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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

召喚術師の異端者たち

作者: 天野 星屑

『決戦は明日です。各自、定められた準備をお願いします。』




第三軍団の指揮官、サキの声が、拡声魔法によって響き渡る。それを聞くのは、翌日に迫った決戦に備えて集結した1万の戦士、このロード·オブ·ワールドのプレイヤーたちだ。




ロード·オブ·ワールドはサービス開始から1年半を迎える人気VRMMOである。魔法あり、剣あり、建築あり、家事ありと、したいことは大抵何でもできるゲームとなっている。もちろん俗に言うPKも特殊なシステムではあるが、むしろ推奨されている形で存在している。明日から始まる決戦というのも、それが大きく関わっている。ことの発端は、ゲームのサービス開始から1周年を迎える半年前に運営がプレイヤーに行ったアンケートだ。



『1周年を記念して行う大規模イベントに関してプレイヤーの意見が聞きたい』




それが運営によって行われたアンケートだ。

それに対する返答は山のようにあったが、およそいくつかのグループに分けることができた。


1つは、サービス開始当初に行われた、完全に普段のフィールドからは独立した場所での1週間程のサバイバル。



1つは、プレイヤーによる闘技大会の開催。



1つは、多人数のプレイヤーどうしによる大規模戦闘。



そんないくつかの意見の中で運営が注目したのが、βテスト最終日に行われた拠点防衛戦だ。

更に運営は、そこに大規模戦闘や、建築、生産、集団による軍事的行動などの要素を取り込んだ上での、万単位のプレイヤー同士による、拠点攻防戦、すなわち、戦争だ。




俺は半年前に行われた、初めての会議を思い出す。


※※※※※※※※※※

「私が、今回この軍団の指揮官になった、ギルド『神の手』ギルドマスターのサキです。正直な話、100人以上が同時に参加する作戦を指揮したことは全くありませんが、できる限りの力をつくしたいと思います。皆さんの協力をお願いします」




ここに集まっているのは、第3軍団1万人の所属するギルドのギルドマスターたちである。この世界においては、ギルドというのは、地生人によって運営され、様々な依頼や取引の行われる冒険者ギルドと、それとは別にプレイヤーによって建てられた、パーティー、すなわち6人の戦闘単位、を超える数のプレイヤーによる互助組合のようなものがある。この場にいるギルドマスターというのは無論後者だ。



ギルドといってもひとえにまとめることはできないが、大きく分けて3種類ある。



1つは、戦闘攻略特化型ギルド。これは文字通り戦闘や攻略に特化しており、所属するプレイヤーはほとんどが戦闘職を持つ者達であり、その中で日々戦闘に対する研究や、攻略に向けた取り組みが行われている。



もう一つは生産職人たちによるギルド。こちらは前者と対象的に、所属するのはほとんどが生産職を持つプレイヤーだ、生産、すなわち武具やアイテムには、他の生産職の生産したアイテムが必要になることが多々ある。その際のアイテムの流通を効率良く行うために作られたのが生産ギルドである。これは、戦闘ギルドよりも多数のプレイヤーが所属する傾向にある。指揮官になったサキの所属する『神の手』も生産ギルドだ。ちなみに、指揮官は、有力なギルドのギルドマスターが立候補した上で、軍団の全プレイヤーによる投票で行われた。





最後の一つは、生産職戦闘職関係なく入り混じった、交流型ギルドである。もちろん生産ギルドには、アイテムを収集するために所属するプレイヤーたちもいるし、戦闘ギルドにも生産職は所属している。ただ、交流ギルドはそれよりもさらにゆるい関係であり、所属するプレイヤーたちが、自由気ままにプレイをしている。したがって、強力なプレイヤーになると戦闘ギルドや生産ギルドに所属を変えやすいのだが、交流型ギルドの中には強力な戦力を持つギルドもある。






以上が主なギルドの種類だが、この場には、全ての種類のギルドがいる。もちろんギルドに所属していないプレイヤーたちも軍団内にはいる。軍団の編成は全て運営が行ってくれたが、ランダムではなく、適切な戦力となるよう調整してくれたらしい。



