Day 1 鍵
ひゅう、とささやなか風が頬をやさしく撫でた気がして目を覚ます。
ゆっくりと瞼を開くと、白亜の天井が目に映った。
傍らには開け放たれた小さな窓があり、褪せた部屋を切り取るような青空が見える。
あたりをある程度観察したところでだんだんと意識がはっきりしたところで、
ようやく自分が見知らぬ場所で目を覚ましたことに気が付いた。
ここはどこなのだろうか?
なんで自分はこんなところで眠っていたのだろうか?
しばし記憶を巡ったところで、重要な記憶が欠落しているのに気が付いた。
「僕は、誰なのだろうか・・・?」
あわただしく布団を剥いで身に触れる。
これといった外傷はない。どこかを打った形跡もない。
身にまとっている白の麻のワイシャツとジーンズには何も入っておらず、どこにも自分を証明するものは見当たらなかった。
一息ついて枕元に手をやると何かに触れた。
「これは、鍵、か?」
手のひらにぎりぎり収まる程度の古い鍵がそこにあった。
その鍵にも見覚えはない。しかしどうしてだろうか、妙ななつかしさを感じた。
あたりをもう一度見渡すが、鍵を使うような場所は見受けられない。
ただ一点、部屋といえば当然にあるはずのそれに今更ながら気づく。扉だ。
今になって気づいたそれは部屋になじんでいるにも関わらず異様な空気を放っていた。
僕を部屋から追い出そうとしているようでもあり、僕を部屋に閉じ込めようともしている。
そんな気を放っているように思えた。
そんな気にあてらていたからこそ、僕はそれに気づきたくなかったのかもしれない。
自然と、鍵を持つ手に力が入った。しかし握りしめた手に走る痛みが僕に一握りの勇気を同時にくれた。
少しばかり遠くに見えた扉にゆっくり歩み寄っていく。
大きく息を吸い、吐いて、手をかける。
扉の向こうの先に、どんなものが待っているのかわからない。
もしかしたら、何もないのかもしれない。
僕には記憶がないが、この身体は明確に僕に答えをささやいている。
踏み出さなければ、景色は変わらないのだ、と。
僕は扉をあけ放つ。
僕自身を知り、僕を取り戻すための最初の一歩を。