芽生え
時計の針が進む音。
それ以外に聞こえるものはない。
昨日とは違い窓から暖かい日差しはさしていなかった。
いつ降ってもおかしくないだろう。
「陽平君、朝です。起きてください」
「………………………うん」
まだ、傷は癒えていない。
身体には、青を通り越して黒い染みを作っている。
「布団まで僕を運んでくれたんだ。ナツミありがとう」
「いえ、それが私の仕事ですから」
「そっか、でもありがとう」
少年は、笑っていた。
少年にとってこの日常は、
辛くもなく
苦しくもない
当たり前のものになっている。
個体番号F.723はそう認識していた。
「お父さんとお母さんは?」
「……先程、お出かけになりました」
橘 修と凛子は珍しく早朝から家を出ている。昨日の負け分を取り返すためだろう。
または、薬の補充。
もちろん今でも日本は麻薬を禁止している。
それでも薬をやってないと生きていけないから
と、
使用者は絶えない。
「そっか、じゃあ僕は学校に行くよ」
「……………………………」
学校に登校するのは学生の義務である。
行かせるべきだろう。
だがしかし
本当にそれでいいのか?
「………………………」
腕は枯れていて、肌は腐っている。
包帯に白い部分など皆無。
見るに耐えない。
「…………………………」
本当にそれでいいのか?
本当に?
……………。
「今日は…休みましょう」
自然と口から出ていた。
『ウイルス侵入 統合23%』
忙しくて少なめです