分裂と統合 〜拓と私シリーズ〜
「星花!喉かわいたぁー」
拓が炎天下でとうとうしびれを切らして言った。
「自販機で何か買おっか?」
にっこり。
所持金はそんなにないから心もとないけれど、こういうときに使わなきゃお金も泣くよね?いつものようにもらい水してもいいんだけど、たまにはジュース飲みたい!
「わー!俺、サイダーがいい!!」
チャリンチャリン。小銭を投入。
拓がボタンを押すと、ガシャンって、サイダーがでて、ピピピピピと電子音が続いた。
キンコンキンコン。
「あー!当たりだ!!」
慌てて拓がボタンを連打したら、自販機の誤作動でサイダーがゴロンゴロン次々と出てきて焦る。
「出過ぎ出過ぎ!」
ふっ。
その時、何かが私達を見ている気配がした。
「何?」
殺気立って辺りを見回す。
ビニール袋に擬態した低級霊がにたり、と笑った。
"増えると嬉しいのか?"
「うわああああ」
拓の叫び声に、見ると、拓の身体が2つに分裂しようとしていた。
「きゃあー!拓ぅ!!!」
さらに4つへ。8つへ。時間の経過とともに増え続ける。
私は本山でもらった黄色い鳥を御札に変化させて右手の人差し指と中指で挟んで持つと、覚えたての呪文をおぼつかない感じで唱えながら低級霊に投げた。
命中。
分裂した拓の身体が、統合してゆく。
"なんでだよう、いいことしたのになんでだよう"
低級霊がのたうち回る。
拓が一つの下半身に二つの上半身のままとまってしまった。
「お願い。拓を元に戻して」
"そうしたらなにかご褒美くれる?"
「何が欲しい?」
"ジュース"
私はホッとして戒めを解いた。
拓の身体が正常に戻る。
サイダーを一本手にとってプルタブを開ける。それを差し出す。
低級霊は美味しそうにサイダーをゴクゴク飲んで満足して消えた。
「みんな、喉乾いてんだな」
拓の言葉に思わず吹き出した。
「なんだよう」
「だって、びっくりしちゃって」
「おいおい」
サイダーの缶を集めて袋に入れて、どっちにしてもぬるくなったら飲めないね、吹き出すだろうね、と言いながら歩いていった。