10回目のループで、公爵令嬢は「悪役令嬢」へとジョブチェンジする
公爵令嬢は悪役令嬢にジョブチェンジするようです。
「ノーゼ・マクゼン、君との婚約を解消する。」
「フフッ。」
笑う事しかできない。
笑って思考を放棄するしか、もう手立てはないのだから。
10回も同じセリフを聞けば、例え知能の低い生物だって悟ってしまうだろう。
あれ?これってループってやつですか、、と。
「何故笑っている。ノーゼ・マクゼン。」
男の声が講堂の中に響く。
気持ち悪い。
このセリフを聞けば聞く程に、この男、ルイ・ルーザンに対して嫌悪感が増していく。
「はぁ...。」
「ッ!何故笑っているのだ!!」
興奮した物言いで、ルイは私に怒号を飛ばすが、正直そんな事はどうでも良い。
5回も同じ反応をされると、溜め息しか出てこない。
「何でこんな事に、、、。」
「フンッ、やはり気にしているではないか。教えてやろう...私が...貴様は...」
本当に何故こんな事になってしまったのか。
時は遡る事10回、、、いや10年前。
私は、マクゼン公爵家の第一公女として、ルイ・ルーザン。
ルーザン公爵家、嫡男との婚約が決まった。
このルイ・ルーザンという男は顔だけは他の貴族よりも秀でていた為、幼い私は酷く喜んだ。
今思えば、あの時から私の運命は決まっていたのだろう。
10年という日数は意外と早く、ルイとの関係も良好なまま進んでいっていた。
あの時までは。
3年前。
貴族の通うサーリニア学園に現れた、アーニー伯爵令嬢、ルイス・アーニー。
彼女は、優れた容貌とお淑やかな性格で学園中の男達を虜にした。
その影響は当然ルイにも及んだ。
ルイとの婚約中の私は蔑ろにされ、育んできた愛情は段々と枯れ果てていった。
そこから私の歯車は狂い出す。
ルイは公爵家という立場を使って、ルイス・アーニーを婚約者として迎えるために、普段は働かない頭脳を必死に動かし裏で、画策を繰り返した。
その功もあってか、私は10回ものループを繰り返す事になる。
「おい、聞いているのか?」
「...。」
抗う術はなかった。
何故か?
1回目のループではルイの手の者によって殺された。
1回目は抗うというよりも、寝込みを襲われた為、目が覚めると過去に戻っていた為、何があったのか分からない状況だった。
2回目のループも現状を把握するのにやっとで、只々頭を捻っていただけだ。
数日経って、また暗殺された。
そして3回目のループで、やっと状況を理解する事ができた。
夢を見ている様な感覚が、段々と現実に引き戻されていく様な感覚を今でも覚えている。
この時に、私は王都から出る事を決心する。
幸いにか追っ手は来なかった。
平穏な生活ができる、と思ったのも束の間。
街中を歩いていると、有り得ない挙動で突っ込んで来た馬車に轢かれて、また命を落とした。
4回目のループでは、お父様に頼んで隣国へ渡る事にしたが、そこでも食べ物に混入されていた毒物によって死んだ。
5回目、6回目と色々なことを試しては見たが私が死ぬ、という未来だけは決して変える事はできなかった。
そしていつもこの場所に戻ってくる。
もう、うんざりだ。
何回も何回も、死というものを体験してきた。
死ぬ前のなんとも言えない痛みも忘れられない。
いっその事、何もかも放棄して、同じ刻を何度も繰り返してしまえばいいのかもしれない。
死さえ我慢すれば、数日は平穏...な暮らしができるのだから。
「おい...聞いているのか?」
「ん?」
ルイの声に、ふと、我に帰る。
何故、私がこんな奴の為にあんな痛みを我慢しなければいけないのだろうか。
自分で考えて起こした末に死ぬのなら、まだ妥協できる。
だが、コイツに殺されて、またここに戻ってくる。
それだけは我慢ならない。
私の中に、なんとも言えない怒りが沸々と湧き上がってくる。
どうせ、またループするのなら、もうとことん振り切ってみようか?
自分に言い聞かせる。
そうだ。
これは現実であって、現実ではないのだ。
「フフッ。フフフッ!!」
「何だ、、、お前!おかしくなったのか?!」
まずはピーピーとハエの様に煩いコイツの声をどうにかしなければ。
「おい...ハェッ?!」
ドカンッ
「フンっ!」
クソ男に向かって、私の全魔力を込めたパンチをお見舞いしてやった。
ルイは鼻血を流しながら弧を描いて講堂の祭壇へと、一直線に飛んでいく。
「ア""ッ!!」
10回ものループを繰り返して、私が得たのは、大幅に向上した魔力量だけだ。
あれだけ痛い思いをして、得たのものがこんなものだとは、思いたくはなかったが、今は感謝している。
何故なら。
この世は力有るものが1番であるから。
私は、今までのループの中で、それを見てきた。
そう思わせる程にこの世は残酷なのだ。
弱者が虐げられ、強者が上に立つ。
理不尽な事だ。
だが、それが人間であり、動物なのだ。
ならば、私は自分の力を使って、自分本位に、自由に生きさせて貰おう。
昔読んだお伽話の「悪役令嬢」のように。
そう覚悟し、思い切り聖堂の扉を開ける。
「キャッ!!」
少しばかりの日光と共に、扉の入り口に立っていたのは、このループ現象の元凶、その片割れとなる少女、ルイス・アーニーだった。
「ノーゼ...さん。こ、こんにちは。」
ほぼ、初対面の筈だが、何故私を知っているのだろうか?
というか、今までのループで彼女と会う事は一回もなかった。
一体どうなっているのか。
「あ、あの。ルイさんから呼ばれて...私、、、」
あぁ。
この子が異常な程に人気がある理由が少しわかった気がする。
高くも低くもなく、丁度良い感じに耳に入ってくる優しい声色に、とてつもなく整った目鼻立ち。
そしてまるで女神を彷彿とさせるかの様な肉体。
まるで、この子の為にこの世界が動いているかの様な圧倒的な主人公感。
どれを取っても私なんかが叶う筈がなかったのだ。
それを悟った瞬間、何故だが謎に虚しさに襲われた。
何故、私はこんなにも小さいのだろうか、と。
何がとは言わないが。
「あの...?」
「...?」
早く帰って寝よう。
それだけを原動力にして足を動かした。
「ノーゼさん、、、!」
後ろから天使の叫ぶ声がしたが振り返りはしない。
何だか振り返ったらとてつもない劣等感に駆られそうだったからだ。
「はぁ...。」
悪役令嬢になる道は意外と険しいのかも知れない。
何といったって、悪役令嬢は豊満なのだ。
あれが。
「あっ。」
そういえば、あのクソ男の処理を忘れていた。
まぁ、多分死んではいないだろうし、ルイス・アーニーがどうにかしてくれるだろう。
「うん、、、帰ろう。」
この作品をお読みいただきありがとうございます!
もし好評でしたら、連載版も投稿していきたいと思っています!