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「正真正銘の男だ! 頭沸いてんのか?」
「説明するよりも見せた方が早いでしょう。だから死んで現実世界に戻りましょう」
カイトはナイフを俺の肩に刺した。途端に激痛が体中を駆け回る。
痛みで悲鳴を上げたがカイトが俺の口を手で抑える。
それからもう片方の肩を突き刺した。
二度目の痛みは一度目よりはマシだったが、顎が震えた。
両肩に力が入らないのが分かった。少しでも力を入れると激痛で悶えるからだ。
「……はぁあ、素敵です!」
俺の激痛とは反対にカイトの息遣いはドンドン色気を帯びてゆく。
その声を聞いて、俺は全身に鳥肌が立った。
コイツは俺を痛めつけるのを楽しんでいると分かったからだ。
「ダヒト。どうせ死んだら痛みは夢だったと思うのです。なら私の欲求を一つ解消させてくれませんか?」
カイトの舌が俺の傷口を舐めている。
それどころか傷口に舌を入れて、血を吸ったりしている。
もう痛いとかではなかった。
意識が一秒続いては二秒途切れるような、そんな状態が何度か繰り返された。
時間感覚がおかしかった。永遠にも感じるし数秒の間にも感じた。
そんなところに、ガラスの割れる音が聞こえた気がした。
強風が体を叩きつけている気がした。
「おい、大丈夫か? おい、しっかりしろ!」
頬にジンジンとした痒みのようなモノが走った。
目を開けると、赤髪が眼にかかっていた。それはユウキだった。
ユウキも俺をお姫様抱っこして走っていた。
そして定期的に剣を振り回していた。ユウキの少し後ろにはカイトが後を追いかけてきている。
カイトは雷の矢や水の矢を撃っている。それを軽々とユウキは叩き落としていた。
「やっぱりお前も魔王の幹部だったんだな! 忠人はお前にゃ殺させねぇ! 絶対にだ!」
ユウキは俺を抱えたまま剣を天高く構えて振り下ろした。すると白の斬撃が空間ごと切り裂いた。
先ほど俺がいたアパートは真っ二つに割れていた。
「逃げるぞ。これで撒けるはずだ」
ユウキは剣をしまい走った。
それから逃げ込んだのは取り壊し予定が決まったであろう廃屋だった。
「ふぅ、これで一安心だろう」
ユウキは俺を段ボールの上に寝かせ、近くの壁に凭れかかった。
「ありゃカイトじゃねぇ。忠人を殺そうとしたんだ。有り得ねぇ。あのカイトがだぞ。だとしたらアイツが魔王の幹部だろう」
ユウキは爪を噛み、独り言を呟いていた。
「大丈夫か?」
随分と無理をしているように見えた。
「あぁ、大丈夫だ。気にするな! 大丈夫だ。私がついてる! 安心しろ。それより傷は大丈夫か?」
大丈夫じゃなかった。
「痛いんだ。死ぬほど痛い……」
「そうだろうな。痛みはあるんだ。だからだ……やるときは一瞬だ。そうだろ? 私?」
その剣は俺の頭上で空高く持ち上げられた。