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のんびり異世界留学日記  作者: 茉莉
21/27

21.連れ去られた所は…快適でした!




「おい、チビ。飯食い終わったか?」




 チビ…




「食後は紅茶でいい?カロッサジュースもあるけど」



 カロッサって何ですか…




「今日は何もしなくていいからよ、ガキどもの相手してくれよ」




 今日()




「おいっ!聞いてん――」


「どうしてこうなった?!」


「うぉおいっ?!何だよいきなり!びびったじゃねーか!」




 びびったのはこっちじゃ!

 三時間ほど前に目が覚めたと思ったら、見知らぬ人達からの厚待遇…。

 あれ?わたし、拐われませんでしたっけ?

 右腕を掴まれたと思ったら急に空間が歪んで?あっとゆう間に具合が悪くなったと思ったら、マジで嘔吐する五秒前に軽い衝撃と共に意識が遠くなったんだよね。その刹那『げっ!こいつ吐くぞ?!気絶させとけ!』『とうっ!』という会話が聞こえてきたけど…『とうっ!』でわたしを殴ったね?いや、痛いという感覚はあまりなかったから謎のツボでも突いたか?ここはひとつ…あとで痩せるツボがないか聞いてみるべきか…




「おい?大丈夫か?まだ具合が悪いのか?」


「いやいやいや、完食しておいてそれはねーだろ」


「ねーねー!紅茶?カロッサジュース?早く決めてー」




 だからカロッサって何?




「えーと、じゃあ紅茶で…」




 了解~!と笑顔でキッチンの方に走って行く少女の可愛いこと!つい、自分の置かれている状況を忘れてほわほわしてしまう。

 自分でも分かるくらい目尻をだらしなく下げながら少女が行った先を見ていると、後ろから頭を小突かれる。




「おい、そこのブス」


「激しく同意」


「即答…そこは怒っていいと思う」


「事実ですから。で、何?誰?」




 小突かれた後頭部をさすりながら振り向くと、わたしより少しだけ背が高い男の子が見下ろしていた。昼食を食べていたところなので、椅子に座るわたしが見上げる形になる、必然的に見下ろされても仕方がない。そもそも自分から暴言吐いた癖に怒っていいと言う心理は何なの?Sなの?Mなの?いや、ツンデレか?ツンデレ属性なのか?

 幼い顔立ちながら切れ長のしゅっとした目はなかなかにイケメンなのよね。これでツンデレときたら同世代の女の子からはかなりモテるんではないだろうか?

 ギャップ萌え…いいね!




「何ニヤニヤしてるのさ…気持ち悪いな」


「お気になさらず!」


「…まあ、いいや。飲み終わったら中庭に来て」


「中庭?場所わからないけど…」


「今リンデが戻ってくるでしょ?その時にでも聞いてよ」




 あの紅茶を用意しに走って行った少女はリンデちゃんというのね。中庭に何かあるのか、言いたいだけ言ってさっさとツンデレ少年は戻って行ってしまった。








 紅茶を飲んでいる間、リンデちゃんはそばから離れず他愛のないお喋りをして過ごした。とってもしっかりした九歳の女の子で、最近ここの家族の一員になったと話してくれた。つまりは最近連れて来られたということなのだろうか?ここは人拐い集団のアジトでは無いの?殺伐としたイメージでいたからかなり拍子抜けだ。

 本当は詳しく聞きたいけれど、さすがに子供に『ここは人拐い集団のアジトですか?』とは聞けない。少なくとも『家族』と言ってるわけで、彼女にしたら悪い存在ではないのかもしれないし。


 紅茶を飲み終わったあたりで、ぐいぐいと腕を引っ張られながら辿り着いたのは扉の前。




「ここ開けたら中庭だよ!」




 ああ、ツンデレ少年が言っていた場所のことか。

 木製の扉をゆっくり開くと、そこには二十人弱くらいの子供が楽しそうに走り回っていた。日本で言ったら小学生から中学生くらいの年齢だろうか。年齢層が幅広く見える。

 えー…ますますわけがわからない。もしかして人拐いとは無関係なの?こんなほのぼのした犯罪組織ある?


