3.人間の体は脆いですよ?
フワフワと未だ落下中のわたしは状況を整理しようと奮闘するが全く頭がまわらない。
そりゃそうだ、非現実的過ぎるし…。これはあれか?わたしの大好物のラノベ的展開か?異世界に召喚されました的な?聖女的な?…違うか。この銀髪発光美女の話だと不慮の事故感覚でこっちの世界に足突っ込んだみたいな…?別に喚んだつもりはないけど勝手にこっち来ちゃったみたいな?
そもそも何で人ん家の玄関先に『道』(?…とやら)を作ったんだよ。
「少し前はまだあの場所一帯は何も無かったのよ~。いつの間に建物が建ったのかしらぁ?」
人間はせっかちで嫌ね~と肩を竦めて欧米人のような大袈裟なリアクションをする。
おいおい、あたしのアパートは築三十年くらいだよ…。リノベーションされて新築の様に見えるけどさ。しかもアパートが建つ前は普通の民家だったし。あ、ここは友人の両親が大家さんで、アパートが建つ前は自宅があったと話していたから知ってるんだけど…三十年どころじゃないな。
全然『少し』前じゃないし。
結構な昔だし。
この銀髪発光美女の年齢が気になるよ。見た目十代後半っぽいけど…まぁ、どう考えても人間じゃないだろうな。自家発電する人間なんて聞いたことないし。
おーけーおーけー。こう見えてあたしは理解のある女だからね!幽霊も宇宙人も妖精も妖怪もなんだったら神様だっていてもおかしくないとする思考の持ち主だからね!目に見えるものが全てではないのだよ世の中は。
「えーと…、聞きたいことは山ほどあるんですが、とりあえず無事に着地出来るんですよ…ね?」
「そこは安心して!ちょうど真下は湖なの!」
「…へ?」
だから大丈夫!って親指立てて良い笑顔してますけど?!
「あ、あ、あの、ですね、わざわざ湖じゃなくて、このままゆっくり地面におろしていただけるとた、た、助かるんですが…?」
あああああああ…何だかとてつもなく嫌な予感しかしないんだけど。
「?でもこのままだと下に着くまで凄ーく時間がかかるわよ?…ああっ!そっか、荷物ね!水に濡れるのが心配なのね!」
違う!そこじゃない!そこじゃないのよ‼
未だに物凄く高い場所に浮かんでますからね?!あの水色の何か小っさいものが湖なんでしょ?!ここから放り出されたら地面も湖も衝撃なんか変わらないから!確実に死ぬから!最悪原形すらとどめてないんじゃないの?!
そんな軽くパニック状態のわたしに気付くことなく銀髪発光美女は尚も続ける。
「あなたの荷物には現状維持の守りを張っておいたから、外も中もどんな衝撃にも傷一つつかないわ」
「その素晴らしい能力、荷物よりわたしの身体に使ってくれませんかね?!」
わたしの必死の懇願は虚しく響いただけだった。
「それじゃあ良い空の旅を~!」
どこかの航空会社の機内アナウンスのようなセリフを吐くと、まるで風船を針で刺すように銀髪発光美女はツンッと人差し指でつつきパチンッと膜が割れ、支えが無くなった体は反転しあっという間に急降下を始めた。
ぐんぐんと地面が近づいて湖の大きさも確認出来るまでになり衝突に対する恐怖も大きくなる。
「ええぇぇぇえっ!うそでしょ~~~~‼これダメなやつよぉぉぉぉぉっっ‼」
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