6.やっと落ち着きました
カチャ…カチャ…コポコポ
あ、いい香り…紅茶かな?喉渇いたなー。
あーなんか身体ダルいなー。
えーと、わたし何してたっけ?
部屋の天井…かな、わたしの部屋と違う。
「ここ…どこだ?」
「あら、目が覚めたの?」
独り言のつもりで発した言葉に返事が返ってきて驚いた。どうやらベッドに横になっているらしいわたしは首だけ声の主の方に向ける。
「うわっ!超美人!」
「まぁ!ありがとう、嬉しいわ」
今度は心の声がダダ漏れだった…恥ずかしい!
気を悪くした感じは無いようで、ふふっと微笑むその女性は金髪碧眼の西洋人顔の美女でゆるくウェーブのかかった腰まである髪を軽く後ろで一つに纏めている。
くっ…!物凄い色気だ!わたしの理性が!
苦悶の表情を浮かべた(らしい)わたしを見て心配そうに覗き込んできた。やっやめて!キャサリン・◯◯・ジョーンズに瓜二つの顔を近付けないで!めっちゃタイプなの!女性とわかってても変な気分になっちゃう!
同姓相手に悶々としていると、二人を呼んでくるから待っててね、と言って部屋を出て言った。
何かを考えることも面倒でぼーっとしていると、すぐ扉が開きキャサリン(仮)と男性二人が入ってきた。
「よく眠れましたか?体調はどうです?」
「え?どちら様?」
「…記憶が混乱しているのでしょうか?貴方は湖に落ちたのですよ。覚えてませんか?」
はいはいはいはい!覚えてます、そうでした。その後すぐキャリーバッグの鍵開けて着替えて、予備の眼鏡も装着して…どうしたっけ?あ、確か馬車用意して貰って、きゃっほーい!馬車乗るの初めて~!って興奮して…揺られているうちに寝ちゃった…ん…だ。
「…覚えてます。思い出しました。…え?もしかしてあの時の変態お兄さんズ?!」
「変態は余計だ!」
「本当に見えていなかったのですね」
「ぼやっとは見えてましたよ?背の高さとか全体のフォルムは。声で男性とは思ってましたが顔のパーツの造形と配置までは…」
「…配置は人間だったらほぼ同じだと思うぞ…」
え~中心に寄ってたり離れてたりいろいろあるでしょ。なんか物凄く溜め息を吐かれてるんですけど。
「今は完璧に見えてるんだろう?」
「はい、バッチリ、はっきり、くっきりと」
毛穴まで!と言おうとしたけど全然見当たらなかった。クソッ!男の癖に美肌とか嫌がらせか!キャサリン(仮)様は…はっ!わたしの中で無意識に美女の格が上がっていく!キャサリン(仮)様は、まぁばっちりメイクはしてるもののスッピンも気穴シミ一つたりとも無いだろう。眩しくて目がシパシパしてきた!
「おい…俺達に向ける気持ち悪いものを見る目と、ルーシーに向ける神々しいものを見る目の差は何だ…」
「古今東西美女に甘いのは男性とは限らないのです。目の保養です。」
「保養とか言ってるわりにはシパシパさせてんじゃないか!ダメージ受けてんじゃねえか!」
え?お前もしかしてそっちの気があるのか…と言うような目を向けないでください。純粋に綺麗なものが好きと言うだけです。というか、キャサリン様はルーシーさんと言うのね!
「誤解しないでください。性的対象は男性です!」
「おまっ…!子供が性的とか言うんじゃない!」
変態お兄さん…変態の癖にウブなの?何で顔赤くしてんの?てか、まわりの二十一歳は大概の経験はしてるわよ…。わたし?聞かないで。
「あなた、お名前は?」
「あ…申し遅れました。カズサです」
ルーシーさん声まで神々しいわ!
紅茶は好き?と目の前に白く湯気が出ているテイーカップを持ってきてくれた。はぁ…いい香り!いただきますと言ってカップを受け取り一口飲む。生き返る~。
そうだ、ボストンバッグの中にお菓子入ってるんだよね。どうせなら紅茶はクッキーと一緒に楽しみたい。
キョロキョロと部屋の中を見渡す。鞄どこ?
「あなたの荷物はあちらにまとめて置いてありますよ」
「ありがとうございます」
指を指す方を見ると、窓の下に三つの鞄が並べられている。ベッドから降りようとすると変態敬語紳士はちょっと待っててくださいと言って持ってきてくれた。変態の癖に何てジェントルマン!
早速ボストンバッグからお目当てのクッキーを取り出しベッド脇のテーブルの上に置く。
「焼き菓子か?」
「はい。ただのクッキーですよ?どうぞ、皆さんも食べてください。日本のお菓子は市販の量産物でも美味しいですよ。紅茶はお菓子と一緒に飲まないと!」
「まあ!外国のお菓子ね!…っ美味しい!」
「良かったです」
ほのぼのティータイムはそこから一時間ほど続いた。