また、PKプレイヤーたちも、姿を偽装することをシステムで禁じられた上で参加している。


そもそも、PKの欲を発散させ、普段のプレイを安全にしたいという発案理由があったことも運営からは発表されていたが、大規模な事態となって、そんなことはもうみんなの頭からは抜けている。




サキの話は続く。




『今回の大規模イベントに関してもう一度私から確認させていただきます。内容としては、1万人規模の軍団同士による、拠点及び領地の奪い合い、言ってみれば陣取り合戦です。準備期間はおよそ半年、その間に戦闘準備だけでなく、拠点の建設なども行わなければなりません。また、この特別フィールドのことについては、この場以外では一切の情報流出が運営によって禁止されており、違反した場合はアカウント停止などの厳しい措置が取られるようです』



この内容からでも、運営の気合の入りようがわかると思う。まずもって人数が1万。更に準備期間が半年である。ここまで大規模なプレイヤーによる共同作業というのも全く例を見ないもので、果たしてうまくいくのか、全く検討もつかない。



『まず拠点の設置ですが、まだ詳しくフィールドを見てないのでなんとも言えませんが、一応、城などに使用する石材などは用意されるということです。また、フィールドの広さは10キロ四方以上の広大なエリアで、モンスターの出現はないようです。とりあえず当面は、拠点設営に向けて、生産プレイヤーの連絡経路の確保と、戦闘プレイヤーによる戦闘の方針を模索していきます。生産プレイヤーの方は私が、戦闘プレイヤーの方は、『白銀騎士団』のカーラさんが中心になって行います。』




サキの隣りに座っていた美しい鎧の男が立ち上がり例をする。この世界でもトップを争うギルドのマスターである。





『このイベントの準備期間、ストーリーの進行を停止し、またレベルアップにある程度制限をかけるようです。おそらく運営側も、このイベントに集中してほしいようなので、早く体制を仕上げ、勝利を目指しましょう』




彼女の締めくくりに拍手が送られる。この演説は、この場にいない、ギルドマスター達以外のプレイヤーにも聞こえているはずなので、街の方でも騒ぎになっているはずだ。





※※※※※※※※※※



『各ギルド代表者は、最終確認を行います。三十分後に、会議所に集合してください』




声が響いた。拡声魔法によるアナウンスだ。それを聞いた俺は、食事の席を立つ。



「じゃあ、行ってくるわ」


俺が席につくギルドメンバーの二人に声をかけると、微塵の緊張も感じさせない声で返事が帰

返ってくる。



「行ってらっしゃい、トーイさん。みなさんの前では恥をかかないようにしてくださいよ。」


と、黒いローブをまといフードをかぶった男が言うと


「全くだ。お前はテンションが上がると歯止めが効かなくなるからな。気をつけろ。」




と、革鎧の男も言ってくる。前者がゼロ。後者がスカイだ。俺を含めたこの三人が構成員である俺たちのギルドは、名を『明星』という零細ギルドだ。

神の手は千人規模のプレイヤーを抱えており、『白銀騎士団』もそれに迫る人数を抱えていると考えると、圧倒的な差を感じるはが、そこはそれ、個性というやつだ。うちのギルドはこれ以上数を増やすつもりもないし、なんの問題もない。



「うっせ。もうしねえよ」



そう言ってその場を離れ、会議所に向う。今日から22日間の間、VRマシンのシステムを加速することで、現実での5分間でゲーム内の10日間を経過させるらしい。今日明日は、最終準備日であり、もうかなりのプレイヤーが各拠点に向かっている。



会議所に到達すると、もうほとんど揃っている。俺を見た一部がざわめくが、あんなのは無視だ無視。どうせまだ俺たちに与えられた役目が不満なんだろう。




『全員揃ったようなので最終確認を始めます。といっても、20日間の全てを確認するわけにも行きませんし、もともとそこまで計算通りに行くことでもないので、原則の確認だけします。8日目までにできるだけ敵の戦力を削いだ上で、敵の拠点を攻撃。それまでは各師団長の裁量に任せます。報告は怠らないこと。以上です。武運を祈ります。』




