ネガティブになることなかれ
血眼になって1人の女性を探す。現状があまりにも悲惨過ぎる為吐いてしまったが、今は関係ない。
ただ無事であることを願いながら、ただ生きていることを祈りながら死体の山と血の海を進む。
幼馴染を探す中で死体の殆どが男性のものであるということに気付いた。殆どと言っても骨だけになっているもの、潰れていて判別できないもの等、外見だけでは性別を判断するのが難しい為、確信は持てないが幼馴染の死体だけは無いことがわかる。性別は判別できないが、服の一部、身に付けていたものが残っており、明らかに集合場所で見た彼女のものとは違っていたのだ。
「…となると彼女はここにいないのか?」
もしかしたら彼女は今も無事であの駅にいるのかもしれない。俺と大勢の男性が変な森林へ連れてこられて、俺だけが奇跡的に辛うじて生き残ってしまったのかもしれない。なんなら先に目が覚めて俺のように周りの散策をしているのかもしれない。
そう考えると気が少し落ち着いてきた。焦ってもまずは仕方ない。まずは状況整理だな。
俺は右手でグーを作ると胸をドンっ!!と叩いた。いつも緊張した時にこれをすると落ち着くのだ。
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だがしかし、落ち着いて状況判断したらしたで新しい不安というものは生まれてくる。
この際、この場所については何も考えないようにする。地球上のどこかの森に捨てられた可能性、実はどこかの実験場という可能性、異世界転移したという可能性等々様々な可能性があるが、この際どうでも良い。まあよくは無いが優先順位的には低い。
そんなものよりもっと大事が見つかったのだ。
俺は再度死体を見て周る。やはりいつ見ても馴れないもので吐きそうになるが、俺は立ち止まらず目的の場所へと足を運ぶ。そこにあるのは上半身が抉られて無くなっている死体、大きな爪のようなもので頭から切り裂かれた死体、お腹の辺りが抉られた死体等々、明らかに大型の動物によって殺された死体達だ。
ライオンだろうか?違うにしても肉食動物の類だろう。なんせ明らかに腹の辺りを捕食した形跡があるからだ。だからこそ、そんな危険なものがあると考えるとまた不安になるし、恐怖が湧いてくる。そしてまた考えてしまう。幼馴染が喰われてしまったのでは無いかと。
———だがすぐ考えるのを止めた。何か確信がある訳では無い。それでも彼女は生きていると自分にそう言い聞かせるているだけなのだ。そうでもしないと今にも自殺してしまいそうだ。
「こんなネガティブじゃ駄目だよな」
知らない状況、知らない場所。そんな知らない事だらけの現状で信じられるのは己の肉体のみ…なんて馬鹿なことは言えないがポジティブ思考ってやつは大事だろう。生きる為には大事なのだ。
こんなに大量の死体があるのに彼女の死体だけないのは可笑しい。今も肉食獣?から逃げ回っているか、別の場所で殺されたか。そもそも転移しておらず、今もあの駅にいるかもしれない。真ん中の選択肢はかんがえないよう考えないようにするとして、今も逃げ回っているとしたら早く探しに行かないとな。
そうして俺はまた歩き出す。彼女を見つける為に。
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今更ながら俺は何も持っていない。家を出た時点ではカバンとその中に財布、ハンカチ、家の鍵、ペットボトルの水一本は入っていた。しかし、起きた時には何一つ持っていなかった。腕に付けていた時計も、ポッケに入っていたスマホも、何一つ。
「もしかしたら先人が持っていったのかねぇ」
こんな状況だから人の物を盗むな!!とかそんなこと言わないが、生きている人から盗むのはどうなのかね?いや別に死体のものなら盗んで良いとか言う訳では無いんだけどね?
「まあなんだかんだ言いつつも俺も物色するんですけどね」
森に潜む肉食獣。それに接敵した際少しでも抵抗できるようナイフ等の武器が有れば良いのだが…
一人一人丁寧に物色する。と言っても、何も持っていない死体が多く探すのが億劫になる。中には完全に潰れていて原型が残ってい無いものまでちらほら。
俺は触る前に手を合わせる。その後ポケットを弄る。そしてある物を見つけた。
「…包帯、か」
ロール状になった包帯。俺はそれを広がる。約二メートルぐらい。
有難い事だ。武器になるものでは無いが、怪我の応急処置は出来るようになった。消毒液はない為、ウイルス等が入る可能性はあるが、無いより絶対良い。
「これは運が良いほうなのかねぇ…」
意外にも血は付いていなかった。いや使う分には別に付いていてもいなくてもどうでも良いが、ポケットに入れる際にね。
そうして俺は包帯をロール状に戻し、ポッケに入れる。
———俺はこの時油断してたんだと思う。砂漠でオアシスを見つけて安堵する様に、危険な肉食獣がいるこの森で、包帯を見つけて気が緩んでいたのだ。
ガサっと茂みから音がする。気が緩んでいた俺は気付くのに一瞬遅れる。
次の瞬間キラっと光る鋭い何かに俺は襲われていた。