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『笑顔』

「ああああぁ、クソ、クソがッ」


怒りのみの醜い声を吐き捨て、ドンドンと近づく。

音は二つ。


「今日は、ついてないねナツミ」


目の前の少年は、笑顔を保ちうつむく。

なぜ笑うのか。

なぜ笑っていられるのか。

不気味だ。


音は次第に大きくなりこちらに近づいてくる。

そのたびに少年の口角は、徐々に徐々に上がって三日月を描く。


ダァァン!


扉が衝撃によって開け放たれ壁に叩きつけられる。


そこには、ぶくぶくと太り醜く立つ。

獣が二匹。

いや、二人か。


少年の両親。

橘 修

橘 凛子


もし、少年の家族写真を見せて

「この人たちは家族なんですよ」と言っても信じる人なんていないだろう。


「クソがッ、クソがッ、クソがッ…クソがァァ」


そんな雄の獣は、その醜い顔を更に歪ませて憤怒に染めている。

雌の獣も同様…。


日常茶飯事とは言わないが、こういう日は結構ある。

単に、パチンコで負けただけ。

そういう日は、こんなふうに


「おい……。お前だよ。陽平…。こっち向けよ……オイ!」


少年でその鬱憤を晴らす。


殴り蹴り殴り蹴り殴り蹴り殴り………。

ふさがりそうだった傷から血が流れ、枝のように細い腕に青いシミを作っていく。



「………………………………。」


少年は笑顔を絶やさない。


そんな光景を個体番号F.723は、ただ呆然と眺めていた。

床に赤が飛び散っても

小さなうめき声がその耳に入っても

無感情な目でただ呆然と…。



修と凛子に手を出すなと命令されているから。



「おい!ゾンビ野郎!」


どれだけ時間が経ったのだろう。先程から同じ光景を見ていると

獣が唸るような声でポッケから小銭を取り出し、投げつけた。

小銭は音を立てながら床に倒れる。


「酒買ってこい」











命令を受け、酒を買って戻ったら

ストレス発散……虐待は終わっていた。


少年は一応の処置をされていて、死んだように寝むり

獣共は、腕に注射器をあて愉悦に浸っていた。

酒は、ゴミに埋め尽くされた机に置いた。

そして


少年のもとへ向かった。



酷いものだ。

小さな子がこんなに仕打ちを受けるのだから。


思えば、この子はずっと笑顔だった。

いつもいつも

笑っていた。

朝起きて登校するときも

帰ってきて遊ぶときも

親に……殴られているときも



笑顔を絶やしたことはない。

そうあるべきかのように、『笑顔』という仮面を取り付けられている。






このままでいいのか?






…………………



個体番号F.723はただ


陽平の髪を優しく撫でた。


散歩しよう

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