そう言ってサキが座ると、代わりにカーラが立ち上がる。



『俺から言えることは一つだけだ。この軍団は強い。どこにも負けないほど鍛えてきた。だから、、』


『勝つぞ』



その言葉に怒涛のような雄叫びが上がる。カーラのカリスマ性故だ。この半年間、カーラがいなければ、ここまでうまくは行かなかっただろう。人を惹きつける才能のあるカーラだからこそ、皆がついてきたのだ。



事前に確認をしっかりしてあったこともあり、会議はすぐに終わった。その先程食事をしていた店へと戻る。




戻りながら、この半年間を思い起こす。半年と言っても、この特別フィールドでは時間の経過が遅くなっているため、実質一年以上の時間が経過している。もちろん純粋にこの空間に居続ければの話だ。



最初の一ヶ月ほどは、連携などはほとんどうまく行っていなかった。皆がそれに慣れていないからだ。そこで、小規模から徐々に人数の規模を上げて戦闘訓練を行うことで、大規模戦闘に慣らしていった。


更に、その中でカーラにつぐ指揮官を7人選出それぞれの下に1000人ずつプレイヤーを分け、その中でも更に5人パーティを基準にして、2パーティーによる小隊、10パーティーによる中隊、20パーティーによる大隊、2大隊による連隊に細かく部隊を編成。戦闘総司令官のカーラのもとには3000の本隊がいる。



当初はあまりに軍隊的な仕組みに多少反発の声も上がったが、最終的には、あまりの多人数をまとめるためにも、こちらのほうが効率がいいとして、一般プレイヤーにも認められた。


その中で、100人以上の部隊の隊長は、普段のパーティーや、ユニオンというパーティー間の協力による戦闘とは規模の違う戦闘になれるため、用兵術を多少とはいえ学んだ上に、部隊同士で時間を合わせて演習を行って、部隊の運用を学んできた。したがって、現状俺たちのいる第3軍団、ちなみに第10軍団まで存在するのだが、はほとんど軍のような動きができる。しかも、魔法などの仕様を前提とした軍だ。


また、召喚術によって魔物を召喚する職業であるサモナーがいる部隊では、変則的な構成をすることで、他の部隊より大規模な戦局に対応できるようにしている。



かくいう俺たちもサモナーなわけだが、俺たち3人だけは配置が別だ。そこは俺たちの戦闘スタイルゆえ仕方がない。




更に、運営はほぼ一週間ごとに何かしらの修正を加えてきた。その中でも特筆すべきなのは、特殊役職である。具体的には、普段の職業とは別に、王、近衛騎士といった職業を、一部の人間が保有できるようにしたのだ。任命権は、指揮官であるサキに託されていた。



特殊役職はすべてで6個だ。王が1人、近衛騎士が50人、将軍が3〜9人、英雄が3人、密偵が50人、聖女が1人、賢者が1人である。それぞれに、特別な能力を持つ。




王は、王のいる戦場の自軍に、ある程度の攻撃力バフがかかり強化されるというもので、将軍は、指揮する部隊にステータス全体にバフがかかるといったものだ。バフといっても、そこまで協力ではなく、バフのかかっている部隊とそうでない部隊が戦っても、圧倒的な差はない。とはいえ、有利不利を決定づける程度には、役立つ。この役職の存在を見ると、運営側も部隊運用をしてほしかったのだろう。



次に近衛騎士。これは、王の周辺で戦闘をするときのみ、ステータスが1.5倍されるという役職である。まあ名前のままだ。



次に密偵。これは、特別な技術での変装を可能にされたプレイヤーであり、この12日間の間、敵軍への侵入を行いやすくされた者たちだ。間諜、スパイなど言い方は色々あるだろう。これを防ぐのは困難だと言っていい。1万人もいる中に1人ぐらい紛れ込んでもわからないものだ。




次に英雄。これは、武器を用いて戦闘するプレイヤーから3人選ぶことができる。もちろん、武器と魔法を併用しているプレイヤーでもいい。効果は、純粋に戦闘力の強化と、それに続く兵士たちの精神魔法耐性の強化だ。おそらく、士気の増大をイメージしたのだろう。戦闘力は、1対20ぐらいなら勝てるほど強化されている。更に、目立つように、オーラ?のような視覚エフェクトがつくようだ。運営は頑張り過ぎではないだろうか。