 しばらく状況がつかめずぼーっとその光景を眺めていると、また後頭部に軽い衝撃があった。どうやらツンデレ少年に再び小突かれたらしい…。この少年は小突くのが趣味らしいぞ…と。




「来たね。じゃあ早速遊んで」


「…はい?」


「はい?じゃないよ。昼食の時に言われたでしょ、ガキどもの相手しろって」




 うん、言われた。確かに言われた。けど…この人数を一人で?!




「大人達は引っ越しの準備で忙しいんだよ。だから俺ら年長者が小さい子達の相手するのがここ数日の仕事になってるんだ」




 おおっと~?今サラッと引っ越しと言いましたね?ここが人拐い集団と関連する所ならマズイ状況なのでは?




「ほら、行くよ」




 おもむろに腕を掴まれた瞬間ドキリとした。

 これはもしかして…―




「あなたこれ、義手なの?」


 


 人肌の温もりとは違う温度と硬質さ。まじまじと見なくても感覚でわかった。

『生まれつき四肢に欠損がある子供達』そう言っていたのを思い出す。この少年は孤児院から連れ去られた子供の一人…?




「へぇ、義手なんて言葉知ってるんだ?これ最新の技術で自分の意思で簡単に動かせる凄い代物なんだってさ。市場には出回ってないって言ってたのに」


「とっても高価な物なの?」


「よくわかんない。でもここでしか手に入らないって。作ったのがヒューゴさんだしね、ヒューゴさんにしか作れないって」


「ヒューゴさん?」


「あんたに『ガキどもの相手してくれ』って言ってた人だよ」


「はいはい、わたしをチビ呼ばわりした男の人ですね」


「…おまえ、結構根に持つタイプだろ」


「それはもう墓に入るまで持ちますとも。なんだったら二回転生しても覚えてる自信はあるわね。根深い女、それがわたし!」


「もうホラーだな…」




 はい、聞こえません。

 ヒューゴという人はここの『家族』の家長のような存在でとても面倒見がいいみたいで、子供達から慕われているというのは間違いないらしいけど、でも良い人は人拐いなんて犯罪は犯さないと思う。






 聞きたいことは山程あったけど、わらわらとまわりに集まってきた子供達に囲まれて結局わたしは全力で相手をすることになった。

 もしかしたら、この子達もどこか身体が不自由な所があるのかもしれないと思って慎重にゲームを考え、かくれんぼにしてみたけど…まあ、案の定、この限られた中庭に二十人弱も隠れる場所なんてあるわけもなく。一ヶ所に三~四人固まるため『頭隠して尻隠さず』状態のカオスだった。

 気付かないフリをして探すのも疲れたので最終的に『だるまさんが転んだ』で延々と遊んだのだけど、初めての遊びだったのか終始子供達は大爆笑。あまりにも笑いが止まらないので腸捻転でも起こすのではないかとヒヤヒヤした。いや、起こさないけど。

 子供の笑いのツボが謎だ…。






 あっという間に夕方になり、夕食に誘われ、お風呂も入ることが出来て、与えられた個室に戻り一日が終わった。何この至れり尽くせり感は…。

 結局この日は何も聞き出すことは出来なかった。食事以外で大人と接触することがほとんど無かったから聞こうにも聞けなかったんだけど。

 明日の朝食の時に思いきって聞くべきか。へんに核心をついて逆上されたらどうしよう…とか、いろいろ不安はあるけど、いつまでもこの生活が保証出来るとも言えないし、『引っ越しの準備』が『逃亡の準備』だとしたら騎士団の人達がここを見つけてくれるまで何とか引き止めないと、とも思う。


 斜めがけの鞄から毎日記録している日記(言葉通り三日坊主で終わったけど…)とペンを取り出し、新たなページに書き足していく。今日一日で見たもの、子供と大人の人数、暮らしぶり、食事で出されたもの、そして現状…引っ越しは逃亡?

 もしこのまま騎士団の救助が間に合わなかった場合、このノートが何かヒントになるように、見付けて貰える場所に隠していけば少しは役に立てるかな?そう思って事細かに書いておく。


 眠りにつく瞬間ふと疑問が。




「…日本語って…読めるんだっけ?」





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