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試練の後の試練

新居に引っ越してはや一週間。ようやくwi-fi環境が整いましたので更新です。




〈1stボスが討伐されました。初回討伐につきスキルポイント『5』を進呈します〉

《《“楽園の要石 イルドヴァース”が討伐されました。討伐者は、PN“アレクサンダー”、“スクアーロ”の二名です。以降、このボスは弱体化します。また、封印の要石が破壊されたことにより、周辺モンスターの弱体化が解除されます》》


 ボス討伐の直後に、そんなアナウンスが届けられる。

 いつものシステムアナウンスとは違い、全プレイヤーに向けた運営からのメッセージだ。言うなればそれはワールドアナウンス。つまりボス討伐者が誰なのか、この瞬間に全プレイヤーに知られてしまったわけである。


「ワールドアナウンスですか。運営も粋な計らいをしますねェ」

「MMOならではのサプライズだな」


 他プレイヤーと常に同じ世界線にいるからこそ、こうしたワールドアナウンスには違った意味が出てくる。……前作まではワールドアナウンスと言えば他プレイヤーの侵入がほとんどだったため、若干苦手意識があることは伏せておこう。


「しかし先程のボス。イルドヴァースでしたか? 妙なことを言っていましたねェ。私達を亡者だとか」

「……恐らく、まともな思考もできていなかったのだろう。『亡者を倒す』という思いだけで、かろうじて動いていただけなのやもしれん」

「その自分すらも亡者化していたというのは何という皮肉………いえ、亡者化していたからこそ、こうなったのですか」

「亡者になりながらも、最後まで使命に殉じたのだ。自分を封印の要石にしてまでな。……立派な生き様じゃないか」


 これが最初のボス。……もう一度言う。これが最初のボスである。

 理解すればするほど、やるせなさと虚しさがこみ上げてくる。彼が正気な状態であれば、どれだけ心強い味方になったことか。

 本当に、この運営は初っ端から重い展開でぶん殴ってくる。


「む…? あれは何だ?」


 ふと目を向けてやれば、ボスが居た広場の中央に小さな火が浮かんでいた。両手に収まりそうなくらいの小さな火。そこに燃やし尽くすような熱はなく、ひと肌のような温かさを感じとれた。

 近づいてみれば、吸い寄せられるように手元に寄って来る。両手を差し出せば灯火はその手にすっぽりと納まった。


〈イルドヴァースの“生命の灯火”を入手しました〉


「どうでした? 何かのアイテムでしたか?」

「ボスの“生命の灯火”というアイテムらしい。……貴公、これをどう見る?」

「そうですねェ……経験値化アイテム、武器強化アイテム。色々と考えられますが、最初の街手前のボスと考えると、ストーリーのキーアイテムでしょうかね」


 スクアーロの考えに、なるほどと頷く。そもそも事前トレーラーでもロクに世界観の説明もなかった今作。プレイヤー達はとりあえず最初の街を目指しているが、具体的にどうすればストーリーが進んでいくのかわかっていない。

 事前トレーラーにあった『使命を果たせ』という言葉。その内容もまるでわかっていないのを見るに、この“生命の灯火”というのがストーリー攻略の鍵になってくるのだろう。


「しかし問題はこれどうやって持ち運ぶか、何ですけどねェ。両手が塞がるとなると、かなり厄介ですよ」

「確かに素手で持つというの手段もあるが、折角だ。ここは文明の利器を使おう」


 ストレージをざっと漁る(スクロール)。枯れ木の枝やら草やら、とりあえず燃やせそうなものを手あたり次第にピックアップして外に出していく。要るかどうか微妙だったが、ここに来て攻略の片手間に拾ってきたものが活きてくるとは何がどう役立つかはわからない。

 出した中から手に馴染みそうで、ちゃんと火がつきそうな枯れ木の枝を選択する。長さにして50cm。まぁ、使い勝手は悪くない。


「松明ですか。それなら片手は空くので素手よりは便利そうですねェ。……しかしアレクさん、松明は文明の利器と言っても人類文明黎明期の代物では?」

「何時如何なる時代であろうと、文明の利器に変わりはあるまい?」

旧石器時代(原始人)と大差ないですよねェ、それ」


 まぁ何はともあれ、両手が塞がるよりはマシだろう。

 灯火を松明に移して、空いた片手に斧を装備する。斧の操作に慣れておいてよかった。


「おっと、より蛮族味が増しましたねェ」

「洞窟から着の身着のままに飛び出して倒した敵から装備を剥ぎ取っている時点で、全プレイヤーは蛮族だと思うのだが?」

「それを言ったらおしまいですよ」


 そんな益体もないやりとりをしつつ、広場の外へ移動する。だが、門に近づくにつれて、何やら騒がしさが増してくる。


「……何かあったのか?」

「皆目検討もつきませんねェ。プレイヤー同士の諍いでしょうか」


 と言っても、このゲームの民度はそこまで悪いとは考えにくい。……他プレイヤーに妨害されるのが如何にストレスになるのか、それはプレイヤー自身が一番よくわかっているはずだからだ。