聖女は、回復魔法の効果が大幅に上がった魔術師だ。女性限定である。更に装備も専用の法衣となる。




賢者は、通常魔法の強化、魔力の増大、更に特別魔法を与えられた魔術師だ。これがバランスを崩さないように最も調整されたようで、何度も調整があった。最終的には、大規模な魔法ほど加速度的に魔力消費が激しくなるようになったようだ。



また、運営の調整によってフィールドも広がり、今では自軍側だけで40キロ四方ある。うちの軍団は、そこに主要拠点と、前線中規模拠点を4つ、小さな砦を10設置して、敵の侵入に対応するようになっている。







戦争のルールは簡単だ。敵の本拠点を落とし中のコアを破壊すれば勝ち。奪取した敵拠点、アイテムは使用可能、だ。また、このフィールド内では痛覚は軽減されるが、疲労は蓄積されるらしい。すなわち、野営なども考えないといけないということだ。




連絡手段については、時空魔法を持つ魔法使いのテレパスと、それを使用可能な魔法石で行われる。食料や回復薬は、各パーティーで分担して持っている。




更に、大事なのは、このフィールドでは1度死ねば、その後は観戦モードになって復活できない点だ。不必要に戦死者を出さないことが重要になる。




そんな中で、俺達のギルドの仕事は、単体での本拠点防衛である。俺達の力が、集団での運用には向かないからだ。このゲームでは、生産職プレイヤーも、何かしらの戦闘技能を保有して戦闘をするため、本拠点に残っているのは、俺達と支援のプレイヤー20人ほどだ。彼らの仕事は連絡のまとめであり、戦闘にはほとんど関わらない予定だ。一応、前線に索敵網を広げているはずなので、大規模な奇襲はないだろう。あるとすれば小規模な奇襲だが、さて。




「さてと、特に用意することもねえと思うが、どうする?」



元の食堂についた俺は二人に声をかける。この本拠点は一応普通の街と似た構造をしているが、流石に規模は小さい。まあ街を作るのは無理だ。とはいえ、人が少なくなると無駄に広くは感じる。今残っているのは、俺達と支援のプレイヤー、そしてカモフラージュの200人程のプレイヤーだ。彼らも、明日には出立して各部隊に合流する。



「僕は準備期間もここに残っています。術を練っておかないといけませんし。」



「私は前線で偵察を行う。戦闘開始から二日ほどで戻る」




今現在、40キロ四方で作ったフィールドは相手のそれと連結している。相手は第4軍団だ。相手の情報はなにもない。情報の流出が禁止されているからだ。戦闘開始しても、しばらくは出方の探り合いになるかもしれない。密偵が侵入できれば、有名なプレイヤーぐらいはわかるだろうし、戦力の配置もわかるだろう。丘あり森ありのフィールドはこちらも相手も同じだが、拠点の張り方すら同じはずがない。そう考えると、20でも短いのかもしれないな。




「わかった。俺は特に偵察任務はねえが、他の砦に行ってるぞ。サモナー連中に気合い入れてえしな」

サモナーには知り合いが多い。同業者の縁というやつだ。



「わかりました。マリアさんには僕から伝えておきます。いくらうちの防衛網が厚くても、突破されることはあります。二人の力は本拠点防衛まで隠さないといけませんから気をつけてください」




そういうゼロにうなずく。


そして、俺の掲げた拳に、スカイとゼロが拳を打ち合わせて、俺達は別れた。




※※※※※※※※※※




戦闘開始から10日後。俺は戦場を上空から見下ろしている。サモナーの共通スキル、ソウル·ポゼッションで召喚獣のスカイホークのミゥイに憑依しているのだ。戦場では、例のサモナーを擁する自部隊と、1000人ほどの敵部隊が交戦している。敵部隊は、パーティーごとに分散して戦う戦法をとっているようだ。それに対しこちらは、前衛の戦士職の連中が、50人隊ごとに壁を作り、大規模な集団で動いている。もともと、パーティーは戦士職から魔法職まで揃えた場合、足の速さが違うのだから行軍速度に差が出て、大規模な部隊ではうまく行かないのだ。それがわかっていたから、こちらはより大規模に運用した。




