
「はい。分かりました」
こうして俺は単身、そのダンジョンへ赴く。
そこで、思わぬ出来事に巻き込まれるとも知らずに――。
◆
「あー、たしかに。スライム処理なんかとは、比べ物にならないかもな」
俺はダンジョンを歩きながら、その端々にある魔物の残骸を見て思う。
デイモンと呼ばれる悪魔型の魔物が、首ちょんぱして倒れていたり。あるいは岩石型の魔物であるゴレムの胴体に、大穴が空いていたり。これの清掃を考えると、なかなかに大変そうだった。
しかし倒し漏れがないあたり、今回の配信者はそれなりに腕が立つのか。
少なくとも、今までの者たちよりは格上であろうと思った。
「さ、て……と」
しかし、考えるより先にさっさと仕事だ。
俺はデッキブラシを手にして、まずは魔物の血を必死に落とす。その後に水をかけて、またゴシゴシと一生懸命に擦った。これの繰り返しを行った後は、残っている魔物の残骸だが――。
「えっと、炎のエレメントに切り替えて……」
先ほど水を噴出した機械に、今度は炎属性の『エレメント』を装着する。
これによって機材の吐き出すものが、水から炎へと変化する。魔物の残骸はさすがに持って帰るなどできないので、この場で焼いてしまうのが一般的だった。
「ただ、ゴレムはどうするかな。……岩砕機、持ってこなかったな」
そう考えて、仕方ないと割り切る。
報告書に記載して、次回にきた担当者に任せるとしよう。俺はデイモンの残骸を焼却しながら、ボンヤリとダンジョンのさらに奥を見た。
すると、何やらそちらから気配があることに気付く。
資料によると、今回の配信者はすでに退却済みとされていたはずだけど――。
「もしかして、何か倒し残し……?」
俺はその可能性に至って、思い切り肩を落とした。
そういった後始末が回ってくると、残業代に見合わない労働を迫られる。しかし手負いの魔物は凶暴性が増しており、パニックに陥ってダンジョンの外へ飛び出す可能性もあった。
だから、可能な限り俺たちが駆除するのだ。
「仕方ないな。……よし、倒すか」
そう気持ちを入れ直して、俺はダンジョンの奥へ進む。
すると、そこには――。
「わー……でっかいドラゴンだなぁ……」
右目に剣の突き刺さったドラゴンが、唸り声を上げていた。
手負いであるが、そこ以外に傷らしい傷はない。
俺はそれを見て、しかし――。
「まぁ、何とかなるだろ」
そう口にして、デッキブラシを構えるのだった。
なんでやねん。
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