 ならば原因はそれ以外。……このまま出るのは危険と判断し、一旦門の端によって聞き耳を立てる。


『おいいいぃぃぃ! 敵の狂暴化具合が半端ねぇんだが!?』

『うっわスケルトンの数が倍近くに…あーっ!』

『だ、ダインんんん!?』

『全体的に攻撃力が上がってるぞ! HP管理に気を付けろよ!』

『おいちょっと待て骨助、物陰から槍を突き出すのは卑怯だろ!』

『あああああああああああああああああああ!』


「………」

「………」


 聞こえてくるのは阿鼻叫喚。プレイヤー達の断末魔。

 その節々からこの先の地獄具合が伝わってくる。そう言えば、ワールドアナウンスの中で見逃していた一文があったような気がする。


「確かに、周辺モンスターの弱体化が解除されます、とありましたが……」


 言葉尻から伝わってくるスクアーロの絶望感たるや。ボス戦前のワクワク感は完全に鳴りを潜めている。


「さて、我はこれと似たクエストを別ゲームでやった覚えがあるが。貴公はどうだ?」

「えぇ、えぇ。私もとても覚えがありますねェ」


 名を、丸鶏の卵納品クエストという。

 複数の卵を納品するも一つ納品する毎に経路が削られ、小型モンスターが軒並み狂暴化してプレイヤーに襲い掛かり、大型モンスターも乱入してくるという鬼畜仕様。しかも卵は両手持ちだから武器を持つこともできず、ローリングすれば卵が破損してやり直し。スタミナが切れて動きが鈍れば小型モンスターに嬲り殺しにされて卵ロスト。大型モンスターから逃げ切ったと思ったら後方から遠距離ピンポイントスナイプブレスで吹き飛ばされるという、何ともストレスのたまるクエストだ。

 そしてここにきて、トレーラーの内容も頭を過る。


「確かトレーラーでも言われていましたねェ。……亡者は生者を妬み、生者を襲う、と。」

「そしてこのアイテムは“生命の灯火”、と」


「………」

「………」


 無言。ただただ無言。つまりこれを持っているプレイヤーは積極的に狙われるということ。しかもストーリーのキーアイテムになりそうだから、絶対に手放す訳にもいかない。


「「――ァ……」」


 胸中に渦巻くは達成感、疲労、絶望、怒り、恨み。陰も陽も合い合わさり。混沌と化した感情が逃げ場を求めてせり上がり、それは一つの言葉に集約して発露された。


「「ファッキュー運営ィーーーッ!!」」


 もはやこうなったら理解は不要(ヤケクソである)

 全ての衝動を運営への恨みへと昇華しながら、二人でモンスターの蔓延る森へと走り出した。



◆◇◆◇



「各人、ワールドアナウンスの内容は聞いたな?」

「もち」

「ボスの名前は“楽園の要石 イルドヴァース”」

「そんでもって討伐者のPNは“アレクサンダー”、“スクアーロ”」

「この2人から情報を聞けばいいんだねー?」


「そうだけどそうじゃないだろお前ら!」


 PN“ニクス”は的を射ているが綺麗に重要事項からズレた内容をぬかすパーティーメンバーに声を飛ばす。

 場所は始まりの街“ニヒレ”の門の前。彼らは所謂先行組であり、過去作からの経験からボスをすっ飛ばして最初の街に入り、装備を整えることを優先したプレイヤー達だ。

 しかし装備を整えいざ出発、というところでボス攻略のワールドアナウンスを聞かされて出鼻をくじかれた彼らは、一先ずボスの情報を得るために件の討伐プレイヤーに接触を試みていた。


「ったく。……最終目的はそれだが、問題は通常エリアの敵が強化されたことだ。敵の強化具合はまだ未知数だが、正直落ちたら再度の合流は難しいだろう」


 ただ、その前に立ちはだかるのが敵の弱体化解除だ。接触したいのだが、果たして無事合流できるのかが最大の問題となっていた。


「だから全員油断はするな。一人が無理なら二人で、それでも無理ならパーティー単位で対処する。接触後は例のプレイヤーを死なせないように街まで護衛して、リスポーン位置をここに変更させる。……いいな?」

「おけー」

「うい」

「りょ」

「はーい」


 やる気の無さそうな返事だが、やることはきっちりやるし実力は確かなメンバーだ。人間性はさておいて、ニクスはそこは信頼していた。


 そんな彼らの様子を、街の住人(NPC)たちは遠巻きに窺っている。使徒であることはわかっている。世界を救うために神が遣わした者たちであることも知っている。

 彼らの他にも幾人もの使徒たちがこの街に訪れている。だが、その中でも一際異彩を放っている(・・・・・・・・)のが彼らなのである。他のプレイヤーがまだ常識の範囲内であるからこそ、その常識から少しずれている彼らからは一歩距離を置いているのである。