戦闘開始直後は、足並みの揃ったこちらの部隊が押していたが、時間が立つと様子が変わってきた。前線の壁が破壊されてはないものの、戦闘の中で分断され始めたのだ。相手の魔法職が追いつき、パーティーが整って、同数ずつこちらを戦闘に引き込もうとしているようだ。こうなると、大規模運用の意味がなくなる。




そこで、サモナー部隊が、召喚したモンスターと共に動き出す。先陣を切るのは、ウルフタイプや、猫型のモンスターだ。それに、人型のゴーレムや、鬼などのモンスターが続く。その一番うしろを、サモナーが支援としてついていく。この部隊は、各サモナーごとに、自分のモンスターでパーティーを組んでいるようだ。それが、前線が分断されていた部隊の代わりに敵と交戦に入る。戦力は拮抗しているようだ。その間に、今まで交戦していた部隊が、回復と、パーティー単位の戦闘に合わせて陣形を変えていく。サモナーを予備兵力として運用することで、戦況を操作しているようだ。その後、サモナー部隊と交代するように、はじめの部隊が交戦に入る。が、このタイミングで、相手も前線を入れ替えてきた。一旦回復させるつもりだ。とはいえ、両軍とも何人か戦死者も出ているようだ。メンバーを失ったパーティーが解散し、他パーティーに合流する。なれた動きだ。相手は相手でかなり訓練しているようだ。



ちなみに、今はサモナー部隊がいる隊であったのであのような立て直し方だったが、他部隊では、壁そのものを遊動的にするなど対策を行っている。




やがて、再び両軍ともに前線交代、かと思ったが、相手軍が一気に攻勢に出た。それに対し、こちらの軍は、最初戦っていたのとは別の部隊とサモナー部隊がガッチリ受け止めている。相手は、こちらにサモナー部隊がある以上戦力的にジリ貧だから攻勢に出たようだが、戦況を変えることが出来なかったのだろう、

後退していった。こちらの軍はそれを追撃しつつ、深追いはせずに軍を進めたようだ。そこで、俺の観察していた戦闘は終わった。おそらくあちこちで同様の戦闘は行われているだろう。




それを見届けた俺は、ポゼッションを解いて意識を、本拠点に戻す。近くでは、他の2人が憑依を続けている。俺とは別の部隊を観察しているのだろう。前線の確認をすることで敵の戦力を把握する。もちろん敵主力が温存されている可能性のほうが高い。が、それでも情報は重要だ。他にも、上空から敵陣を偵察して、わかった情報を、前線の各1000人隊長に、召喚獣に届けさせる。スカイホークのミゥイと、ワイルドイーグルのフェザーにはほとんど休みなく働いてもらった。俺の出せる飛行型で偵察に向くのがその2匹しかいなかったのだ。自分たちの食料から、いくらかの肉を出して与えると、美味しそうに食べる。用がなくなったらすぐに送還しても良かったが、しばらくは俺に止まらせて撫でることにした。



2匹は猛禽類である。したがって、鋭い鉤爪を持っているが、それがわかっているサモナーの大半は、鷹匠のように、肩や腕の先に分厚い革でできた止まり場を装備しているので、そこにとまっている。ちなみに右肩がミゥイで左肩がフェザーだ。2匹とも最初の頃に比べればかなり成長しているので、羽根が顔の側面をくすぐっているようにあたっていてこそばゆい。しばらく二匹をめでながら過ごした。




「ふう」

とゼロが息をついたようだったので、顔を上げてそっちを見る。



「どうだった?」




「微妙ですね。こちらの千人隊に対して相手は1500人近くいた上に英雄も一人含まれてましたからね。弓使いの英雄はやはり驚異的ですよ。こちら側が200人近く失ったあたりで後退して今は砦にこもってます。他の砦は200〜500人程度しかこもってなくても多少狭いので、800人入った砦はかなり狭いでしょうね。正直撤退したほうがいいかと。」



そういうゼロは俺の顔から少しずれたところを見ている。何を見ているんだ?



