個体番号F.723
朝の日差しが窓から入り込み少年の顔を照らす。
まだ、眠気が残っている少年は布団の温もりに身を委ねるが…。
「おはようございます。陽平君」
毛布の上からゆっくり揺らされ重いまぶたと共に身体を持ち上げる。
目の前には、ニッコリと微笑む男がいた。
身長は170あるかないか黒目黒髪の青年。
NBだ。
「おはよう。ナツミ」
ナツミ。この男……NB、個体番号F.723の名前だ。
少年…橘 陽平がつけた名前。
つけたというよりは、もじったといったほうが正しいが。
「お父さんとお母さんは?」
「まだリビングで、就寝中です」
「……そっか」
まだ、若干だるい身体を背伸びしてほぐす。
起きて早々親が何をしているのか聞くのはもはや、日課。
というのも
橘 陽平の家庭は控えめに言って最悪だからだ。
父母共に就職もせずパチンコ通いを続け、酒を飲み……朝から晩まで腐った生活。
パチンコで毎日勝てるわけでもないので金銭的余裕はもちろんないし、それどころか借金まで背負っている。
ボロボロな小さい家に、ままならない食事。
これだけ聞いただけでも、哀れなものだとわかる。
が…
「ナツミ、松葉杖取ってもらっていいかな?」
「はい」
陽平の右足は動かないのだ。
「今日は、お父さんとお母さんが寝てたから良かったよ」
歯磨きをし、顔を洗い……学校に行く準備を済ませた陽平は靴を履きながら言った。
朝食は食べていない……。
「今日も…お父さんとお母さんを頼むよ……ナツミ」
「かしこまりました」
個体番号F.723は、微笑み陽平を見送った。
NBは優秀だ。
個体番号F.723は
A B C D E F
のランクでも最底辺だが、そこらの人間よりは遥かに優秀である。
個体番号F.723は、
重々しい扉を開き登校する小さな少年の陰りのある笑顔に気づいていた。
朝ってなかなか起きれないですよね。