呪い
棚の奥底に隠してある金を少し奪った。
許されることではないだろう。
学校に休みの連絡をした後、握りしめたその金で少年の食料を買いに行っていた。
「…………………」
いつもなら学校に行かせているだろう。今だって行かせるべきなのではと思う。
だが……
いろいろな考えが濁流のように湧いてくる。
その勢いは止まるどころか増していく。
どんどんどんどん…
それでも足は、前に進んでいる。
惣菜屋で弁当を買って家に戻った。
少年は布団の上で窓を…外を見ている。
「陽平君、今戻りました」
「………………」
どこか上の空な様子。
反応がない。
どうしたのだろう?
「………あっ!ごめん!」
少し近づいたところで気がついたようだ。
「学校を休むなんて初めてだからさ…えっと……少しびっくりしてて」
橘 陽平は学校を休んだことがない。
それは、少年が風邪を引いたことがない健康体であるというわけではない。
風邪を引いたとしても学校には行く。
重い足を踏み出すだろう。
学校を休むな。迷惑をかけるな。
そう言われているから。
少年にとって両親の言葉は呪いだ。
従わなければならない呪い
逆らってはならない呪い
それを今日破ったのだ。
第三者の介入
個体番号F.723……いや、ナツミによって
動揺するのも無理はないだろう。
両親の言葉は絶対なのだから。
「そうですか…。ですがその身体ではどっちにしろ体調を崩していたかもしれませんし」
「……でも、学校に行かないとお父さんとお母さんに怒られるよ」
…………………。
「もう連絡はしてしまいました。今日は、ゆっくり休みましょう」
自分のことは二の次。
とても優しい。
いい意味ではなく悪い意味で。
それもこれもこの家の環境のせいだが…。
「………………………わかったよ」
少年がそう言うまでにかなりの時間がかかった。
『統合 36%』
忙しい