「そうか、、、お前の見たのは北と南のどっちの部隊だ?」




「中央です。」




マジかー。中央割られると拠点まで比較的に楽に入られてしまう。




まあ俺の考える必要のないことだ。俺は戦う用意だけしておけばいい。



そんなことより、だ。



「おいゼロ。あんま見んなよ。ミゥイとフェザーが怖がるだろ。」




そう言うとゼロは慌てたように目を外す。



「すいませんね。僕には縁遠い光景ですから、つい」




ゼロの職業は、サモナー職の中でもマイナーなネクロマンサーだ。ゼロしかいないのではなかっただろうか。彼は生活のうちに邪気を振りまいてしまうので、獣も逃げるし人には避けられるし、大変な職業だ。



「今に始まったことじゃないですからね」



クック

と自嘲気味にゼロが笑う。こいつはそれをわかっていてネクロマンサーを選んでいるのだ。力を得るために。



その後は、意識を戻したスカイと、3人で軽く雑談して時を過ごす。敵部隊が近づくまでは余裕がある。

気長に行こう。



※※※※※※※※※※





1500か、、、。少し多いな。1人500を受け持たなければならない。数で言えば俺が一番きついだろう。



「こっちの英雄が先に持っていかれたのが痛かったですね。相手方は用兵術などよりそこを重点的に練ってきていたようです」




ゼロの言うとおり、こちらの英雄はすでに一人しか残っていない。それに対し相手は全て健在だ。こちらが英雄と賢者を分散していたところを敵に狙われ、3人の英雄で囲まれてやられていた。2人目がやられた時点で策に気づき、3人目と賢者や聖女がやられるのは避けて終盤にもつれ込んでいる。逆に相手側は、早期に賢者と聖女を失っている。こちらは相手の賢者が参戦していた戦場においてこちらの猛将が敵部隊を殲滅まで追い込んだからだ。相手は、大剣を背負って最前線にたつあの男を見た時点で引くべきだった。人数も2000対1500では相手には分が悪かっただろうに。こちらの英雄をなんとしても減らすため他のところで気を引くという相手の作戦になんとか乗じることができたのだ。




「こっちの残りは4000、だったか?相手の防衛が2000だとして、拠点の形次第じゃあかなりかかるぞ。」



こっちの残存兵力は4000+3。相手は3500でうち2000が籠城、残り1500がこちらの本体を避けて進軍してきている。互いに、拠点を落としきられる前に落とし切るという意思が丸見えだ。



「ということは、この場は私達にかかっているということだな。」




そうスカイが準備をしながら確認する。敵は半日の距離に迫っている。ここは拠点の出口の近くだが、すでにスカイの召喚した飛行型のモンスターで一杯だ。



かくいう俺も、まだモンスターは出していないが、準備を続けている。



「ああ、相手の出方次第だが、一人あたり500人だ。止まるかわからんぞ」



全く、うちの本拠点は防衛設備をほとんど備えていない。野戦をするしかないだろう。もとからそのつもりだったが、数が想定外だ。



「密偵から報告、あと1時間で来るらしいわよ」



3人で話しているところにマリアさんがやってくる。彼女は今も情報と連絡の取りまとめをしている。今最もハードワークなのは彼女かもしれない。なにせ飛び込んでくる情報の整理に追われてよく眠れてすらいないようだ。



「了解ですよ。こうなったら出たとこ勝負するしかないです」




※※※※※※※※※※




敵軍は予想通り3つに別れた。3方向から攻めるつもりだ。それぞれの前に、スカイ、俺、ゼロが立ちはだかる。マリアさんの予想とテレパスによる情報だと、英雄が少なくとも一人はこっちにいるらしい。




「誰が引くかわからねえが、やるしかねえな"サモン·モンスター"」



ずっと準備していたのを使う。俺がしていた準備は、召喚魔法を使った上でそれを詠唱完了状態でキープ。一気に開放したのだ。これをした理由は2つあって、相手に威圧をかけるためと、単純に俺の呼ぼうとしていたモンスターの数が一度の召喚とMP、魔力では足りないからだ。都合4回MPを空にして召喚をキープし続けていた。結果、