「さぁて、では行く…ぞ……?」


 そうしてニクスが号令を掛けようとした矢先、門の向こう側で誰かの声が聞こえた気がした。しかものっぴきならなさそうな声。何かを察した彼らはすぐに門の外に出たが、そこで思わぬ者に遭遇した。


「ぅおおおおおおおお!! 走れ走れぇ!!!」

「スタミナ管理が地獄ですねェこれ!!」

「つーかどーすんだよ後ろの奴ら!?」

「知らね。取り敢えず門まで突っ走るしかないっしょ」

「おうお前ちょっと足止めしてこいよ」

「はぁ!? リスポン更新地点が見えてんのにするわけねーだろ!!」

「知ってた」

「おうお前ら喜べ! ニクス兄貴がヘルプに来てくれるらしいぞ!!」

「先行組のリーダーか!!」

「よしきた。これで勝つる!!」


 この街に向かって突っ込んでくる何十人ものプレイヤー達。先頭を走るのは松明を掲げた山賊のような恰好のプレイヤー。そしてそのプレイヤーの後ろには、夥しい数の敵の姿が見える。森を浸食する彼らは宛ら軍隊アリのよう。その中から聞こえてくる自分たちなら何とかしてくれるという期待の声。


「……なぁにあれぇ?」


 そんな情報過多な光景を前にして、先行組リーダーの思考は吹き飛んだ。






【最初の街は】DERO攻略スレ4【楽しさで一杯】

1.名無しの使徒

ここはDERO攻略スレです。

同社製の他作品スレはこちら。

前スレ:http://**********


>>980 次スレ頼む



376名無しの使徒

おおおおおおおおおおおおお



377名無しの使徒

敵が多い!!


378名無しの使徒

不意打ち多い!!


379名無しの使徒

殺意が高い!!


380名無しの使徒

初日でこの地獄は草も生えない


381名無しの使徒

もとより草は枯れてるじゃん


382名無しの使徒

いやいや、ボス倒したら周囲の敵が強くなるとかどんな鬼畜仕様よ


383名無しの使徒

ワイ先に街に着いた先行組。安全地帯から高みの見物


384名無しの使徒

>383テメェそこから引き摺り下ろしたろか?


385名無しの使徒

ひぇっ


386名無しの使徒

でも敵が強化されてるのはアポストル山脈周辺だけっぽいな。街から先に偵察に行ってるけどボス討伐前後で敵に変化はないで


387名無しの使徒

>386ほ~ん。そうなんか。……まぁ、その情報は今何の役にも立たないけど


388名無しの使徒

>386大半のプレイヤーがまだ最初の街にすら到着してねーんだわ


389名無しの使徒

>386だから今重要なのは最初の街までの敵が一斉に強化されたってことなんよ


390名無しの使徒

ボッコボコで草。………後で情報掲示板の方にアップ頼むな


391名無しの使徒

>390お前の優しさに涙が出るわ


392名無しの使徒

これ、攻略できるの?


393名無しの使徒

もうなりふり構ってられないから、人数掻き集めてフルパーティーで連携しての擬似レイドするっきゃないか


394名無しの使徒

それしかないかぁ


395名無しの使徒

んじゃ、取り敢えず近くにいる人で組んで順次合流してくか


396名無しの使徒

まだ山にいる組は一度広場に集合な!!


397名無しの使徒

りょ


398名無しの使徒

おかのした


399名無しの使徒

新種がいないだけマシだな


400名無しの使徒

ここで新種出たら絶望して吐く


401名無しの使徒

オロロロロロロ


402名無しの使徒

>400どうしたぁ!! どこかに新種が出たのかぁ!?


403名無しの使徒

いや、回復アイテム作ってたら失敗して、でもものは試しに食ってみたらバッドステータスついただけ


404名無しの使徒

>403……こいつ一度キルしていい?


405名無しの使徒

あ、>403を見つけたわ。街の外に放り出しとけばいい?


406名無しの使徒

それでいい


407名無しの使徒

あ、ちょっ。待て、ああああああああああ!!


408ニクス

まさに地獄絵図


409名無しの使徒

>408ニ、ニクス兄貴っ。ニクス兄貴じゃないか!!


410名無しの使徒

先行組リーダーが動いてくれるのか!?


411ニクス

流石にこれはヘルプに入らないとマズいからな。それにこちらもボス討伐者から情報を聞きたい。


412名無しの使徒

ああっ! 噂のボス討伐者発見!!


413名無しの使徒

お、マジか


414名無しの使徒

周りのパーティーと合流して一緒に街に向かうわ!!


415ニクス

了解した。こちらもヘルプに行く




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