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「アニメのように、漫画のように、小説のように。
突如として物語が始まる可能性は現実世界にはない。
そう、本当の現実世界には、だ!」
生まれてから現在に至るまでの記憶はしっかりしている。
俺はここ、日本に生まれ平々凡々に暮しているはずなのだ。
両親もいて、飯倉忠人という名前もある。
だというのに、それらを全て否定するのだから、俺は彼女を拒絶する。
でも、彼女の言っていることが正しいのは理解できた。
だからこそ、俺は今戸惑っている。
「君は忘れたのか! 目を覚ませ! 君は……私らの希望だろう? 一緒に帰ろ……う」
円らな瞳をして、まるで猫のような眼をしている。色白で博識な顔もちだ。
それでいて美しい髪の持ち主だ。それらはサファイアのように輝いてた。
彼女は朝日向ケイトと名乗った。
「さぁ……帰ろう。やっと迎えに来れたんだ。もうアイツを倒すまで少しなんだ!」
手が伸びた。真っ直ぐに伸びた。そして濁りのない瞳も真っ直ぐと俺を見つめていた。
だから、俺は手を握ろうとしまった。
そんな時だった。俺たちの間を割るように剣先が振り降ろされた。
「離れなさい! アンタは偽物よ! 忠人信じちゃダメ。コイツはこの夢を作り出している。魔王の幹部なの! 私を信じて!」
その女性は赤髪であった。
どちらかと言えば褐色で、男勝りな雰囲気があった。
それでいて肉付きも良く、体も引き締まっていた。
強そうな女性だった。
名を赤石ユウキと言うらしい。
「さぁ、私を信じて。その悪魔を殺して元の世界に帰ろう!」
と、次の瞬間、炎を纏った矢がユウキを襲った。ユウキはそれを斬った。
「何するんだ! バカじゃないかよッ!」
高所からふわりと降りてきた女性は白髪で後ろで結んでいた。
眉は太く、眼光は鋭い。
どちらかと言えば、とっつきにくい印象を受けた。
ただ、胸も体も小さかった。
「おバカちゃんなのはアンタなのですよ。アンタがダヒトを誘惑してるのです!」
と手を無理矢理に掴んで、空高く飛んだ彼女の名前は、白也カイトという人物だった。