250の魔法陣が俺の後ろに多重に展開、そこにモンスターが現れる。種類は、ウルフ種100ライオン、タイガーの上位モンスター合わせて100、他に人狼ワーウルフやキメラが合わせて50だ。これが俺の持つ全戦力である。



※※※※※※※※※※




トーイも召喚を行ったようだ。私は、既に召喚を行っているし、数も彼より上だ。相手に対する威圧を行うために演出もしている。恐れることはない。




「500か。英雄がいなければいいが」




またがるペガサスの歩を進める。頭上では、召喚した飛竜型モンスターと鳥型モンスターが1つの巨大な渦のようにうねっている。『天翼種の友』という称号を持つ私にしかできないことだ。その代わり他の魔法は大きく制限されているが。



敵が動き出すと同時に私は腕を振り下ろす。同時に、頭上の渦が崩れ、私の友たちが敵軍に殺到した。




「進め」





※※※※※※※※※※





トーイもモンスターを召喚、スカイは既に戦端を開いたようです。こちらは敵の布陣が僅かに遅れたので、そろそろ開戦、といったところでしょうか。



「『死にやすらぎを得る死霊たちよ。そなたらに今一度宴の時を与えん。我に力を貸せ』」



僕の詠唱と共に地面から這い出るように1000を超えるアンデッドが出現。上位モンスターの支配下に下位モンスターが存在する形での連鎖召喚。これがネクロマンサーの切り札です。



敵部隊の前が突撃してくるのに対し、私も司令を出す。




「敵を殲滅しなさい」




敵の巨大な雄叫びとは対称的に、骨を鳴らしながらスケルトンが、肉を引きずりながらゾンビが、コウモリに姿を変えヴァンパイアが、鎧を鳴らしながらデュラハンが駆ける。


そして前線がーーーーーーー



接触した。






※※※※※※※※※※




『あなた達の戦力が大きいのはすごいと思うけど、普段の戦闘じゃあ使いづらいでしょう?なぜそこまで数にこだわるの?』




そう問う先の質問に俺たちはなんと答えただろうか。



『さあな。最初はただカッコ良さそうだからとかそんな感じだったが。特に深い意図はねえよ』




『僕は、まあ託されましたからね。たとえ嫌われても、一人の人間の願いを叶えることができれば十分です。』



『私は単純に鳥が好きだからだ。彼らとともに大空を飛びたいと思った。それだけだよ』



攻略の為などといった不純な要素のない答えだったと覚えている。




※※※※※※※※※※





『進めぇ!』




敵の英雄は俺の正面にいるようだ。一人だけ騎乗しオーラを纏ったた男が、剣を振り下ろす。



それを受けて敵の前衛が駆け出した。



『オオオオオオオォォォォ!!』



それぞれの異なる叫びが、音のうねりとなってここまで届く。




叫びには、叫びで返さないとな。




「"獣化"」



おそらく狼やらライオンやらを召喚しまくっていたからだろう。この世界で、ほとんど持つ者のいない、『獣化』スキルを、俺は持っていた。




スキルが発動すると、牙が伸び、体が少し前傾に、そして筋肉が強化される。



召喚獣たちには事前に指示していた。俺が獣化を使った直後に、全力で吠えると。




ガルルァン!!




オオォォォン




ウルフやワーウルフは遠吠えを。タイガーやライオン、キメラ達は爆音のような咆哮を。




威嚇?いや、違う。




ただの、意思表示だ。




喰い殺す。




獣達の叫びの中で、俺も声を上げる。





アアアァァァ!!



形になっていない、けれど、獣にふさわしい叫びを。




戦闘が、始まった。




※※※※※※※※※※




敵の前衛はよく持ったほうだと思う。突っ込んでくる獣達を迎撃し、貫く。これが普段の戦闘だったら、なんの問題もない戦闘だろう。だが、これは大規模戦闘だ。衝撃をいなすために一人が下がれば、そこから前線の壁に乱れが生じる。壁が破られるのは時間の問題だった。俺も、いつものゆったりとした戦闘を捨てる。獣たちとともに、速く速く、ただ目の前の敵を切り裂き、突き進む。敵にも手練がいて、幾太刀かもらったが、駆け引きに付き合う必要はない。手数とパワーでごりおす。






