23.タダより怖いものはないと言いますが
「あなた達は――特殊性癖の集団ですか?」
「……」
「……」
…はああああああっ!!聞き方間違えたーっっ!!
「……あ?」
怒ってるーっっ!!そりゃそうだよね!変態集団ですかって言ってるようなものだもんね!
あわわわ…こ…殺される?わたし、殺される?今こそ強力な守護霊様発動する時ですよー!
「いや…あの…その…」
「特殊性癖って…何の事だ?」
「ごっ!ごめんなさいぃぃい!口が滑っただけですぅぅ!目玉くりぬかないでぇぇ!せめて苦しまないように一思いに逝かせてぇ!」
もう終わりだ…。元の世界に戻ることなく、悲惨な最後で人生締めくくることになるとは…。
…あれ?わたしが御臨終になった時はお墓は誰が手配してくれるんだろう…。身内がいないから共同墓地とか?もし…もし最後の情けで希望を聞いて貰えるなら、灰になるまで燃やして、遺骨は見晴らしの良い丘とか山とかに散布して欲しい…が、宗教上の問題で火葬出来ないとかあるのかな?欧米は土葬が普通じゃなかった?いや、ここ欧米とは似て非なるとこだけど。
とりあえず一番避けたいことがある。
「あのぉ…、ちなみにこの国って鳥葬文化じゃない…です…よ…ね?」
「さっきから心の声だだ漏れだが、何で死んだ後の心配してんだよ。性癖云々は何のことかよくわかんねーが、お前の聞きたいことは、今巷を騒がせている誘拐事件のことだろう?」
気を使わせてしまったー!向こうから核心突いてきてくれたー!
…でもチャンス。少しでも有益な情報を聞き出してレイナルドさん達に残せたら、それに越したことはない。
「…この数日のうちに孤児院から欠損の特徴のある子供達が連れ去られたと聞きました。ここにはそういった子供が多くみえます」
「だな」
「それに、ツンデレ少年が―」
「誰だよ」
「SともMともとれる、あのツンデレの少年です」
「聞きなじみねー単語が三つに増えたぞ…」
「…ツンデレ少年は、最近は引っ越し準備で忙しいんだとも言ってました」
「説明放棄してスルーしたな?」
「そこで確認です。あなた達は人身売買を目的とした人拐い集団ですか?そして次の土地に移動してまた同じことを繰り返そうとしている…?」
…聞いたー!ついにわたし聞きましたー!快挙です!自分史上最も緊張の走る質問、遂にやり遂げましたー!ヴィクトリー!
…等とバックバックする動悸を少しでも落ち着けたくて、心の中でも馬鹿みたいに自分を持ち上げてみた。初めて『救心』の必要性を感じたわ。
「お前はどう思うんだ?」
逆質問ときた。
「…うーん、少なくとも子供たち自身は無理矢理拐われてきたという認識はないみたいです。だから正直そんな凶悪な人には思えません。…が、」
「が?」
全く信用出来ないのよー!犯罪者あるあるでよく聞くでしょ?加害者を知る周囲のインタビューあるあるよ?!『子煩悩でとてもそういうことをする人には見えませんでした』とか!『いつも気さくに挨拶もしてくれて礼儀正しい人でした』とか!『学生の頃はムードメーカータイプでクラスの人気者で』とか!普段はとても犯罪を犯すような人間ではありません的な!まさにヒューゴさんです。学生の頃は知りませんが。
「……」
「まあ、いい。ここに連れてきた奴には隠すことはしていない。お前の言ってる人拐い集団は俺達だ」
「?!やっ…やっぱり!特殊性癖で…」
「いやそこは違う。断じて違う」
「え…だって…身体的特徴の人ばかり集めてるって…子供ばかり大量に拐ってきたり…」
「そこだけ取り挙げるな!」
そこだけしか話題に上がってないし。
「じゃあ何が目的ですか」
「もっと単純に考えられないか?」
「単純に…とは?」
「手足の無い奴には手足を与える。単純だろ?」
「無償で?」
「そうだ。だから義手や義足をつけてやった奴らには最後に確認を取ってるぞ。不自由の無い身体を手に入れて、元いた場所に戻るか、それともこのまま俺達に付いてくるのか」
「そんなの…元いた場所に戻るに―」
「決まってるって?」
ヒューゴさんの声色が急に鋭く感じた。目は変わらず穏やかに弧を描いているが、瞳の奥は仄暗い。変化についていけないわたしはただただ黙って見つめていた。
数時間にも感じる沈黙は実際は三十秒程だったと思う。吹き抜けになっている中庭は密室ではないはずなのに、空気が張りつめて酸素が薄くなっていくような息苦しさだ。
ただただ表情を窺うように見ていると、キーンと微かに耳鳴りがしてそれと同時にヒューゴさんの片眉がピクリと動き、先に口を開いたのはヒューゴさんだった。
「…ふーん。どうやらお前には俺達は必要ないようだな」
「え?」
「お前には心配してくれる存在がちゃんといるんだなって言ってんだよ」
ポンッとわたしの頭に置かれたヒューゴさんの手はグシャグシャと少し乱暴にでも優しく髪の毛を乱した。何すんだ!と上を見上げると、今までの表情から一辺して柔らかな雰囲気に変わっていた。うーん…変化についていけません。
「?よくわかりません」
「ははっ!すぐわかるさ」
何だかよくわからないが機嫌は治ったらしい…?『面白そうだから少しおちょくってやるか』と少年のような悪戯っぽい笑顔で呟いた言葉はわたしには届かなかった。
結局あの後、有力な情報を得られることなく終了した。『俺達に付いてくる意思は無いと確認出来たからな、もう戻って良いぞ』と言われ、小気味良い指パッチンを一つ鳴らすと中庭に入る扉の前にわたしは立っていた。追い出されたような形だ。本当に一瞬の出来事で、魔法ってすげー!と思わず叫んでしまった。
ところで、戻って良いぞと言う割には帰してもらえる気配がないのは気のせいか?
建物内を歩き回って玄関や外に出られそうな場所を探してみたけど一向に辿り着かない!むしろ、どこを歩いても必ず同じ場所に戻ってきてしまう。
持病の方向音痴を遺憾なく発揮して、気付かないうちに実は同じ廊下を進んでた?…いやいや、さすがにそれは気付くでしょ、わたし!
部屋や廊下の窓を開けて出ようと外に向かって飛び降りても何故か部屋の中にいるのだ。
これはもうアレだね、魔法だね。うん、帰しす気無いね。妙に納得した後は簡単に諦めがついてしまった。だって魔法に勝てる気しねー。