眼の前の敵を押しどけ、蹴り倒し、ひたすら進む。狙うのは、敵の英雄だ。



「ベリト!ワーウルフをまとめてついてこい!」



俺の召喚獣の中でも最古参の一匹に指示を出す。



英雄は、俺一人では倒せない。力が違いすぎる。


だからこそ、囲って食いつぶす。




防壁を突破した俺達に、英雄が剣を向ける。



「英雄なんて洒落たものは俺の柄じゃないが、、、任されたからには、全力で行かせてもらう。」




馬から飛び降りた英雄が飛び掛かってくる。英雄のくせに喧嘩っ早いやつだ。戦闘力があるだけで、勇者みたいに品行方正、とは行かないわけだ。戦士ではなく暗殺者などを勇者にするのも面白いかもな。




勇者の斬撃を、右手の刀で受け、衝撃を受けないように自ら弾き飛ばされる。そこに、今度は人型に戻ったワーウルフ達が敵の英雄に飛びかかる。



「"方陣斬"」



英雄の斬撃が正方形を描くように走り、4人が切り伏せられる。一撃死はしないようだが、半分ほどHPが持っていかれたようだ。


周囲には既に獣達がなだれ込んでいる。敵の陣形は完全に崩れた。崩れたというよりは、陣形をパーティー単位に組み直すことで、各個撃破を狙うようだ。


「負けんぞ俺は」



英雄がそう言い放ってこっちに向かってくる。御託はいい。剣で語れ。




「せい!」



俺は拳でも足でも語るがな。




剣を弾くのではなく、流れをそらす。そして前蹴りだ。


「うっ、、」



うめいた英雄が離れようとするが逃さない。刀をその場に落として、剣を持つ腕を掴み、たったまま決める。もちろん相手の方がパワーが上だ。



だから仲間の力を借りる。俺の背中を掴むようにしてワーウルフが引きずり倒す。それに対して英雄は無理に耐えようとする。結果、



ボキン



そんな鈍い音がした。英雄の手首が折れたのだ。人は、全力を出せば体が壊れるから無意識のうちにセーブしている。英雄は、それが開放されたようなものだ。自分の力で自分を壊してしまったのだ。




そこからはあっという間だ。周囲にいた獣達が英雄に殺到する。数は力だ。あっという間に英雄を屠ることができた。




だが、戦力差は依然として大きい。



なら、暴れるまでだ。



「ウオォォォーー!!」



咆哮と共に獣化が進む。より体が前傾に。そして髪や爪が伸びる。いや、もう鉤爪か。猛ろ、全力で。俺は、獣たちとともに、待ち受ける人間たちに飛びかかった。



※※※※※※※※※※




「数が減らされた、がほとんど終わりだ」



残りの敵は50人をきった。こちらはまだ500匹近く残っている。空を飛べない人間にとって、魔法や弓という攻撃手段があるとはいえ、空を飛ぶモンスターはそれだけで優位に立てるのだ。




手のひらを下にして、手を目の前に掲げる。


そして閉じる。



「潰れろ」




残っていた敵が、モンスターに飲み込まれた。



※※※※※※※※※※




「全軍進撃。終わらせましょう」




新たに召喚したアンデッドが、抗う兵士たちを飲み込むように突き進む。僕たちの勝ちです。まあ、数で資料の軍団に勝てるはずがないでしょう。なにせ、倒れても魔力の続く限り無限に生み出せるのですから。それが、ネクロマンサーの他のサモナーとも一線を画す力です。



※※※※※※※※※※





その後、幾度となく行われ、ゲームの代名詞ともなった、超大規模戦闘、否、戦争。語り継がれる歴史の中にこんなものがあるという。



曰く、ある軍団に、3人のサモナーがいた、と。


曰く、彼らは1500に立ち向かった、と。


曰く、彼らは単独で巨大な部隊と互角に戦う力を有していた、と。





曰く、今もなお、彼らの跡を継いだプレイヤーたちがいる、と。





感想いただけると嬉しいです。改善点は、どうしたらいいかアドバイスまでいただけると嬉しいです。

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